新型コロナウイルス感染症は、「人が集まり」「常に会話し」「換気が不十分」であるコンタクトセンターの在り方に大きな影響を与えた。コンタクトセンターの在宅勤務化へ舵を切る企業も多く、クラウド型ソリューションのニーズが急拡大している。コンタクトセンターソリューション大手であるジェネシス・ジャパンのポール・伊藤・リッチー社長は「コンタクトセンターの在宅勤務化はもはや前提になっている。その上で、中長期的な観点でカスタマーエクスペリエンス(顧客体験、CX)をどう向上させていくかを考えながら構築するべき」だと語気を強める。
コロナは多くの企業に
長期的な視点をもたらした
――この半年で市場環境は急激に変化しました。直近の状況についてお聞かせください。
在宅勤務やクラウド化といったキーワードで、既存の業務に影響を出さずに継続して顧客対応をしていきたいというニーズは高まっています。当社は4月に、緊急対応のための無償支援プログラム「COVID-19対策プログラム」を発表しました。経営判断の速い企業や、従業員の安全と健康に対する意識が敏感な企業はいち早く動き、当社のクラウド型プラットフォームでコンタクトセンターの在宅勤務化を実現しています。結果として、今年の第2四半期(4月~6月)は初の二桁受注を達成し、この半年間の業績は昨年対比で二桁成長を維持しています。順調な滑り出しになったのではないでしょうか。
――これまでのコンタクトセンター市場ではオンプレミスのニーズが根強く残っている印象でしたが、コロナ禍がクラウド化を後押ししているのでしょうか。
正直に申し上げれば二極化していると考えています。積極的に次世代型ソリューションへ移行しようとしている企業もあれば、業績が落ちる中で思うように投資できずに迷っている企業もあります。
ただ、そのどちらにおいても商談の中身が変化していることは明確です。これまではオンプレミスからクラウドへ単純なリプレースをしたいという会話が多かったのですが、パンデミックの発生以降、ニューノーマルを見据えて長期的な成長計画に基づいたコンタクトセンターの構築を考える企業が増えてきています。
企業が、スタートアップから中堅、エンタープライズへと成長していくそれぞれの過程で最適なカスタマージャーニーがあるわけですが、その変化に対応できるよう継続的にサポートできるのが当社の強みです。在宅でもコンタクトセンター業務に従事できる環境をつくるというのは、その意味で大前提であって、われわれの真価はその先にあります。お客様が長期的なスパンで検討するようになったのは追い風になっていると言えるでしょう。
――“その先”を具体的にどうサポートしていくのでしょうか。
場所を問わずコンタクトセンターを構築したい、つまり、既存業務の効率を担保しつつ、従業員の危機管理・健康管理を可能にするという課題は非常にシンプルにクリアできます。われわれのビジョンとしては、AIやチャットボットの活用によって顧客接点を横断的に広げることでNPS(Net Promoter Score)や顧客満足度、売り上げを向上させていくことを目指しています。ニューノーマルにおいては、われわれが想像もつかない変化が訪れるかもしれません。事業環境が変わればコンタクトセンターソリューションに求められる機能も大きく変化したり、拡大する可能性がありますが、われわれはそれをカバーできるソリューションを提供し、ユーザーの決断を支えるための材料を提供できる自信があります。
顧客とパートナー
両方の成功を支援する
――ユーザー企業の成長や変化に合わせて的確な支援をしていくために、どのような仕組みを取り入れているのでしょうか。
日本ではユーザーのカスタマーサクセスを支援する専門部隊であるCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームがいます。彼らは受注が決まる前から営業チームと一緒に活動していて、営業サイクルの中でも早い段階から顧客が求めるシステムと実現したいビジョンを把握することで、スピーディーなクラウドシフトとシステム構築を進めることができるのです。
――ジェネシス・ジャパンは間接販売が中心ですが、パートナーとの関係はどうマネジメントしますか。
確かに弊社のビジネスの大半は間接販売で成り立っています。実は、パートナーに対して我々の製品の情報や企業としての方針を素早く共有するための仕組みとしてPSM(パートナーサクセスマネジメント)の部隊を今年から新設しました。
数年前にクラウドビジネスを始めたときに、パートナーからさまざまな意見をいただきました。中には「クラウドだとメーカーのイニシアティブが強くなって、オンプレミスの従来のSIと同じようなビジネス設計がしづらい」という声もありましたが、世の中全体がクラウドに移行しているのは明らかなので、クラウドビジネスをどう成長させていくかというマインドに転換していただけたと思っています。
オンプレミスのビジネスではパートナーを通してお客様の情報を得ることが多かったのですが、クラウド化することで、ユーザーの利用状況を当社が直接把握することができるようになりました。この情報を基にPSMがパートナーとコミュニケーションを取り、ユーザーにとっての理想的な活用例を考えるなど、間接販売であってもカスタマーサクセスを強力に支援する体制を整えましたし、結果的にユーザーのパートナーに対する評価を上げることにもつながっています。また、アップデートや機能追加のスピードが上がる中で、パートナーセールスのビジネスモデルは情報共有の遅れが課題になりがちですが、PSMはその課題を解決する役割も担っています。
――近年はテクノロジーパートナーとの連携も進めている印象です。中には競合となり得る企業もあるようですが。
おっしゃるとおり、19年4月にGoogle CloudコンタクトセンターAIとの統合を発表しましたし、今年5月にはZoomとの連携、7月にはMicrosoft Teamsとの統合が実現しました。
これは個人的な考えですが、ユーザーの要望を実現するのに当社製品よりも適したものがあるならば、その選択肢も含めてお話すべきだと考えています。最近の市場では、ユーザーが求める結果から逆算した提案ができるベンダーこそが成長できるという傾向も明確になってきました。自社製品の強みは磨きつつも、より多様な要望に応えられるようにアライアンスパートナーとの関係を強化してエコシステムを構築してくというのは、グローバル全体の方針です。
ZoomやTeamsは、どちらかというとユニファイドコミュニケーションツールとしてバックオフィスで活躍するソリューションだと認識しています。当社の製品も同じような機能を持っていますが、コアの機能はコンタクトセンターであって、そこには30年以上積み上げてきた実績に基づく自信があります。ユーザーの要望により近い提案ができるなら、コアではない領域はそこに強みを持つベンダーの製品との連携も柔軟に考えます。実際に当社の営業もパートナーも、そうした方針は共有しています。
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