「RidgelinezはDXの会社ではなく、トランスフォーメーションの会社だ」。2025年4月1日付で社長に就いた森光威文氏はこう語る。DXという言葉が広く浸透し、市場が伸長を続ける中、同社はデジタル面のみならず、組織や各種制度のトランスフォーメーション(=変革)を支える存在であると訴求し、さらなる成長へとアクセルを踏み込む。上流から実装に至るまで、機動的なワンチームで顧客に「伴走」するカルチャーを徹底し、強みを最大化したい考えだ。
(取材/藤岡 堯 写真/大星直輝)
──社長就任から3カ月ほどが過ぎました。現在の心境や、自社の印象をお聞きします。
私はコンサルティングを25年手掛けていますが、すごく時代が変わりつつあることを本当に感じています。お客様である日本企業は、どこの会社も「変わらなければならない」という思いが強く、温度感が(昔と)全然違います。
デジタル化については、コロナ禍で相当進みましたし、差し迫った人手不足、人的資本経営といったマクロ環境の動向、政策や規制の方向性、競争環境、複合的な要因で(変革は)待ったなしという状況になっているのでしょう。
富士通の全社変革について話題に上ることが多いですが、Ridgelinezも相当なトランスフォーメーションであったと思います。富士通グループの人材がほとんどという中でスタートし、人事制度は外資系コンサルファームを模したものを入れ、コンペンセーション(報酬体系)、評価や育成のシステムも入れ、採用もしていく。お客様のポートフォリオも、受ける仕事のタイプも変わる。これは本当に大変だったはずです。よく思い切ってやったなと。心から敬意を表します。
「Why Ridgelinez?」を言語化する
現在は500人規模で、そこに12のプラクティス(専門領域)があります。競合に全くないとはいいませんが、これは大きい要素です。サービスラインがいくつもあり、テクノロジーがある。こういった専門性をもってクライアントと対峙できます。今はまだ大きな組織ではないので垣根もなく、非常にコンパクトに機動的に、コミュニケーションをとりながらワンチームで仕事ができる。戦略や実装といったフェーズでチームが変わるやり方ではなく、最初から一緒にやる。これは強みです。今風にいうと、アジャイルというところでしょうか。スピード感あるプロジェクトの設計ができています。
──ただ、それは会社規模が大きくなると難しくなるかもしれません。
そうですね。今のうちにこれを基本動作に、カルチャーにしなければなりません。これはどこの会社でもやっていることではないと、われわれの強みだとずっと言っています。当たり前のカルチャーにしたいです。
──ほかに課題として感じていることはありますか。
まだまだ発展途上の会社であることは間違いなく、課題はいろいろなところにあります。一番感じているのは、認知度が上がっていない点です。提案の際、これまでに取引がないお客様だと「どこの会社?」ということもあります。富士通の子会社なので怪しい会社ではないのは理解いただけても「なぜここに頼むんだ」という話になっているのだろうと想像できます。
なぜわれわれを選んでもらうか、「Why Ridgelinez?」という言い方をしますが、これをシャープに言語化して、お客様が悩まなくていいようにする。これに取り組まなければなりません。
──今後の成長に向けて注力したい点を教えてください。
数多あるコンサルティング会社が、いろいろと(顧客に)説明をしても、話を聞いた限りではどこも変わらない。(顧客からすれば)そういうことなんだろうと理解しています。その中でどう訴求していくかです。
富士通では顧客ロイヤルティを数値化するネット・プロモーター・スコア(NPS=製品やサービスの他者への推奨度を示す指標)の調査をしており、当社も実施しています。ある程度の金額を超えたプロジェクトについては全部(NPSを)取ろうということで、意思決定者と現場責任者を対象に率直に答えていただけるように取り組んでいます。スコアの数値自体は今の時点で重要だとは思っていないのですが、個人的には非常に良い評価をいただいていると思います。
そのスコアをつけた理由を分析してみると、頻出するワードとして「伴走」や「変革」が浮き上がってきました。つまり、お付き合いいただいている顧客からは、われわれの「『DX』の“X”(トランスフォーメーション)が大切だ」という思いや、変革という山のRidgeline(稜線)を伴走する姿勢が受け入れられている。私が社長になる前にこの結果を見て、とても心強かったのを覚えています。「これなら戦える」と感じました。お客様との関係性の健全さを調査が物語っています。
「実装」の意義を再定義し、訴求する
当社には顧客の事業、業務を深く理解する人材、その業務や事業をデジタルを使ってどう変えていくかを分かっている人材がそろっている点が、最大の強みです。私は「『DX』のコンサルティング会社」に入社したとは認識していません。(Ridgelinezは)「トランスフォーメーションの会社」です。トランスフォーメーションの分野は市場におけるオポチュニティーが圧倒的に大きく、ここでどう取り組むかを考えたとき、先述した「伴走」が大切になります。
伴走とは「実装をサポートする」ことですが、このインプリメンテーションをどう定義するか。おそらくDXを支援する会社の定義は「システムの実装」でしょう。私たちはそうではありません。Ridgelinez自身の変革において、人事制度を変えることが一つのキーであったように、人事制度や組織の変革はデジタルと同じ、またはそれ以上に重要です。われわれにはそのプラクティスがあり、かなりの規模になっています。
このインプリメンテーションの意義を再定義して、打ち出していくことが、マーケットでの認知度を高める意味では非常に訴求力があると考えています。もちろん、人事以外にもカスタマーエクスペリエンスや経営管理の仕組みなども変えなければなりません。(デジタル面と業務面を)セットで変革するためにはRidgelinezに頼もう、といった認知が高まれば、より戦いやすくなるはずです。
また、短期的に成果を挙げるメニューを持っておくことも必要です。ある領域において、どういうことをすれば早く経済的なインパクトを出せるか。これまでのプロジェクトをひも解き、短期的にパフォーマンスを改善できるような(手法の)ストックをつくる試みを進めています。IT投資は、ROIが見えにくいという批判にさらされることもあり、きっちりとリターンを出すことを、可能であれば提案書の段階から試算していきたいです。
顧客のターゲティングで言えば、富士通の有する圧倒的な顧客基盤の活用が現実的だと思います。当然、われわれの認知度を上げて、マーケティング活動を行い、われわれの力で取っていくウエイトを増やしたいですが、富士通単独では、モダナイゼーションに取り組む顧客に対して、真の意味でのXを提案しきれない部分があり、そこを当社が手掛ける。ここには巨大なマーケットがあるでしょう。まだ氷山の一角といった程度しか取り組んでいないと感じています。
──富士通の話題が出ました。富士通でもコンサル事業ブランドの「Uvance Wayfinders」を立ち上げ、コンサルを強化しています。どういう違いを示せると考えますか。
私が時田(富士通の時田隆仁社長CEO)から言われているのは「どうしたらRidgelinezを強くできるかだけを考えてくれ」ということです。ですので、それだけを考えています。ただ、明らかに違うのは、Wayfindersは富士通の中にあるコンサルタントであり、Ridgelinezはわざわざブランドを変えて“出島”にしている。これはやはり中立性、独立性を重視している意味であり、それがDNAです。ここは明らかに異なります。
確かに個々の営業単位で見たときに、Wayfindersに行く案件が出てくることもあると思います。ただ、先ほども述べた通り、まだまだ(市場は)氷山の一角であり、また、サービスメニューや顧客に提供できる価値にも違いがあり、心配はしていません。Wayfindersをきっかけに、富士通のコンサルティング事業の認知が広がり、さらにRidgelinezの認知も高まれば良いととらえています。
社会に一石を投じる
──今後の抱負をお願いします。
入社前に時田と面談した際、時田は「社会に一石を投じたい」という言い方をしており、これは私の考えと合致していました。この魂が入ったファームにしたい。社会課題と経営課題が近しくなり、社会課題の解決がビジネスをつくっていく状況です。私たちのビジネスも社会課題の解決が視野に入っています。私の年齢的にも、次の世代に、今よりも良い時代にして渡したいと考えるようになりました。私だけではなく、皆と一緒に実現したいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
Ridgelinezに入る前には、事業会社で経営のナンバーツーの立場だった。そこで感じたのはコンサルタントの価値である。「プロフェッショナルの知見にアクセスできる重要性を痛感した」。経営上のさまざまな課題について話を聞こうとすると、社内だけでは不十分なこともある。「ベイン・アンド・カンパニー時代には『Trusted Advisor』とよく言われましたが、そういう存在がいるかいないかで、だいぶ変わってくる」
自社もそういう存在でありたい。「ニーズがたくさんある中で、やはり信頼できる存在にならなければならない。そして、アドバイスができるケイパビリティーを有し、経営者と同じ目線で、当事者意識を持って事業を理解する。この三つが大切」と語る。
「コンサルティングの世界には『client first, money follows』という言葉があります。これは真実でしょう」。顧客を第一に、信頼を得る。それができれば、結果は後からついてくるだろう。
プロフィール
森光威文
(もりみつ たけふみ)
1991年、米Bain & Company(ベイン・アンド・カンパニー)入社。日本、韓国、米国において、プライベートエクイティやヘルスケア、小売り、不動産、建設など幅広い業界のコンサルティングに携わる。2017年にメンタリティマネジメント事業などを展開するアドバンテッジリスクマネジメント常務執行役員に就任。同社で取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を歴任。24年11月にRidgelinez執行役員副社長。25年4月から現職。
会社紹介
【Ridgelinez】富士通の完全子会社で、戦略立案から実行までを総合的に支援するコンサルティング企業。2020年1月に設立、同年4月に事業開始。