複雑化、高度化する情報セキュリティ脅威の最前線で活躍するのが、国産セキュリティソフトベンダーのセキュアブレインだ。メガバンクをはじめ国内180余りの金融機関に採用されている不正送金・フィッシング詐欺対策ソフト「PhishWall」は、同社の看板商材。こうした実績を持つ同社の強みは、「ベンチャー精神あふれたスピード感ある経営」だと、今年4月にトップに就いた青山健一社長は話す。ただし、常に変化するセキュリティ脅威に対抗するには、「プロダクト開発だけでは十分でない」ともみている。“青山体制”となったセキュアブレインの経営戦略を聞いた。
スピード経営とグループ連携を重視
──トップに就任して3か月が経ちました。青山体制となってどのような領域に力を入れていく方針でしょうか。
当社は、2014年に日立システムズグループに入った比較的若い会社です。ベンチャー気質が強く、スピード感ある経営が強み。この点を大切に伸ばしていきたい。
──主力商品の直近の状況はいかがでしょう。
当社は金融機関のユーザーが不正送金・フィッシングなどの詐欺に騙されないよう対策する「PhishWall(フィッシュウォール)」と、ユーザー企業のウェブが不正に書き換えられていないかをチェックする「GRED Web改ざんチェック」の二つを事業の柱としています。ほかにも未知のマルウェアの感染経路を追跡する米シスコシステムズの「Cisco AMP」などを取り扱っています。
おかげさまで「PhishWall」は国内180余りの金融機関でご愛用いただくまでになりました。ゆうちょ銀行や三井住友銀行、横浜銀行などに加えて、信用金庫や信用組合、カード会社などにもご採用いただいています。「GRED Web改ざんチェック」は、ビジネスパートナーによるOEM(相手先ブランドによる供給)も含めれば5000社ほどのユーザーに増えました。海外からの輸入商材が多いセキュリティ分野で、国産ソフトベンダーがここまでシェアを伸ばしてこられたことに誇りを覚えます。
──足下で課題があるとすれば、どのようなところでしょうか。
そうですね、当社の主な事業領域である情報セキュリティ領域はとても広く、自社で開発している製品やサービスだけで、すべてをカバーできるわけではありません。そこは日立システムズグループとしての総合力で、ユーザー企業のニーズに応えていきたい。
──グループの総合力とは、具体的にはどのようなものでしょう。
当社の製品は、基本的にコンピュータが自動的に脅威を検知したり、追跡したりするソフトウェアです。でも、実際の情報システムに対する攻撃は、例えば社員証を盗んでログインしようとするなどの物理面まで考慮に入れなければならない。最後には人の目でネットワークを監視するSOC(セキュリティ・オペレーション・センター)を使い、異変を発見したとき人の手で対処する必要もあります。日立システムズはこれら脅威全般に対応できる総合力を持っていますので、グループとの連携はとても重要なのです。
セキュリティには地域性がある
──IBMの「Trusteer(トラスティア)」など海外の競合製品もあると聞きますが、優位性はどのあたりにあるのでしょうか。
フィッシング詐欺やウェブの不正書き換えで検出率を高めていこうとすれば、国や地域ごとにチューニングしていく必要があります。インターネットに国境はありませんので、ある一定のレベルまではグローバル共通の対策でいけます。ですが、例えば日本の金融機関の、さらに個社ごとの特定のサービスを狙った攻撃は、日本向けにチューニングしていればより容易に防ぐことができるのです。
ほかにも日本人からみれば明らかに日本語がおかしい部分でも、そうした言語的な対応力が低い製品ですと見落としてしまう可能性もあります。
──逆に言えば、ちゃんと国や地域への対応力を高めていけば、海外でも十分な商機があるということでしょうか。
そうです。今はまだ国内中心で、これからの検討課題です。日立システムズはASEANなどに多くの拠点を展開していますので、グループ連携の一環としてターゲットとする国や地域に最適化する取り組みをするのも、一つの方法だと考えています。
当社は日本の会社ですので、まず最初に日本で活発なマルウェアの研究や対策から始まりました。これと同じようにASEANならASEAN特有のマルウェアの動きがありますし、これは欧州や米国でもそれぞれチューニングが違います。「ある一定のレベル」では、複雑化、高度化するセキュリティの脅威に打ち勝っていくことはできません。
──国内では警視庁をはじめ公的機関との連携も、早くから進めておられます。
警視庁とはインターネット犯罪の未然防止、被害拡大防止の領域で相互協力をする協定を14年に結んで以来、協力関係にあります。これは、当社がサイバー攻撃の調査・研究を行う「セキュアブレイン先端技術研究所」で、最先端のセキュリティ技術の研究を行っている技術力の高さが評価されたとも言えるでしょう。
具体的には、警視庁が15年当時で国内約4万4000台のウイルス感染端末を特定し、この感染端末からの不正送金被害を防ぐための対策「ネットバンキングウイルス無力化作戦」を実施しました。不正送金を実行できないように、ウイルスを無力化する警視庁の取り組みに、当社が技術的な協力をさせていただきました。製品開発とは別に先端技術の研究を行っていることと、国産セキュリティベンダーであることが当社の強みとなっています。
海外でもビジネスを伸ばそうとしたら、日本国内でやっているのと同じように、その国や地域の特性を研究していくことが大切だと捉えています。
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