ビデオ通話ソリューション「Zoom Meetings」をはじめとするコミュニケーションプラットフォームを提供するZVC JAPANが国内でのビジネスを伸ばしている。誰もが知るミーティングツールだけでなく、電話機能で企業の大幅なコスト削減に貢献したり、営業スキルの向上に役立てたりと、ビジネス全体をアップデートするソリューションとしての訴求を強化。下垣典弘社長は「人と人をつなぐというビジョンを着実に推進できている」と手応えを語り、さらなる成長を見据える。
(取材・文/堀 茜 写真/大星直輝)
アフターコロナでも着実に成長
――Zoomの認知度が一気に向上したのは、やはりコロナ禍がきっかけかと思います。
大変ありがたいことに、あらゆる世代で「Zoomする」という言葉が浸透しています。パンデミックという大きな風が吹き、2020年、21年の2年間でZoom Meetingsを本当に多くの方に利用いただけるようになりました。成長率でいうと、20年は前年比16倍、21年が2倍になったので、2年間で32倍と大幅に成長しました。
――ここ数年のビジネスはいかがですか。
米国本社の社名が24年11月、「Zoom Video Communications」からVideoがなくなったことに象徴されるように、当社は近年、ビデオだけでなく、AIファーストのコミュニケーションプラットフォームとして成長しています。「一人一人のつながりをコミュニケーションプラットフォームであるZoomで実現する」というビジョンを、20年からの5年間で着実に広げることができたと思います。アフターコロナでもビジネスは着実に伸びています。
コスト削減や営業スキル向上に貢献
――販売に注力していたり、顧客からニーズが高かったりするのはどんな機能ですか。
ワークプラットフォーム「Zoom Workplace」は大幅に機能拡張していますが、その前に、みなさんが使っているZoom Meetingsには機能がたくさんあり、それをまだ知らなくてご利用いただいていないというケースも多くあります。例えば、ミーティングに入室して開始するまでの1分間に、相手に伝えたいメッセージを広告のように表示する機能です。ミーティングの趣旨に関係なく、相手の興味のあるものや自分のプロファイリングを会議前に紹介することもできます。お会いする経営者の方に説明すると「そんなことができるのか」と驚かれることも少なくありません。せっかくあるのに使っていない機能をフル活用いただけるように説明することに力をいれています。
お客様に今強く興味を持っていただいているのは、クラウド電話の「Zoom Phone」です。経営者の方に電話代にいくら使っていますかとお聞きしても、答えらえる方はほとんどいません。それは、下げることができない固定費だと思っているからです。会社の電話を置き換えることで、設備費を含めてコストを大幅に削減できます。メリットはコストにとどまりません。二者間の通話を第三者が聞くことができたり、顧客と通話している部下に、こうしたほうがいいよとささやきとして指示をしたりといった機能があり、業務効率化にも貢献しています。ITインフラのクラウド化が進む中で、電話業界だけはいまだにオンプレミスの交換機の普及率が日本では85%あります。米国は40%以下です。国内で当社のサービスは大手百貨店など多くの企業に導入いただいています。
「Zoom Contact Center」というソリューションも出てきています。商品に興味のある方がチャットや電話で問い合わせをしてきたら、ビデオに切り替えて使い方を具体的に説明するといった使い方ができます。顧客満足度を高めることが可能な機能です。
――多くの企業の課題解決につながるような使い方の例はありますか。
今のトレンドでいうと、営業での活用が挙げられます。会社は売り上げで成り立っていて、商品やサービスを提供するには必ず営業があるわけですが、労働人口が減少する中で、営業の人材が少なくなっていくことが予想されます。さらに、営業の中でも業績があまりよくない人が離職してしまう問題があります。離職があると、採用や教育に膨大なコストがかかってしまいます。多くの企業に共通するこの課題をZoomで解決します。
顧客とやり取りするチャット、メール、ビデオ会議、電話の中で、今一番見える化ができていないのが電話です。Zoom Phoneで話した内容を全てデジタル化します。その人がどういう抑揚でどんな言葉を使い、冒頭どのような会話をしているか、いきなり商材の話を始めていないか、優秀な営業マンが必ずしている質問を聞いているかどうか。パフォーマンスが上がらない人に対して、会話の内容を振り返り、周囲がこういう風にやったほうがいいんじゃないか、といったアドバイスをする。営業スキルを上げるためのリスキリングの環境をZoomでつくることができるのです。この機能は「Zoom Revenue Accelerator」で、録音・録画ができ、それを基にした適切なコーチングのフレームワークとして今非常に注目を浴びています。
――製品における生成AIの活用はどのように進めていますか。
生成AIアシスタントの「AI Companion」に自然言語で尋ねると、ワークプレイスにある全てのデータを統合して、今日はメールでこれ、チャットではこれと、やるべき作業を提示してくれます。当社のAIは、カレーの中のスパイスと同じという考え方です。カレーにどういうスパイスが入っているか気にして食べることがないように、自社でつくったAIにサードパーティーのAIも組み合わせて、最適なものを提供しているのが強みです。何ができるのかという点が大事で、お客様が使う機能に生成AIが自然に組み込まれて、意識することがないという状態を目指しています。
日本の未来をデザインする
――販売では、文教と公共に注力するという方針を示しています。
私は岐阜県多治見市の出身なのですが、田舎町で、消滅の危機がある街と言われています。地方や中山間地域は豊かな暮らしがある一方、人口減少で経済はどんどん厳しくなっていくのが現実です。高齢で車を運転できなくなったら、食料を買いに行くことも、役所に行くこともできなくなってしまうかもしれません。
日本の未来を、人と人をつなぐことでデザインしたいと考えています。自分が80歳になって日本のどこに住んでいても、病院を受診でき、ECサイトからほしいものを注文して届くような仕組みをつくるには、地方自治体への支援が必要です。デジタル技術による行政、教育、医療の運営効率化の一翼を当社が担いたいと考えています。行政サービスでは、16の自治体と包括連携協定を締結し、防災、減災、リモート診断支援などでサービスを活用していただいています。自治体職員も減少していく中、リモートでいろいろな対応ができる社会を目指したい。Zoomを使って、不登校の子どもが自分の好きなときに好きな勉強ができるといった多様性のある社会も、プラットフォームを通じて支援したいです。
――パートナー戦略を教えてください。
2月にグローバルの新パートナープログラム「Zoom Up サービスプログラム」を発表しました。ソリューションの導入、サポート、カスタマーサクセス、マネージドサービスまでを含んだプログラムです。当社のソリューションを使っている企業を規模別に見ると、中堅・中小企業が大幅に伸びているのですが、そういった企業から、こんなに良い製品なら自分たちも売りたい、という声を多くいただいています。そういったパートナーには、顧客の紹介をお願いするリファラル制度もあります。販売したものをもっと活用していただけるよう、顧客をイネーブルする役割を期待しています。
売り上げが伸びているZoom Phoneに関して、電話は総務省管轄で販売には免許が必要になります。これから免許を取ってでもやりたいというパートナーには積極的に支援しています。コンタクトセンター業界で拡販していく上では、大手BPO企業に今後良きパートナーになっていただきたいと考えています。ルートマーケットのみならず、新しい価値を提供しパートナーにどうやって利益率を上げてもらうかをデザインすることが、今後の方向性となります。
――今後の目標をお聞かせください。
プラットフォームを広げ、AIで利便性を高める点を追求していけば、大きな成長が期待できると考えています。現在、ディストリビューターとの取り組みを強化していますが、地方のラストワンマイルに強いパートナーと協業することで、全国津々浦々にソリューションの価値を届けていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ビジネスで会う人だけでなく、居酒屋などで居合わせた人にも気軽に名刺を渡すという下垣社長。誇りに思っていることがあるという。「名刺にZoomと書いてあるのを見ると、みなさん『ありがとう』と言ってくれるんです」。長年IT業界でキャリアを重ねてきたが、名刺を見て感謝されるのは初めての経験で、「それだけZoomが浸透しており、愛用していただいている」ことの証左だと語った。
自身が母の介護をしているように、全ての人が子どもとの世界、親との世界、何かしらのストーリーを持っている。そのつながりを支える存在でありたいと願っているとし「社員の発想によって、人と人とのつながりはいくらでもデザインできる」と展望。社員と共に前に進み続ける。
プロフィール
下垣典弘
(しもがき のりひろ)
岐阜県出身。明治大学卒業。新卒で日本IBMに入社し、24年間勤務。日本オラクル、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパンで執行役員など要職を歴任。2020年から米Yext(イエクスト)日本法人で社長兼COOを務める。22年にZVC JAPANに入社、23年から現職。
会社紹介
【ZVC JAPAN】米Zoom Communications(ズームコミュニケーションズ)の日本法人。米国本社は2011年設立、19年にNASDAQ上場。「Zoom Meetings」をはじめ、AIファーストのワークプラットフォーム「Zoom Workplace」を提供している。日本法人は18年設立。