【上海発】中国における第3世代(3G)携帯電話サービスのスケジュールは“視界不良”を極めていたが、わずかに前途が見えてきた。国産3G規格「TD-SCDMA」の商用化にめどがつき、「来春にもライセンス交付」との見通しが有力になってきた。中国政府としても、経済発展の節目としたい2008年に3Gサービスを本格化させるには、これ以上の“遅延行為”は許されない状況だ。

 今年8月時点で契約件数が3億7000万超に達し、世界最大規模を誇る中国の携帯電話市場。日本国内にも「3Gが解禁されれば、短期間のうちに普及する」と見る業界関係者が多い。

 日系企業の中で最も中国に力を入れるNECの金杉明信社長は、「中国には日本と同質のケータイ文化がある」と指摘する。実際、“2.5世代”のGPRS(高速版GMS)とCDMA1xにより提供される「着メロ」などのサービスが人気を博す。3Gを受け入れる消費市場がある。

 また、3Gが解禁されると既存の中国移動通信、中国聯通に加え、中国通信、中国衛通の新規参入が認められる公算が大きく、中国4大キャリアのそろい踏みとなる。端末もノキア、モトローラの欧米勢に、NEC、松下電器産業、サムスンといった日韓勢、力を付ける中国・台湾勢が集結。「世界で最も激烈な競争環境」(日系メーカー関係者)が3G普及を後押しするのは確実だ。

 それだけに3Gがいつ、どのような形で解禁されるかを、世界中の端末メーカー、通信設備メーカーが注目し、中国への投資を加速させてきた。当初は「05年夏にも3Gライセンス交付(市場解禁)」との見通しもあった。

 ただ、中国政府は自らが知的所有権を保有する独自3G規格「TD-SCDMA」の擁立にこだわり、国際標準規格のW-CDMA、CDMA2000と市場で併存させようとした。後発で多勢に無勢のTD-SCDMAが技術的に安定し、ビジネス環境を整えるのには相当な時間が必要であり、TD-SCDMAの動向がベールに包まれてきたため、3G解禁はやぶの中だった。

 その状況が変わったのは、9月末に中国・情報産業部主催で開催された「“3G IN CHINA” GLOBAL SUMMIT 2005」において、TD-SCDMAのベールが一部はがされたからだ。同サミットでは、政府側からTD-SCDMAの実証実験を受けて、「テスト結果は良好。年内にも商用サービスの技術的条件が整う」との報告があったとされる。

 また、TD-SCDMAの開発元である国営通信機器メーカーの大唐電信科技産業が主催する「国産3G連盟」は、半導体メーカー4社がTD-SCDMA対応チップの生産を開始、サムスン、LG電子の韓国勢と中国勢の端末メーカー14社へ供給を開始していることを明らかにした。

 TD-SCDMAの準備さえ整えば、中国の3G解禁への大きな障害はなくなる。

 3G解禁で携帯電話市場へ参入する中国通信に近い関係者は、「社内の設備計画を見ると、来年春あたりにライセンス交付があるのではないか」と指摘する。上海で開催した自社セミナーに参加したスウェーデンの大手通信機器メーカー、エリクソンの関係者は、「ライセンスは来年上半期には発行される」との見通しを語ったとされる。

 もちろん、「中国政府の発表だけでは、TD-SCDMAが本当に商用に耐えうるのか信用できない」(前出の端末メーカー関係者)と慎重な姿勢を見せる向きもあり、予断を許さない。

 ただ、2010年にも日本などで第4世代サービスが始まるとされるなかで、独自規格に配慮して3G解禁をこれ以上遅延するわけにはいかないだろう。3G解禁をにらみ早くから先行投資してきた欧米勢は、投資回収の計画がずれ込んだことにいら立ちを見せ始めている。

 前出の中国通信に近い関係者は、「政府としては、08年の北京オリンピック開催までには、経済発展のシンボルの1つとして3Gを本格普及させたいはず。キャリアのサービス立ち上げ期間を考えると、来年春(のライセンス交付)は最終リミットだろう」と話す。
坂口正憲(ジャーナリスト)