予算削減により大量解雇に踏み切る米航空宇宙局(NASA)エームズ研究センターがグーグルとの業務提携を発表した。1日平均4人増という急ピッチで成長を続けるグーグルにとって、本社(カリフォルニア州)の目と鼻の先にある広大な敷地と高度な設備、未整理の情報、優秀な人材が手に入るのは願ってもない吉報だ。

 「(官民一体で取り組むことは)今後の宇宙開発プログラムに計り知れない利益をもたらすだろう」。スコット・ハバード・エームズ研究センター所長は声明でこう語った。ハバード所長は長年、宇宙事業の活性化のためには民間の力を借り、より実用的な用途に研究成果を生かしていくべきだと主張してきた。それだけにこの“歴史的提携”には感慨もひとしおだ。

 クロニクル紙の報道を受け、先月28日に急きょ開かれた共同記者会見では、「大型情報管理、ナノテク、超分散コンピューティング、データマイニング、宇宙産業の事業化など各研究分野で事業を共同で行う」という以外、特に具体的な事業内容は明らかにされなかった。しかし、同センターには世界第3位の処理能力を備えるスーパーコンピュータがあり、グーグルはこれを使える羨ましい立場となる。

 また、NASAが宇宙開発で得た衛星画像などの膨大な情報も手つかずのまま残っており、これはグーグルが整理して公開する。エリック・シュミット・グーグルCEOはその一例として、「アポロ宇宙計画で得た膨大な画像が欲しい時にいつでも手に入る、そんな状況を想像してみて下さい」と興奮気味に語った。

 巷では早速、「グーグル・ムーン(1969年のアポロ11号月面着陸と同じ7月20日に公開した月面の画像マップ:http://moon.google.com/)の次はグーグル・マースか」、「さてはクレーターを関連広告で埋めるつもりか」など、さまざまな未来予想で盛り上がっている。

 エームズ研究センターは、シリコンバレーがまだ農業地帯だった1939年、政府の研究設備として湾岸に開設された。第2次世界大戦当時はP-51ムスタング、P-38ライトニングなど各種戦闘機の設計と飛行テストを行い、戦後はアポロ月面探査プロジェクトの研究開発を主導した。このアポロ計画は70年代に中止となり、それに代わって宇宙開発事業の花形となったシャトル計画も2010年以降に打ち切られることが決まっている。

 今回の提携発表は、同センターが開設以来最大のリストラを発表したのと同じ週、全国紙USAトゥデーがNASAトップの発言として「スペースシャトルと国際宇宙ステーション計画は誤りだった」(マイケル・グリフィン長官)という衝撃のコメントを伝えた翌日に行われた。

 シャトル計画は71年から延べ1500億ドルの膨大な予算を投じ、82年の初飛行から計14人の人命を犠牲にして続けられた人類史上最大のプロジェクトだ。それがミステイクだったという現実は米国人にとっても、これに積極的に出資してきた日本にとっても受け入れ難い。やり切れなさが黒雲のように広まった矢先だけに、グーグルのニュースは明るい希望をもって迎えられた。

 同センターはグーグル本社のある通称“グーグルプレックス”(元シリコン・グラフィックス本社)からハイウェイ101を挟んで数マイルの至近距離にある。元航空基地モフェット・フィールドの一角とあってゲートには米軍が警備に張り付いており、ハイテク企業が林立するシリコンバレーの中心にありながらここだけは異質な空間だ。提携成立により世界に社員4183人(6月現在)を抱えるグーグルは、NASA研究パーク内に最大100万平方フィートの政府用地をリースし、そこに本社ビルと研究設備を建築できることになった。

 かつて時代の先端にいた研究者たちがアイデアを交換して全く新しい技術を次々世に出したゼロックスのパロアルト研究所がそうであったように、両者が一体になることにより今度は「モフェットフィールドがシリコンバレーの新たな研究開発拠点となるのではないか」と、地元では早くも期待が高まっている。(市村佐登美)