PFUは本業のハードウェア製造でより多くの利益を出せるビジネスモデルへの大改革を推進している。4月に就任した長堀泉社長は、主力のハードウェア製品で十分な利益が出ていないことを強く問題視しているからだ。直前まで富士通でデジタル変革を推進してきた経験を生かして、PFUの経営改革に大鉈を振るうことこそ、自身に課せられた責務だと解釈している。“小さな富士通”と揶揄されてきた個別SIへの注力から、本業のハードウェア製造の強みを生かせるソリューションビジネスへと軸足を移すべく、急ピッチで改革を推し進める。
PFUのあるべき姿を明確にする
――この第2四半期(7-9月期)からPFUの組織を大きく変えたとうかがっています。狙いは何でしょうか。
ハードウェアの製造業としてのPFUの強みをより高めるために、ハードウェア製品を起点としたビジネスでより多くの利益を出せる組織にしました。当社はドキュメントスキャナを主力製品とした「ドキュメントイメージング事業本部」と、キオスク端末などのカスタマイズ製品、組み込み製品などの製造を手がける「コンピュータプロダクト事業本部」、そして保守サービスの「インフラカスタマサービス事業本部」と大きく三つの組織があるのですが、スキャナやキオスク端末のハードウェア製品に専属の営業をつける体制へと変更しました。
これまでは各事業本部を横断するかたちで営業部門があり、顧客企業に営業が張りつくアカウント営業の方式でした。顧客の課題を解決しようとするあまり、ハードウェア製品を起点としたビジネスというよりは、SI専業会社のような動きになっていた感が否めません。つまり“小さな富士通”みたいになって、SIerとしても中途半端、ハードウェアメーカーとしての強みとSIをリンクした提案ができる体制になっていなかったのです。
こうした反省を踏まえ、営業部隊を製品事業部ごとに振り分ける製販一体の体制へと7月から変えました。個別SI的な事業を担っていた旧ソフトサービス・ソリューション事業本部は、保守サービス部門に統合しています。
――長堀社長から見て「PFUは強みを生かし切れていない」と見えたわけですか。あるいは富士通の時田隆仁社長がそう認識していると。
私は今年4月1日付でPFU社長を拝命しましたが、時田さんからは特に何も言われていません。ただ、私を任命したということは、「経営改革に大鉈を振るってくれ」と同義だと私は解釈しています。
――それは、どういう意味ですか。
私は直前まで富士通本体でデジタルマーケティングを推進する立場にあり、いわゆる「DX」や「イノベーション」というデジタル変革の文脈で使われる言葉を連発していました。それ以前は富士通総研の役員として、富士通グループ初のDX専門子会社Ridgelinez(リッジラインズ)の立ち上げに関わり、Ridgelinez社長に就いた今井(俊哉)さんとも設立に向けた議論を重ねてきました。こうしたキャリアを持つ私を任命したのは、恐らく「PFUの本来あるべき姿を明確にしてくれ」という意味だと受け止めています。
顧客と価値を分け合うモデルに
――あるべき姿とは、つまりハードウェアメーカーとしての強みを伸ばすということですか。
PFUはSIerではありませんので、需要があるからといって個別SIの方向へ進むのは違うと思います。本来的な「あるべき姿」は、そうしたSI的なアプローチではなくて、PFUの強みとする製品を起点としたビジネスであるべきで、かつ、もっと稼げるようにならなければなりません。
直近の業績を見ると売上高はほぼ横ばいで、利益も売上高と連動しています。60年余り事業を続けてきただけあり、PFUには強固な収益モデルの基盤があります。よく言えば安定的な収益、悪く言えば力強い成長に欠ける側面があります。現場の社員の皆さんは日々必死にがんばってくれていますので、もっと稼げるよう舵取りをしていくのが経営陣の責務です。
――ハードウェア製品を起点としたビジネスで利幅を増やす方策とは、どのようなものをイメージすればよろしいですか。
企業向けビジネスの場合、新しい技術やITソリューションの提供価値を測る基準は、顧客がそれを導入した結果、売り上げや利益をどれだけ伸ばせたかです。単にモノを売ったり、指示通りにシステムをつくるのではなく、ベンダー側が自社製品・ソリューションを活用した顧客の価値創出の方法まで踏み込んで主体的に提案し、生み出した価値を顧客と分け合うのが理想です。価値創出が目論み通りいかなければ取り分はないわけですが、ベンダーにとっては顧客視点で価値創出にフォーカスした仕事をする動機づけになりますし、顧客側もベンダーに本質的なパートナーシップを求めるようになります。
SIerで例えれば、顧客の成功や価値創出とは関係なしに人月単価で料金を請求するビジネスモデルだと利幅が限られますし、顧客の成功をコミットするSIerに仕事を取られかねません。PFUも同じで、ただ製品をあらかじめ決めた価格で納入するのではなく、何らかのかたちで顧客の価値創出や成功にコミットし、生み出された価値を分け合うビジネスモデルの割合を増やしていく必要があります。ここで重要なのは、強みを生かした提案でなければ顧客にとっての価値にはつながりづらいということです。だからこそPFUは、ハードウェア製品を起点として価値創出を設計し、より多くの顧客に認めてもらえるようになることを重視しています。
――主力のドキュメントスキャナは、コロナ禍で一段と進むペーパーレス化、業務の完全デジタル化の流れの中で存在感を増している印象です。
当社のドキュメントスキャナは、世界の主要市場で使われている紙質、大きさに対応し、折り目がついていても紙詰まりしにくいという点で高くご評価いただいています。スキャナの売り上げのうち8割が海外向けで、ドキュメントスキャナの分野では世界トップクラスのシェアを誇っています。ペーパーレスや業務のデジタル化は、手元にある紙文書をスキャナでデジタル化するところから始まります。スキャナを起点とした価値創出を企画設計、製造、営業が一体となって考え、顧客への提案力を高めていきます。
製品起点に価値創出
――キオスク端末や製造受託の事業にについてはいかがですか。
スキャナが分かりやすいので例に挙げましたが、キオスク端末などのカスタマイズ製品、組み込み製品についても同様です。むしろ顧客のビジネスに合わせてハードウェアをカスタマイズしたり、受託で製造する方式であるだけに、幅広い分野で製品を起点とした価値創出を提案しやすいと思っています。また、全国どこでも最短4時間以内で当社製品に熟知した技術者が駆けつける保守サポート体制が評価されて、「PFUのキオスク端末なら、万が一障害が発生してもすぐに対応してくれる」という安心感が受注につながっている部分も大きいです。
直近では、病院や薬局に向けて顔認証付きカードリーダ「Caora(カオラ)」を製品化しました。顔認証に必要なデータをマイナンバーカードの顔写真から取得し、本人と一致しているかどうかを判別するものです。保険資格をマイナンバーで確認できるようになるタイミングでしたので、まずは医療機関向けに販売していますが、今後は試験会場での替え玉受験の防止に役立てたり、入館証に使ったりとさまざまな用途を想定しています。顔認証用のデータベースを顔写真から取得できますので、顔写真付きの書類から顔認証用の高精度なデータベースを構築できるのが強みです。
――業績についてもコメントいただけますか。
昨年度(21年3月期)連結売上高の内訳はスキャナなどのドキュメントイメージング事業セグメントが約450億円、キオスク端末などのコンピュータプロダクト事業が約200億円、保守サービスなどのインフラカスタマサービス事業が約700億円で、事業部門間の相殺分を除くと全社の売上高は前年度比ほぼ横ばいの1345億円でした。当面は価値創出に注力することから利益を増やしていく方針で臨みます。
Favorite Goods
皮革製品メーカーの英コノリー製小物入れ。コノリーはロールス・ロイスやベントレー、フェラーリなど高級車の革シートや内装を手がける。「クルマ好きなので、小物入れもクルマに関係あるブランドにした」とお気に入りの理由を話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
顧客にとっての価値考え抜き“儲かる製造業”へ
担当していた大手金融機関の顧客に言われたとおり、忠実にシステムを組んだにもかかわらず「これじゃない」と叱責された。長堀社長が駆け出しの現場SEだったときの話だ。逆説的だが、顧客の指示に忠実なだけでは、「顧客に喜ばれるような価値は生み出せない」ことを痛感した。ハードウェアメーカーとしてのビジネスが主体のPFUも同様で、単に受注した製品を納めるだけでなく、顧客企業の売り上げが増えたり、コストが下がったりする“価値”の提供こそが求められている。
今年4月にPFUの社長に着任してから社員に向けて発したメッセージの一つが、「やれることをやるのではなく、やるべきことを優先する」だ。顧客の言いなりで目先の利益を追うのではなく、強みを生かして顧客にとっての価値にフォーカスしたビジネスを再構築することこそ、今のPFUが「やるべきこと」だと捉えている。
アップルやNVIDIAなど世界のトップメーカーを例に挙げるまでもなく、利益はやり方次第で増える。「競争が激しいからと値引きをして、ギリギリ赤字を回避する“儲からない製造業”のままでは世界からリスペクトされないし、日本のGDPも伸びない」。本業のハードウェア製品を起点に顧客への提案の価値を最大化し“儲かる製造業”への改革を急ピッチで推し進める。
プロフィール
長堀 泉
(ながほり いずみ)
1958年、東京都生まれ。81年、慶応大学経済学部卒業。同年、富士通入社。2005年、みずほ事業本部システム事業部長。09年、富士通総研取締役金融コンサルティング事業部長。18年、取締役執行役員専務コンサルティング本部長兼経済研究所所長。19年、富士通執行役員常務デジタルソフトウェア&ソリューションビジネスグループ長。21年4月1日、PFU代表取締役社長に就任。
会社紹介
石川県かほく市に本社を置く。2020年に創業60周年を迎えた富士通グループの老舗ハードウェアメーカー。業務用ドキュメントスキャナ「fiシリーズ」や個人向けの「ScanSnap」が有名。キオスク端末の製造も手がける。昨年度(21年3月期)連結売上高は1345億円、従業員数は約4500人。