利益重視から売上高重視路線へ
──新しい中期経営計画の重点施策は何ですか。 梅田 「Progress2013」をテーマに、売上高の拡大路線に舵を切っています。以前の中期経営計画では、利益を重視していました。リーマン・ショックに端を発した不況の影響で、利益を出しにくくなったからです。無駄の多い、ぶよぶよな体質になっていたので、一度ちゃんとダイエットして、利益率の高い筋肉質の会社をつくろうとしたのです。利益が取れない案件は控えるなど、受注をコントロールをしてきましたし、研究開発費も抑えてきました。しかし、利益率ばかりを気にしていたら、今度は会社が成長できなくなります。筋肉質の会社がだいぶでき上がってきたので、次は会社の体格を大きくしようと考えました。ですから今期からは利益があまり見込めない案件でも売上高の拡大につながれば引き受けたり、研究開発費や宣伝費を増やしたりしているところです。多少、利益が減ってしまう覚悟はしています。
──中計の方針通り、今年度は通期予想を上方修正するほど売り上げが伸びていますが、とくに売れている商材は何ですか。 梅田 今年度は、ウェブERPの「GRANDIT」と、統合プロジェクト管理システムの「SI Object Browser PM」が好調ですね。
「GRANDIT」が売れているのは、外部環境の変化が大きな要因です。アベノミクスによる景気回復で、ERPの市場が盛り上がっているからです。「GRANDIT」は13社によるコンソーシアム方式なので、同じ製品を複数の企業が販売していますが、当社は、個別生産管理、繰返生産管理、継続取引管理という三つのオリジナルのアドオンモジュールを提供するだけでなく、「SI Object Browser PM」を組み合わせて提案することで差異化を図っています。コンソーシアムのなかで、当社は2013年に最も多く販売した企業として表彰されています。
──新製品開発の進捗はいかがですか。 梅田 昨年度末にO2Oマーケティングを支援するクラウドサービス「SI Mobile Portal(モバポタ)」を開始したほか、13年6月にはアプリケーション設計支援ツール「SI Object Browser Designer Ver.1.0」をリリースしました。どちらも発売したばかりなので、まずはいろんな企業に試験的に導入してもらい、要望を取り入れてから「Ver.2」を出して、本格的に拡販していきます。
また、14年末にもEC関連の新製品をリリースする予定で、現在開発を進めています。最近では、1社で複数のECサイトをもつ企業が増えてきています。しかし、1社で複数のECサイトを運営するとなると、店舗ごとに商品アップロードや、在庫情報の更新、データ分析などを行うのに手間がかかるうえ、全体が把握しづらくなります。そこで、複数のECサイトを統合して管理できるクラウドサービスを提供しようと考えているのです。
技術力を強みとしている当社の存在価値は、新しい製品を生み出していくことですので、M&Aで他社製品を取り込んで会社を大きくすることにはあまり興味がありません。
課題はマーケティング
──海外ビジネスでは、中国事業に力を入れておられますね。戦略を聞かせてください。 梅田 市場の大きさに魅力を感じていますので、ターゲットは中国の現地企業です。ソフト開発を手がけている大連百易軟件と独占販売許諾契約を結んでおり、彼らをディストリビュータにして、販売パートナーをつくって市場を開拓していく戦略です。昨年の6月にデータベース開発支援ツール「SI Object Browser シリーズ」の中国語版の販売を開始して、ぽつぽつと毎月注文が入るようになってきました。まだ中国市場での知名度はない状態ですが、大連百易軟件は、ウェブなどを活用して積極的にPRしてくれています。
──円安や政治摩擦問題など、中国でビジネスを行うリスクについてはどのようにお考えですか。 梅田 ビジネスと政治はあまり関係がないと考えています。中国の企業が、日本製だからという理由で導入を控えることはありません。日本の製品が売れていない理由は、認知されていなくて、マーケティングで負けているからだと思います。
──新たな挑戦に積極的ですし、業績も順風満帆のようにみえますが、梅田社長はどんなことを自社の課題として捉えておられるのですか。 梅田 マーケティングが弱いことです。欧米企業に比べて、日本企業はマーケティングが苦手とよくいわれますが、そのなかでも当社は苦手なほうだと思っています。
その理由は、マーケティングと営業の部署が分かれていないことにあります。同じ部署で両方やるとなると、当然、目先のお客様との商談や受注を重視することになるので、どうしてもマーケティングが弱くなってしまうのです。
また、販売代理店のフォローも同じ部署で行っています。当社はパートナー経由でのビジネスが7割方を占めていて、営業担当がパートナー支援・直販・マーケティングを一緒に行っているので、本当は部署を分けたいところです。しかし、当社は技術系の会社で、営業とマーケティング、パートナー支援の部署を分けられるほどのマンパワーをもっていないのが実際のところです。もっとマーケティングやパートナー支援を強化したいので、今後は人材を積極的に採用して、部署を分けることを検討します。

‘技術力を強みとしている当社の存在価値は、新しい製品を生み出していくことですので、M&Aで他社製品を取り込んで会社を大きくすることにはあまり興味がありません。’<“KEY PERSON”の愛用品>こだわりのネタ帳 二十数年間、同じタイプの手帳を使い続けている。常時、胸ポケットに忍ばせて、新製品などのアイデアが浮かんだら、その場ですぐに書き記している。年末には書き込んだネタを読み直し、一年を振り返るそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
梅田弘之社長は、おっとりとした人柄とお見受けした。落ち着いた口調で、質問にていねいに答えてくれる。野心家という雰囲気はなく、過去の失敗も含めて自らを「凡人社長」と謙遜するが、話をうかがえば、実は壮大な夢をもっているのだということがわかる。「もっと世界のたくさんの人に『あの会社の製品、いいよね』と評価してもらえるようになりたい。当社の製品は、エンジニアの一部の間で認知度が高まってきただけ。まだまだ満足していない」というように、志は高い。そんな梅田社長にとって、今回の東証1部への上場は目標に近づくための手段の一つにすぎない。だから、「自分が思っていた以上に、周囲の方々に注目していただいて驚いている」という。
インタビュー当日のオフィスには、取引先企業などから贈られたお祝いの胡蝶蘭が、所狭しと飾られていた。システムインテグレータのファンは着実に増え続けており、新たなステージでの活躍が各方面に期待されている。(道)
プロフィール
梅田 弘之
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
1957年生まれ、新潟県出身。静岡大学電子工学科を卒業後、80年4月に東芝に入社し、SEとしてシステム開発に従事。89年、住商情報システム(現SCSK)に転職し、ERPパッケージの企画・開発に携わる。95年、システムインテグレータを設立し、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1995年3月に設立。従業員数は130人(14年2月3日現在)。ECサイト構築ソフト、ウェブERP、設計・開発支援ツール、プロジェクト管理システムなどの開発・販売を手がけている。12年度(13年2月期)の業績(非連結)は、売上高が26億5700万円、営業利益が4億600万円、経常利益が4億700万円、純利益が2億4800万円。06年12月に東京証券取引所マザーズに上場し、14年1月22日、上場市場を東京証券取引所第1部に変更した。