GoogleとAzureで新規開発

 中小企業向け業務ソフトウェア大手の弥生(岡本浩一郎社長)は、2010年末までにクラウド・サービスを開始する。岡本社長が週刊BCNの取材で明らかにした。5月28日開催の記者向け説明会では「別のコードで開発した製品による新サービスを開始する」(同)と明言したが、クラウド実施を公表するのは初。具体的には、グーグルとマイクロソフトのクラウド基盤を利用する。一方、従業員100人以下の企業層をターゲットとするネットワーク版の販売では、新パートナー制度を6月から開始。各販社と共同で練った販売計画を、実現に向けて実行段階に移した。

 記者会見では「Pure SaaS型:弥生SaaS(仮称)」として、2010年末までに全く新しいアプリケーションで新サービス開始に向けた開発を進めていることを明らかにした。岡本社長は本紙の取材に対して、グーグルのクラウド・サービス基盤「Google Apps(グーグル・アップス)とマイクロソフトの同基盤「Windows Azure(ウィンドウズ・アジュール)」で開発を開始していることを明言した。弥生のソフトである会計や販売管理製品などを中核に付帯する付加価値サービスを同時提供できる「新サービス」にする構想とみられる。

 弥生会計など業務ソフトは家電量販店市場で、約40%(本数ベース/BCNランキング)という圧倒的なシェアを獲得している。世界同時不況の影響を受ける国内市場にあって、新版出荷後の2008年12月~09年3月までの累計では、前年同期に比べ本数ベースで3.5%増、金額ベースで5.2%増と、確実に顧客を増やしている。しかし、岡本社長は「トップベンダーの役割は市場全体を伸ばすことだが、これを成し遂げられていない。新たなサービスを付加できる器が必要」とみている。その具体策として、パソコンで会計処理する企業の潜在ユーザーを顕在化させるうえで、イニシャルコスト(初期導入費)をかけずに利用価値の高いサービスへシフトすることを決断したようだ。同社のクラウド・サービスでは、従業員20人以下の潜在顧客を掘り起こす考えだ。

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 マイクロソフトによれば、日本企業の8割を占める中小規模の企業では、サーバー利用率がわずか1.6%にとどまり、非生産的なIT活用に陥っているという。会計ソフトベンダーは長年にわたって、パソコンで会計処理を行う「自計化」へ向けた取り組みをしてきたが、普及がいまだ途上にある。このため、サーバー費用などのイニシャルコストをかけずに従量課金制で利用可能なSaaSなどのWebサービスに期待が寄せられていた。

 弥生は今年度(09年9月期)上期に、現行製品ユーザー(保守契約社)に対する無償のサービスとして「福利厚生サービス」「業種別勘定科目テンプレート提供」「仕訳相談サービス」などを追加。こうしたサービスが、新たに開始するクラウド・サービスと直結するかどうかは不明だ。また、クラウド・サービスに向かう前段として、従業員100人以下の同社ユーザーでは規模が大きめの企業に対し、インストラクションと協業して実現した「かんたんホスティング for 弥生会計」を6月1日から開始するなど、さまざまな布石を打っている模様だ。

 一方、ネットワーク版では、6月1日から旧制度を改定した新パートナー制度を開始した。ネットワーク版のパートナーは全国に約650社存在するが、数を増やすことに追われた反省があるという。新制度では、弥生の営業担当部門と販社で販売計画を立案し、「販社が利益を確実に得られる付加価値の高い製品を提供する」(岡本社長)体制にしたと強調する。

 弥生の今年度上期は、売上高が前年同期比1.9%減ったものの、保守契約のストックが伸びたほか、経費削減が奏功して営業利益が同10%以上増加した。しかし、今年度下期と来期は「現状で推移する『守り』が続く」(同)と予測する。クラウド・サービスは次の成長を支える重要な要素になりそうだ。(谷畑良胤)

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他のサービスと会計が接続へ

 弥生の岡本浩一郎社長は、前職の野村総合研究所(NRI)でシステムエンジニア(SE)の経験をもつ。NRI在籍時には、当時流行の兆しを見せていたASPを研究したが、ユーザーが増えるごとにデータセンター側のコストが増加する仕組みであることなどを踏まえ、「普及しないだろう」との見通しを示していたと聞く。しかし、SaaSの登場により、この考えが一変。昨年4月1日、弥生の社長に就任して早々、「SaaS事業を新たな柱に育てる」と構想を打ち立てた。

 岡本社長は弥生の弱点について「ソフトウェアが作り手(開発者)主導でつくられ、会計に縛られていた。ユーザー視点で業務ソフトを再定義したい」と語る。

 今回のクラウド・サービスは、会計や販売管理など同社主力製品の利用価値を上げるだけでなく、クラウド・コンピューティングとして提供されている同社以外の国内外のアプリケーションを会計ソフトとマッシュアップして使える利用環境を整えるということだろう。

 家電量販店で販売するスタンドアローン版の同社ソフトは、保守契約率が40%、継続率が80%と競合他社に比べ、驚異的な数字をマークしている。この率の高さが同社売上高の40%前後を占めるストックを生みだしている。クラウド・サービスに業態をシフトすれば、契約・購入と同時に保守契約されるため、契約率の心配が薄れて新たな「囲い込み」が可能となる。

 さらに、会計や販売管理などに加えて、ユーザー側で弥生が提供するモノや世に出回るクラウド・サービスを接続でき、顧客満足度も高められる。

 ただ、弥生のような動きは、すでに高いシェアを獲得し、一定の「安心感」を得ているメーカーのスケールメリットがあってはじめて可能といえる。中小企業向けを“主戦場”とする業務ソフトメーカーは、SaaSにビジネスをシフトしているが、今後どう販社の変革が成されるか注目される。(谷畑良胤)