日立システムズフィールドサービスは、「製品起点のビジネスモデル」から「顧客接点を起点とするビジネスモデル」への変革を推し進めている。保守点検や設備工事で日常的な顧客との接点をもつフィールドサービスの強みを生かし、顧客の業務をつぶさに観察。IoTをはじめとする新しい技術によってデジタライゼーションが可能な領域をみつけ出して、提案活動に結びつける。こうした取り組みによって縮小傾向が否めない従来型の保守・工事ビジネスを補って、さらに売り上げ全体を押し上げる新規ビジネスを伸ばしていく考えだ。
“製品起点”のビジネスは限界に
──まずは、日立システムズフィールドサービスへの再編の狙いについてお話しいただけますか。
日立システムズグループは、1960年代のメインフレーム時代からデータセンター(DC)の機器の設置、電源・空調の工事、保守サービスを手がけてきました。ただ、これまで設備工事は日立システムズファシリティサービス、IT保守サービスは日立システムズ・テクノサービスと別々の会社が担っていたのですが、より一体的なサービスを提供したほうが顧客の役に立ちやすいとの判断から両社を再編して、日立システムズフィールドサービスを発足させました。
実態としては、2014年に私がファシリティサービスの社長に就き、翌年からはテクノサービスの社長を兼務してきましたので、再編に至る一連の構造改革は今年で実質4年目ということになります。
──これは御社だけに限ったことではありませんが、ハードウェアの単価下落でIT保守サービスの市場規模も縮小していると聞きます。今回の再編と関連はありますか。
ハードウェアの単価下落は、ハードがまだ売れていることを前提にしたものですが、今は従来であれば顧客が購入していたはずのITリソースの一部が、パブリッククラウドへ移行する時代です。客先のハードが減れば、その分だけビジネスは消失しますし、ハードに関連した電源や空調の工事も減ります。従来型の“製品を起点”としたビジネスモデルは限界にきていることが、再編を含めた一連の構造改革の背景にあります。
──保守や工事はビジネスの特性上、対象となる“製品”ありきだと思うのですが、これをどのように変えるのでしょうか。
私は「顧客接点を起点としたビジネスモデル」に変えようとしています。当社の社名に「フィールド(現場)」と入っているように、日立システムズグループは全国約300拠点を展開し、何かあったとき、すぐ客先に駆けつけられる体制を構築しています。つまり、全国どこでも、いつでも顧客と“接点”をもてることを意味しており、これこそがグループのフィールドサービス事業の最大の強みであるとみています。
日立システムズグループは、IoTにせよ、AI(人工知能)にせよ、常に新しい技術を採り入れています。これら先端技術を身につけた技術者が客先に出向いたとき、「あっ、この業務は今だったらデジタライゼーションできるな」と気づき、すぐに提案に向けた行動が起こせる。顧客接点が多ければ多いほど、気づくチャンスは増えるわけで、このチャンスをどれだけつかむかが、今後の当社の変革のスピードを大きく左右します。
●緻密な顧客観察でチャンスつかむ
──「顧客接点を起点としたビジネス」は、確かにフィールドサービス会社ならではの強みですが、同業他社も同じような着眼点をもっているのではないでしょうか。どのように競争していくお考えですか。
端的にいえば、技術者の力量によるところが大きいですね。もちろんわれわれ経営側の資質やマーケティング力も問われます。振り返って考えると、例えば、顧客のサーバーやネットワークなどのIT保守サービスを効率化する流れのなかで、センターから遠隔で監視し、問題が起こるとすぐにリモートで修復する仕組みをつくってきました。人が現場に駆けつける時間を節約できますので、ダウンタイムを最小限にできるメリットは大きいのですが、競争力の原点ともいえる顧客接点がその分だけ少なくなって、痛し痒しの側面があります。
──もうすでに具体的な成果は出始めているのでしょうか。
そうですね。製造業の顧客の主要な資産の一つに「金型」があるのですが、よくよく観察していると、多くの製造業で金型が適切に管理されていない実態がみえてきました。「重量物で、しかも高価な金型が適切に管理されていないなんて!」と不思議に思うかもしれませんが、国内外の工場で分散して管理していたり、製造委託先に貸し出したりしているうちに、あやふやになることが少なくない。しかもそれを市販の表計算ソフトで管理しているケースも散見されます。
じゃあ、当社が資産管理台帳を制作する作業を請け負い、金型管理を適正化したらいいじゃないかということで、今年4月から製造業ユーザー向けに台帳をつくるところからBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)方式で請け負うサービスを始めました。
ある中堅部品メーカーでは、金型や工具、専用治具などの固定資産の点数が3万点ほどありました。台帳をつくって終わりではなく、カラーコードや無線タグを使って継続的に管理できる仕組みづくりがポイントとなります。重要情報が記載されている図面も、無線タグをつけて誰がいつ持ち出して、いつ返却したのかを記録する保管庫をつくって差し上げるなど、現場ならではのアイデアもふんだんに取り込みます。鍵を指静脈認証にすればもっと安全。新しい技術を使うことで、日々の業務をデジタライゼーションする場面がたくさん出てきます。
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