中国が知的財産権を有するデジタル映像コード技術のAVS(Audio Video Coding Standard)が苦境に追い込まれている。国内テレビメーカーなどの支持を集めてAVS産業聯盟(AVSA)を結成したものの、中国最大のテレビ局である中央電視台(中央テレビ、CCTV)が新設のデジタルチャンネルで海外の標準であるMPEG-2を採用。雲行きが怪しくなってきた。

 AVSは、使用する特許の90%以上が中国企業のものであることをアピールし、国を挙げて「中国独自の標準」を推進する流れの一環で登場した。研究開発自体は2003年から行なわれていたが、今年5月25日に産業聯盟を発足させたことで標準化をめざす動きが一段と活発化。携帯電話規格のTD─SCDMAや次世代DVD規格のEVDなど中国の標準化路線とあいまって業界の注目を集めている。

 現在、AVS産業聯盟に加盟しているのは、TCL集団、北京海爾(ハイアール)広科、創維(スカイワース)、華為技術、海信(ハイセンス)、浪潮集団、四川長虹(チャンホン)、上海広電、中興通訊(ZTE)など中国の大手ハードウェアメーカー15社。また、AVS標準化作業チームの参加団体は133(5月末現在)団体にまで増加している。133団体のうち、中国の大学および研究所が24%、海外に本社を置く企業や研究機関が30%を占めている。

 今年9月、AVS産業聯盟はEVD標準チームとの間で統一映像コードの産業標準を開発する戦略提携を締結。AVS標準はEVD標準の音声映像コードであるExACを採用し、チップの設計にあたってはExACコードとの互換性を保つこと、次世代EVDチップにもAVSコードのアルゴリズムを採用し、AVSとExACの融合を図ることなどで合意に達している。

 一方、中国政府はデジタル映像コード標準を第11次五カ年規画(「十一五」、2006─2010年)に組み入れ、第3世代(3G)携帯電話などと共に情報産業の重点事業に指定している。低調でありながらも順調に進んでいるかのようにみえたAVSの標準化だけに、中国最大のテレビ局がAVSでなく海外の標準であるMPEG─2を採用したことにより、産業化への足取りが乱れていることが明らかになった。

 中国が独自標準の策定に躍起になる原因のひとつには、海外特許を使用することによる特許料支払圧力の増加がある。実際、MPEG─2の特許使用料がセットトップボックス(STB)1台あたり2.5ドルであるのに対してAVSの特許使用料は1元。コストパフォーマンスではAVSが明らかに優位だ。

 それでもCCTVがMPEG─2を採用したことについて、業界では「信号伝送の忠実度を保証するため」とする技術的な見方のほか、「海外のコンテンツを多く配信するCCTVの特性上、海外で広く認知されているMPEG─2標準を使用する方が著作権保護などの面で有利に作用するため」とする声も強い。それでもAVS産業聯盟の張偉民・秘書長は、「引き続き国内テレビ局の加盟を促していく」とコメント。「信号の忠実度も著作権の保護もAVSは解決可能。産業チェーンの川上から川下にいたるまで中国独自の標準を採用すれば、海外標準に対抗することは可能」と、楽観的だ。

 今後の方針については、「通信、テレビ、ラジオのキャリアおよびコンテンツベンダーとコンタクトを強化していく」としており、幅広い提携関係を築くことでフィールドを拡大する意向だ。

 しかし、中国の有線デジタルテレビユーザーはすでに100万戸以上に達しているとみられている。そのため、すでに設置が進んでいるMPEG─2用セットトップボックスをAVS用に交換するためにはある程度のコストが発生することは避けられない。

 中国では「三流企業は製品で売る、一流企業は標準で売る」という概念が急激に広まっている。AVSの動向はその行方を占う一標準として見逃せない。(齋藤浩一)