固定電話がIP網に移行する2024年は、NTTグループにとって大きな節目となる。長距離電話を収益の柱の一つとしてきたNTTコミュニケーションズは、クラウド基盤を支えるデータセンターやネットワークセキュリティ、日系企業の海外進出支援といった伸びしろの大きいビジネスに軸足を移す。この6月にトップに就任した丸岡亨社長は「持ち前の技術やサービスをサプライチェーンやスマートシティ、教育などのデジタル変革支援に応用していく」と、強みを発揮できる領域を明確に規定して新たな成長の足掛かりを築く方針だ。
産業、街づくり、教育を優先
――NTTコミュニケーションズは、長距離電話を主体とした収益構造から転換し、クラウドベースのビジネスを大きく伸ばしています。新しい収益モデルをより強固なものにしていくために、どのような施策を打っていきますか。
NTTグループでは、24年に従来の固定電話をIP網へ移行する予定で、これが大きな節目になります。当社も長距離電話の売上構成比は年々減っており、代わりにクラウド基盤を支えるデータセンターやマネージド情報セキュリティの構成比が拡大しています。24年度(25年3月期)をめどにクラウド関連事業を全社の売上高の半分近くを占める規模まで成長させる計画です。
先代の庄司さん(庄司哲也社長)のときに、企業や社会のデジタル変革に欠かせないデータをシームレスに統合し、活用しやすくする「Smart Data Platform(SDPF)」を打ち出し、当社の成長の方向性を示しています。6月に社長の役目を引き継いだ私も、基本的にこの方向性でビジネスを伸ばしていく考えです。
――企業や社会のデジタル変革とは、どのようなものをイメージしていますか。
当社では、工場やサプライチェーンといった産業分野、スマートシティ・スマートタウンをはじめとする街づくり、ITを駆使した学校教育に加えて、健康や働き方、移動、顧客体験の七つをデジタル変革の重点分野と決めています。このうち、今年度は産業、街づくり、教育の三つに焦点を当てて、優先的に取り組んでいるところです。
――なぜ、その3分野を優先することにしたのですか。
まず産業分野では、当社のSDPFを活用して、サプライチェーンの完全デジタル化を推進できると踏んだからです。今般のコロナ禍では、取引書類が電子化されておらず、紙の書類を整理したり、押印するために出社する、いわゆる「ハンコ出社」が話題になりました。昔ながらの業務がコロナ禍を含む災害全般に対する弱点となったり、生産性を高める上でのボトルネックになっている可能性がある。
SDPFはデータを安全に流通させる仕組み「DATA Trust」を備えており、複数の企業が協調してデータを共有するサプライチェーンのような業界協調型のデジタルプラットフォームとして機能させることができます。サプライチェーンのデジタル化のみならず、例えば、CADデータを基にした調達先のマッチング機能や、工場の各種センサーからデータを集めてデジタル空間の中に工場を丸ごと再現するデジタルツインの手法によって、品質予測や異常検知などの高度化の実現を支援していきます。
リモート関連の新商材を拡充
――街づくりや教育の分野はどうですか。
スマートシティはNTTグループ全体として力を入れている分野です。米国ラスベガス市では、各種センサーから集めたデータを分析し、事件や事故の迅速な検知、予測に活用する仕組みを、当社を含むNTTグループが連携して提供しています。こうした知見を国内にも展開していきます。
今年3月にはNTT持株会社とトヨタ自動車が業務資本提携を行い、共同で「スマートシティプラットフォーム」を構築すると発表しました。当社も積極的に参画していきます。
教育については、特に公教育でのIT活用を促進する国のGIGAスクール構想などは大きな商機だと捉えています。当社は学校向けのデジタル教材をオンラインで提供する「まなびポケット」や、グループ会社のコードタクトが開発する授業支援ツール「schoolTakt」などの商材を持っています。20年4月に入社した250人余りの新入社員の研修を、このschoolTaktの企業版サービスを使い、オンラインで行いましたし、こうしたノウハウも教育分野に応用していきます。
――コロナ禍が収まるまでにはまだ時間がかかりそうです。ビジネスへの影響はどうですか。
旅行業界をはじめ大きな打撃を受けている業種はありますが、社会全体を見渡すと、デジタル化の推進を加速させようとしている経営者が多い印象です。在宅勤務や分散勤務によるリモートワークでも業務が止まることなく、むしろ生産性を高められるとしたら、コロナ後もそうした働き方が定着する可能性は高い。
当社では日本マイクロソフトのビデオ会議「Teams」で外線通話をする際、相手先に電話番号を通知できるサービスを7月末からスタートしました。会社の代表番号を通知できるようになるため、在宅で勤務しながら、オフィスの電話から外線電話をかけているのと同じ状況を再現できます。
ほかにも、立ち話感覚でのちょっとした相談や雑談ができるオンラインサービス「NeWork(ニュワーク)」を8月末に投入しました。リアルの職場では当たり前だった「ちょっとした会話」をリモートワークの環境でも実現して、チームワークを円滑にしたり、アイデアを生み出すきっかけをつくったりするサービスです。コロナ後の変化を見据えたサービスを今後も拡充していきます。
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