2020年度(21年3月期)決算では、2期連続の過去最高益をたたき出したNEC。20年度は中期経営計画の最終年度でもあり、ほぼ計画どおりの収益改善と構造改革を成し遂げた形だ。新中期経営計画(『週刊BCN』1875号で詳報)がスタートする21年度は、経営体制も一新し、前体制で副社長兼CFOを務めた森田隆之氏がトップに就いた。森田新社長が考えるこれからのNECのあるべき成長の形とは――。
事業責任者が言い訳できない中計
――社長就任から3カ月が経ちました(インタビューは7月1日)。順調な滑り出しでしょうか。
新野(隆・前社長、現副会長)さんの指揮で20年度が最終年度となる中計も何とか形になり、将来の布石もそれなりに打てたので、非常にいいスタート台をもらったという感覚です。
社長就任前の3年間はCFOという立場で仕事をしてきたわけですが、特に最後の1年間は今年スタートした「2025中期経営計画」の取りまとめに力を注いできました。そういう意味でも準備はできていたと思っています。自分としては非常に腹落ちをするプランになったし、方向性も明確です。何をしなければならないか、どうしようかと考えなければならない段階ではないので、落ち着いてスタートできたんじゃないでしょうか。
――新中計はまさに森田体制の指針と言えるわけですが、5年計画である点は少し驚きました。パンデミックのような事業環境の変化が今後も起こり得ると考えるとリスクも大きい気がします。
今回、新しい中計と合わせて30年のNECのあるべき姿を「NEC 2030VISION」として発表しました。これは時間とかリソースの制約を取り払って将来像を描いたものです。
一方で2025中計は、時間とリソースの制約の中でビジョンに向かってどこまで行くかという計画です。歴史的にNECは3年の中計が多かったんですが、おっしゃるとおり、変化が激しい時代だからこそ、もう少し長い視野で考える必要があると判断しました。
――3年計画の欠点とは何でしょうか。
3年だと、特に1年目というのは予算に引っ張られがちです。現場にとっては、予算というのは極めて政治性の強い数字ですし、パンデミック然り、いろいろな外的要因の影響も受ける。1年目がそういう形になってしまうと、中計の本質を理解して冷静に考えることができるのは2年目からになってしまう。新たな投資や仕掛けをして結果を出すのに実質2年しかないので、そういう状況下で打てる手というのは限定的になってしまうわけです。
――5年あれば打ち手の幅が広がると。
ものによっては5年でも難しいんだけれども、事業責任を持っている人が言い訳できない期間ではあると思っています。To-Be(あるべき姿)をしっかり描いて、そこに至る過程での制約を除いたり、不足している要素を獲得して結果につなげることを考えると、5年間というのは短期的なノイズに邪魔されない合理的な期間じゃないかと思っています。3年だと、施策の結果を確認するところまで全然到達できないんです。
DX人材育成には複合的なアプローチが必要
――新中計では「コアDX」領域が成長の柱になっています。「コンサルからデリバリーまで一貫したアプローチ」「ICT共通基盤技術とオファリング」「ハイブリッドIT」などをキーワードに国内のDX支援ビジネスを伸ばしていくということですが、子会社のアビームコンサルティングとの連携が強調されているのが印象的です。これまでは少し距離がある印象でしたが……。
例えば富士通さんは昨年、DXビジネスの専門会社としてRidgelinezを立ち上げられましたが、NECはコンサルティングの重要性を認識して約10年前にアビームを買収し、グループに迎え入れたわけです。ただし、コンサルにはベンダーニュートラルであるという独立性が重要なので、NECとのシナジーはかなり緩やかで、自主性に任せていたところがあるのは事実です。
しかし昨今の急速なDXの浸透によりコンサルからデリバリーまで一貫したアプローチをしていこうという傾向が、アクセンチュアやBIG4、そして我々のような伝統的な総合電機メーカーも含めてものすごく強くなっています。コンサルで提案されたものが、デリバリーのところで機能、価値、コスト面で想定とは違う形になってしまうというお客様の不満も大きくなってきています。その意味で、NECとアビームの力を融合することのメリットは従来以上に大きいと考えています。
――アビームとの連携は既に進んでいるのでしょうか。
モダナイゼーションの領域で先行的な取り組みを進めています。メインフレーム「ACOS」のお客様を、個々の状況・環境に応じて七つのタイプに分類し、最適なIT環境を提案していくというものです。アビームとの連携で提案力、訴求力、お客様の満足度は明らかに上がりました。
――DXビジネスの成長には、そのための人材の強化・拡充も必要ですが、これは一朝一夕ではなかなか難しいのでは。
唯一の解というのはないと思うんですよ。複合的なアプローチが必要で、まず重要なのは、会社としてオピニオンの発信力を高めていく、いわゆるソートリーダーシップを発揮するということだと考えていて、そのために総研的な機能を強化する準備をしています。時代の変化に合わせて必要な人材の育成や再トレーニングを手がけるNECライフキャリアという会社も昨年設立しました。また、アビームが持っているSAPの技術者育成のプログラムなども、もっとNEC全体に広く拡大していく仕掛けをスタートさせています。
優秀な人材の中途採用も積極的に進めています。その筆頭がデジタルビジネスプラットフォームユニットのトップを務める吉崎(敏文・執行役員常務、19年に日本IBMからNECに)ですが、この部隊にかなり上流のコンサルやエバンジェリストが務まる人間をリクルートしています。従来のNECの人材との化学反応を期待しています。
EBITDAは顧客への提供価値を表す指標
――国内のパートナーエコシステムはどう変化していくでしょうか。例えばハードウェアメーカーとしてのNECと付き合ってきた全国の販売店などは、従来ビジネスの収益性に大きな課題を抱えている印象もありますが……。
私はハードウェアが低収益だとは全く思いません。販売店の方々もNECも、きちんとした利益が取れるビジネスです。お客様に提供する価値全体の中での重要な要素ですし、リレーションづくりのきっかけとしても有効です。
新型コロナ禍を受けて日本社会全体のデジタル化が進む中で、スマートシティプロジェクトなども各地で始まります。NECはその多くに参加することになりますが、それぞれの地元でお客様とのリレーションを持ち、ビジネスのやり方を分かっている販売店の方と連携していくことが従来以上に重要になります。その中でNECは、共通して使えるようなハードウェア、ソフトウェア、それから今強化しているSaaSプロダクトなどを新しいプラットフォームとして提供していく。このプラットフォームには、メソドロジーやビジネスのスキームも含まれるようになるでしょう。NECグループの持つネットワークを生かして総合力を発揮できるような仕組み、仕掛けづくりも進めています。
――新中計では年平均9%でEBITDA(利払い前・税引前・償却前利益、本質的な“稼ぐ力”の指標として用いられるケースが増えている)を成長させる目標も掲げています。一方で売上高の計画は25年度3兆5000億円で年平均成長率3.2%と比較的緩やかな成長です。ビジネス規模の拡大という意味では頭打ちに近いと見ておられるのでしょうか。
いや、そうではないです。私が考えるNECにとっての成長というのはEBITDA、言い換えればキャッシュフローの規模・金額が拡大することであり、そういう意識を徹底して、マインドセットを変えていくことが重要だと思っています。EBITDAはお客様にどれだけの価値を届けられているのかを表す指標なんです。右から左にモノを移動させるだけでは、売り上げは増えても利益やキャッシュフローは伸びません。
売り上げが目的化すると、利益に対しての感覚がものすごく甘くなってしまうという過去の反省があるんですね。EBITDAが拡大しないような売り上げの追求は、あってはならない。不健全なんです。投資対効果や利益に対する意識が成熟してきたら、EBITDAの拡大を達成する手段として、売上高に明確かつ意欲的な目標を設定していくタイミングが来るかもしれません。
Favorite Goods
プロ棋士の瀬川晶司六段から社長就任時に贈られた扇子を執務室に飾っている。NEC将棋部の部長を務めていた当時、瀬川六段が同部のエースとして活躍していたという縁がある。
眼光紙背 ~取材を終えて~
それは自分を納得させられる仕事か
「今まで付き合ってきた中で一番頭がいい人」。NECの森田隆之社長を、前任の社長である新野隆副会長はそう評した。NECのような巨大組織のトップに就くには、実力だけではないさまざまな要素が必要だろうが、なるべくして社長になった人という評価も聞かれる。では、当の森田社長は、現在の自分の姿を意識してキャリアを積んできたのだろうか。回答はシンプルだ。「正直に言って、自分のタイトルについて考えたことはあまりない。面白くてやりがいを感じられる仕事ができるか、大事にしてきたのはそういうことだった」
森田社長は同期の中で、管理職試験に最初にノミネートされたグループには入れなかった。つまり、上司に推薦されなかったのだ。翌年、直属の上司や元上司と宴席をともにする機会があった。そこで元上司が「今年は森田君も管理職試験を受けるんだろう?」と話題を振ったところ、直属の上司は「それは分かりません」と答えたという。30代半ばに差し掛かった森田青年のスタンスが定まった瞬間だった。
「他人からの評価は自己評価の7~8割で見ておかないとダメだなと実感した。同時に、他人からどう評価されるかばかり考えていたら、悔いが残ることになると思った。誰かが見ているかもしれないし、誰も見ていなくても、自分が楽しんで納得できる仕事をしようと決めた。もちろん、昇進すれば給料も上がるし嬉しいけど(笑)、それが最終的な目的ではない」
森田社長にとって仕事とは、「誤解を恐れずに言えば死ぬ気で楽しむゲーム」だという。起きている時間の半分以上は仕事に使っている。そこが面白くないのは、もったいない。
プロフィール
森田隆之
(もりた たかゆき)
1960年2月生まれ。大阪府出身。83年東京大学法学部卒、NEC入社。執行役員兼事業開発部長、取締役執行役員常務兼CGO(チーフグローバルオフィサー)、代表取締役執行役員副社長兼CFOなどを歴任し、4月より現職。海外事業に長期間携わったほか、M&Aも多く手掛け、半導体事業の再編やレノボと合弁でのNECパーソナルコンピュータ設立、アビームコンサルティングの買収などを主導。CFOとしては収益構造改革やデジタルガバメント/デジタルファイナンス領域のグローバルM&Aを指揮した。
会社紹介
1899年創立の総合電機メーカー。正式社名は日本電気(にっぽんでんき)。2020年度(21年3月期)連結決算では売上高が前年度比3.3%減の2兆9940億円、調整後純利益は前年度比542億円増で1654億円となり、2期連続で過去最高を更新した。今年度は森田隆之社長の就任とともに「2025中期経営計画」をスタート。25年度までの5カ年計画で、売上高3兆5000億円、調整後営業利益3000億円(20年度実績は1782億円)、調整後純利益1850億円、EBITDA(利払い前・税引前・償却前利益)4500億円(同2958億円)などを目標に掲げる。