アップルコンピュータの「iPod」の大ヒットを受け、本来のライバルであるはずの各種の携帯端末の方向性が大きく変わってきた。すでに米国ではソニーがPDA(携帯情報端末)から撤退し、本家パームも大幅な軌道修正を余儀なくされている。そんななか、携帯電話は独自路線を歩むことで生き残りを賭けている。米モトローラの戦略と米国市場を取り巻く状況を総括する。

 米モトローラは次世代の携帯電話機関連サービスとして、携帯電話をパソコンや家庭用オーディオ、さらにはカーオーディオに接続して、ダウンロードした音楽や専用のラジオ局から流れるコンテンツを試聴できるサービスを準備している。2005年中のサービス開始を目指している。米モトローラではこの新サービスを「iRadio(iラジオ)」と呼んでおり、現在、提携する携帯電話会社の選定や端末の仕様決定などを進めているという。

 米モトローラの発表では、iラジオのサービス開始時期は05年12月。また、サービス開始前でも、iラジオ対応の携帯電話を販売したいともしている。さらには市場での地位を築くため、インフラを提供する携帯電話会社へは利用者から徴収する手数料の割り戻しや、契約時のインセンティブなど魅力的な条件を各携帯電話サービス会社に提示しているという。もっとも、現時点ではどことも契約は締結していない。

 これは、主要な携帯電話の通信事業者はいずれも複数のメーカーから端末の供給を受けていることから、モトローラ1社との提携に躊躇しているのに加え、この新サービスの成否そのものにまだ不安感を拭えないためであると見られている。

 日本ではすでに携帯電話にクレジット決済機能を持たせるところまでインフラ整備が進みつつあるが、米国ではこの面では非常に遅れている。通信販売の歴史が古く、クレジットカードの持つ意味合いが日本とは大きく違う米国では、他の電子機器類とクレジットカードの融合に、カード会社はあまり積極的ではない。大手カード会社に対しては日本企業を中心にいくつかの携帯電話機メーカーが積極的なプレゼンテーションを繰り返してはいるというが、現在までに採用に至った例はない。

 それどころか、カード会社側では、決済処理用にカードそのものに非接触機能を持たせる方向で検討が進められている。ビザやマスター、アメックスなどの大手カード会社は、6月中にも「Blink」(ブリンク=「瞬き」の意。一瞬で処理が終わることを表している)と呼ばれる非接触型カードの導入に踏み切る予定だ。すでにいくつかの大都市で行われたテストでは、非接触型カードを利用するユーザーは、決済時の時間短縮により1回あたりの買い物額が増えるという調査結果も出ている。各カード会社は、利用額の増大による利益を独占したい意図もあり、携帯電話会社との提携にはあまり積極的ではない。

 日本ではすでに廃れてしまったページャー(いわゆるポケットベル)でさえ、米国ではまだ利用しているユーザーは多い。北欧や韓国、そして日本などと違い、広大な国土を持ち、自動車が市民生活と密接に結びついている米国では、例えば携帯電話のGPS(地理情報システム)化などの方に魅力を感じるユーザーもいる。カードの所有そのものが消費者の購買に直接影響する社会背景も後押しし、携帯電話の金融市場への融合には今しばらく時間がかかりそうだ。

 ようやく米国でも携帯電話のG3(第3世代)化が進み、カバーエリアも充実してきてはいるのだが、当面は携帯電話の直接のライバルは、iPodのようなMP3プレーヤーやプレイステーションポータブル(PSP)のような新世代携帯ゲーム機などではないかという意見が多い。

 もちろんノキアやサムスン電子と言った他の携帯電話機のメーカー、そしてベライゾンやシンギュラーといったキャリア各社も、今回のモトローラの動向に目を光らせているのはいうまでもない。新サービスの成否は業界全体にも影響しかねない。今しばらくはどこも静観だろうが、何か動きが出た場合には一気に業界がその方向に進むことも考えられる。(田中秀憲)