SCSKは今月で発足10周年を迎えた。これまでの10年間で企業規模を順調に拡大し、2023年3月期に売上高5000億円以上、さらにその先の30年には売上高1兆円の達成を目標に掲げる。新型コロナウイルスの感染拡大などで先行きが見えにくい状況の中、目指すのは顧客やパートナーとともに社会課題の解決に貢献する「共創ITカンパニー」になることだ。「ITと業務を融合させるSIerが評価される」と話す谷原徹・社長最高執行責任者に、今後の経営戦略などを聞いた。
9期連続で増収増益も これまでは「ぎりぎり合格点」
――社長として6年目となり、会社としては発足10周年を迎えました。これまでの歩みについて、どのように捉えていますか。
旧住商情報システムは商社の情報システム部門が独立し、旧CSKは独立系SIerとしてビジネスを展開してきました。企業風土はまったく違いましたが、両社とも技術者集団だったので、同じ方向に向かって進んでいけると考えてきました。両社の持っていたサービスをクロスセルしてお客様にお届けしたり、クラウドサービスの前身ともいえる個社向け従量制課金ユーティリティコンピューティングサービス「USiZE」を提供したりしてきました。ほかにも、社員参加型でいろいろなことに取り組んだ結果、9期連続で増収増益という業績に表れたことは非常にうれしく思っています。
社員満足度は14年度は79.9%しかありませんでしたが、20年度は92.1%になりました。女性役員と管理職の登用も12年度の14人から20年度には94人と大幅に増えています。まだやることはたくさんあり、会社として一流だとは思っていませんが、私としてはぎりぎり合格点だと思っています。
――新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界は大きく変わりました。SCSKのビジネスにはどのような影響がありましたか。
コロナ禍の影響はあまり受けていませんが、日本全体を見ると業種業態によっては大きな変化が生じています。われわれとして今だからこそできることがたくさんあり、それを見定めた上で施策を打ち出すことの重要性を再認識しました。また、長期間のリモートワークの中、社員がストレスを感じていたり、現実と理想のギャップに向き合うことが難しくなったりしているので、コミュニケーションがもたらす価値についても改めて考えさせられる1年半だったと思っています。
共創の成果は異業種がつながってこそ
――2030年までに「共創ITカンパニー」になることと「売上高1兆円」を目標に掲げた理由、そして実現に向けた戦略について教えていただけますか。
お客様から「SCSKグループに頼んだら、一緒になって考えてくれて、成長を後押ししてくれる」と言ってもらえるような会社にしたいですし、それができるようになれば、少しは一流に近づくことができると考えています。
われわれは開発からBPOまでフルラインサービスを提供しており、約8000社のお客様と取引をしています。これは他社にない強みです。そして全国約540カ所で1万人以上が常駐する分室では、常にお客様に向き合っています。この分室を、パートナーやお客様、さらにお客様の先にいる別のお客様とともに、新たな価値を創出していく拠点としていくことを想定しています。
――21年3月期の連結売上高は3968億5300万円でした。「売上高1兆円」というと、現状からかなり伸ばす必要がありますが、内訳についてはどのような計画を立てているのでしょうか。
今までコア事業として進めてきたITサービス事業で6500億~7000億円、新規事業とM&A、グローバルで2000億~3000億円、BPOと検証サービス事業で1500億円を目標としています。主力としている分野を伸ばしつつ、グループの総合力で新規事業などの新しい分野も伸ばし、1兆円を目指すストーリーを描いています。達成に向けて、スピーディーにサービスを立ち上げていけるような企業風土を醸成していきます。
――目標の達成に向けて、これまでも力を入れてきた分室がより重要になるとの印象を受けました。顧客やパートナーなどとの共創を推進するために、どのような施策を展開するお考えですか。
お客様の課題を解決する上で中心的な役割を果たすサービスマネージャを分室に送り込み、お客様にビジネス変革の提案をしていきます。サービスマネージャについては、20年度から22年度にかけて150人の育成を計画しており、すでに実践モードに入っているケースもあります。
開発や保守については、現在、全国9拠点10センターで1200席を抱えているニアショア拠点を活用して体制を強化します。ニアショア拠点は現在、800人体制となっていますが、22年度には1000人、30年には2000人まで増やすことを目指しています。コロナ禍で東京一極集中が大きく変わり、これからは分散運用があたりまえになるでしょう。地方でもSCSKのネットワークを通じて最新技術を活用しながら仕事ができる環境を目指し、体制整備を進めていきます。
――顧客の先にいる顧客も巻き込んだ共創に取り組むというのは、どのような背景や狙いがあるのでしょうか。
一業種だけでデジタル化しても、おそらく結果は出ないとみています。異業種がデジタルテクノロジーで結びつくことで、例えば人の購買行動や趣向など、新たなものが広く可視化されるようになります。われわれとしては、各企業が業種を越えてつながるプラットフォームを提供することが共創の中核になると考えています。ただ、単なるプラットフォームを提供するのではなく、もし活用したお客様が儲からなかった場合、課題改善に一緒に取り組んでいく会社である必要があると思っています。
目下の案件は豊富だが 今の延長線上に明日はない
――今後の市場の動向については、どのように予想されていますか。
レガシーからクラウドへという流れが加速しているほか、「2025年の崖」問題や、27年に控えるSAPのERPサポート終了を考えると、そこまではかなりのビジネスボリュームがあり、われわれを脅かす状況にはならないとみています。ただ、10年後にはお客様が気づいていない課題を指摘して解決の提案ができたり、ITと業務を融合させたりすることができるSIerが必要とされ、評価されるようになると予想しています。今の延長線上に明日はないという危機感はあります。事業革新によって、今やっていることから新たな価値が生まれる可能性はあるので、現在の方向性が間違っているとは決して思っていませんが、それだけに拘っていてはいけないということを肝に銘じています。
――今年3月に元社員が逮捕される不祥事がありました。再発防止に向けて、どのような策を講じていくのでしょうか。
本当に恥ずかしい限りで、もう一回あったら、この会社は終わってしまうと思っています。定期的なジョブローテーションを実施するほか、権限管理や多要素認証など、ITで解決できる部分についてはお客様にしっかりと提案していきます。経営上の最重要課題として、同じことが二度と起こらないような仕組みをしっかりとつくっていきます。
Favorite Goods
社長に就任した際、IT業界で尊敬する先輩から贈られた著名な書道家の書。商売繁盛をもたらすとされる左馬が書かれており、「見ていると心が落ち着く」。自宅で大切に保管しており、将来的に「家宝にするつもり」だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
パッションのない事業は成功しない
インタビュー中、谷原社長は、企業における人の重要性を繰り返し説いた。根底には「技術の前に人ありき」との思いがある。
かつて籍を置いていた旧CSKではエンジニアとしてキャリアを重ねてきた。長年にわたって現場で顧客の課題解決に貢献してきた経験があるからこそ、「本社にいる人が優秀で、現場にいる人が優秀ではないとは全く思っていない」と語り、現場を知らずに「上から目線で物事を考えていたら、いいものは生まれない」と断言する。
現場のエンジニアからトップとなり、6年目を迎えた。経営者としてさまざまな事業を見る中で、確信しているのは「パッション(情熱)のない事業は成長しない」ということだ。
かつては「笑顔が最大の化粧」という姿勢を大切にしてきた。しかし、元社員が逮捕される事件があってからは、信頼回復に向けて、誠を通して対応することを重要視している。
移り変わりが激しいIT業界。次々に新しい技術が登場するが、変革を実践するのは社員で、会社にとって「社員がすべて」との考えは変わらない。これからも「社員ファーストで考え、お客様に寄り添っていける経営を目指す」と意気込む。
プロフィール
谷原 徹
(たにはら とおる)
1959年、大阪府生まれ。大阪電気通信大学工学部卒業。82年、コンピューターサービス(後に社名をCSKに変更)に入社。エンジニアとして金融や製造、流通などのシステム構築・開発・保守を経験。2003年、執行役員。11年の旧住商情報システムとの合併により、SCSK取締役専務執行役員。ITマネジメント事業部門長、製造システム事業部門長などを歴任し、16年4月、代表取締役社長に就任。現在、代表取締役執行役員社長最高執行責任者。
会社紹介
1969年10月に旧住商コンピューターサービス(後に住商情報システムに商号変更)を設立。2011年10月、当時経営再建中だった旧CSKを合併し、商号をSCSKに変更した。コンサルティングやシステム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPOまでのITサービスをフルラインアップで提供している。21年3月期の連結売上高は3968億5300万円。同年3月31日現在の連結従業員数1万4550人。