イスラエルのチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ(チェック・ポイント)はファイアウォール(FW)の老舗ベンダーとしてセキュリティ市場において地位を確立、国内でも多くの顧客を抱えている。一方で、FWベンダーのイメージが強く、他の製品の利用が進まないといった課題を、長年抱えてきた。2022年3月に日本法人の代表取締役社長に就任した青葉雅和氏は「チェック・ポイントはFWベンダーではないことをアピールしていく」と意気込み、統合セキュリティアプローチを提供できる強みを浸透させ、より存在感を高めていく考えだ。
(取材・文/岩田晃久 写真/大星直輝)
幅広い製品ポートフォリオを展開
――社長就任の経緯を教えてください。
実はかなり前から声が掛かっていました。ただ、チェック・ポイントというとFWのレガシーな会社というイメージで、私は最新のテクノロジーに取り組む企業を求めていたこともあり、ずっと保留にしていました。その後も、継続的に誘いがあり、改めて製品やソリューションの話を聞くと、とても幅広いことが分かりました。ユーザー企業の環境は社内ネットワークを利用するのが普通で、いわば閉じたネットワークで仕事をしてきました。しかし、新型コロナウイルスへの対応やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進などで、クラウドサービスの利用を筆頭にインターネット上にその環境が移っています。そのため、セキュリティ対策も従来のものでは不十分で、幅広く総合的なソリューションを提供するのを求められます。そういった中で、幅広い製品ポートフォリオを持つ当社は、大きく成長できる可能性を秘めており、挑戦しがいがあると感じて話を受けました。
私はセキュリティ専業ベンダーで仕事をするのは初めてですが、これまでネットワークに深く携わってきましたので、例えばネットワークとセキュリティの両方の知識を求められるSASE(Secure Access Service Edge)ではこれまでの経験が役立つと思っています。
――自社の魅力や強みはどこにあるのでしょうか。
FWやエンドポイントセキュリティなどは他社製品と比較してもカタログ上の機能はほとんど一緒です。では、何が本当に強みなのか、私も入社してからいろいろと調べました。その結果、30年以上、セキュリティ製品を提供してきたことで得た蓄積にあると考えました。社内にはチェック・ポイント・リサーチという専門の調査機関があり、多くの社員が世界中でどういったサイバー攻撃が行われているのかを調べていますし、毎週、レポートを発行しています。これまでは、そういった情報発信が上手くできていませんでしたが、現在では、日本語化し毎週、配信しているほか、セミナーでも製品よりも脅威情報をメインに話をしています。日々、多くの提案を受けているお客様は製品情報やベンダー情報を見飽きているので、セキュリティの世界では何が起きていて、どういった対策をするべきなのかといった情報のほうが有益だと感じてもらえます。今後もこういった当社の知見を提供していきます。
優れた製品の認知を拡大させる
――事業戦略説明会ではFWベンダーだというイメージを変えていくと話していました。
私もそうでしたが、ユーザーだけでなくパートナーも当社はFWの会社だというイメージを強く持っており、総合セキュリティベンダーとして認知されていない点が課題だと感じています。例えば、当社にもメールセキュリティ製品はあります。優れた機能を提供できる製品ですが、お客様やパートナーには知られていないのが現状です。社員がお客様に提案する際にも、FW以外の製品の販売にはとても苦労しています。
セキュリティ市場では現在、SASEが注目され、多くの企業が導入を進めていますが、SASEだけではセキュリティのすべてを賄うことはできません。エンドポイントも重要ですし、最近ではスマホを業務で利用するのが当たり前となっていますが、モバイルセキュリティが疎かになっているケースが非常に多いため、モバイルセキュリティの需要も拡大するはずです。当社は総合セキュリティベンダーとして、幅広いセキュリティニーズに対応できる製品はすでにラインアップされています。既存のイメージを刷新し、これまでできていなかった他の製品の訴求を強化することで利用につなげていきます。
――具体的にはどのような取り組みをされるのでしょうか。
国内ではお客様、パートナーはともにベストオブブリードの考えの下、エンドポイントはエンドポイントに強いベンダーの製品を、ネットワークならネットワークに強いベンダーの製品を選ぶ傾向が強いです。その中で、当社の各製品を利用していただくには、まず知ってもらうことが重要です。そのため、当社のオフィスに来ていただく機会を設けて、エンドポイントセキュリティ製品ならその分野のエキスパート社員に説明させ、各種製品の特徴や強みを理解してもらえるようにします。私の経験ですが、直接、お会いして話をするとお客様が抱えている課題が本当によく分かります。多くの人とお会いして最適な提案をしていくことで、課題を解決していきます。
――クラウドセキュリティの強化にも取り組まれていますね。
クラウドシフトが進みつつありますが、セキュリティ対策は後回しになっている企業が多いのが現状です。クラウドセキュリティの需要はこれから拡大していくと見ています。その際、重要となるのが社内のセキュリティポリシーをクラウドでも適用できるかという点です。加えて、管理もオンプレミスと同じようにできるほうがよい。それを実現できるのが「Check Point CloudGuard」です。クラウドの知識がない人でも簡単に管理が可能となります。クラウド環境のセキュリティ課題として多い設定ミスの監視が行えるのも特徴です。
統合管理の重要性を訴求
――統合管理によるセキュリティ強化も重要だとしています。ただ、数年前から御社だけでなく他のセキュリティベンダーも統合管理を訴求していますが、国内ではあまり浸透していない印象を受けます。
先ほどもお話したように、国内ではベストオブブリードの思考がまだまだ強いことが要因として挙げられます。しかし、異なるベンダーの製品を導入すると運用が難しくなります。そういった面でもやはり、統合管理によるセキュリティ対策への需要は今後、拡大していくはずです。統合管理ソリューションを提供できるベンダーとして、セキュリティ強化や運用負荷の軽減といったメリットを訴求し、将来的にはパートナーに統合管理ソリューションを販売してもらえる体制をつくるのを目標としています。
――営業戦略はどうお考えですか。
インダストリーカットの営業組織に変え、エンタープライズの顧客開拓はハイタッチ営業を中心に行っていきます。一方で中堅中小企業にはパートナー経由でアプローチしていきます。既存のリセラーに加えて、MSPやMSSP(マネージドセキュリティサービス事業者)との協業にも力を入れて新たなソリューションやサービスを提供していく予定です。サプライチェーン攻撃が激化している中では、中堅中小企業のセキュリティを担保しなければなりません。(中堅中小企業が)利用しやすい環境を整えていきます。
クラウドセキュリティでは、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureを扱っているパートナーとの連携を強化します。パブリッククラウドの場合、お客様はマーケットプレイスを利用するものの、管理が上手くできていないケースも少なくありませんので、運用面のサポートといった付加価値をパートナーと提供できればと考えています。
社内の組織強化にも取り組んでいます。営業やSEの採用を進めており、現在の人員は昨年と比べ約2倍となりました。新しい社員の中にはセキュリティ以外の業界出身者も多くいます。バックグラウンドが違うため苦労することも増えるので、教育の充実を図るなどして、より良い組織にしていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
オフィスは25階建てビルの最上階にある。「オフィスは25階までだが、その上にも小さな空間がある。階段か荷物用エレベーターでしか行けないが、そこにちょっとしたカフェのようなスペースを用意している」。
狙いは顧客とのリレーション強化だ。訪問してきた顧客と商談を終えた後に、カフェスペースでさらにじっくりと話すことで、理解を、課題感を掘り下げる。「シトリックスの時も同じことをしていた。リレーションを強くすることが何より重要だ」と話す。
シスコシステムズやシトリックス、直近ではクラウドフレアなど長年、ネットワーク業界でキャリアを積んできた。そのため、セキュリティ専業ベンダーであるチェック・ポイントの社長業は「新たなチャレンジ」と位置付けているが、これまでに培った経験から、どういったプロセスを辿れば上手くいくのかが見えているようだ。
「これまでのチェック・ポイントはできていないことの方が多かった。これからはどんどん良い方向に変化する」と明るい未来を見据えている。
プロフィール
青葉雅和
(あおば まさかず)
1984年、日本IBMに入社、SEとして業務に従事。94年、シスコシステムズに入社し、エンジニアやセールスなどの部門でマネージャーやディレクターなどを歴任。2009年にブロケード代表取締役社長、17年にシトリックス・システムズ・ジャパンのカントリーマネージャー、20年にクラウフレア日本代表。22年3月より現職。
会社紹介
【チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ】イスラエルのチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズの日本法人として1997年10月に設立。次世代ファイアウォールを中心にエンドポイントセキュリティやネットワークセキュリティなど総合的なセキュリティソリューションを展開している。