プリンストンテクノロジーの前社長である池田譲治氏が、2009年11月12日、自らが設立した会社を突然離れ、2010年1月22日に新会社を設立した。プリンストンを創業後、約15年で年商100億円を超す企業へと育て、その間、赤字決算は一度だけ。今年度(10年2月期)上期も黒字だった。氏はなぜ今、プリンストンを離れ、新会社設立の道を選んだのか。本人がBCNの取材に応じ、その理由を語った(取材/文 木村剛士)

自身の戦略に曇りなし。ただ、プリンストンの未来を考え退任を決断

 ──創業者社長、そして筆頭株主の立場にいた池田さんが、なぜ突然プリンストンテクノロジーを離れたのですか。

 池田 2009年11月4日の出来事です。3人の経営幹部から今の経営戦略を見直してほしいと言われたのがきっかけです。私の考えとは異なる経営プランを提示されました。プリンストンのビジネスは、大きく「法人向け製品の開発・販売」「個人向け製品の開発・販売」、そして法人向け製品のなかでも事業ボリュームが大きい「ポリコム製テレビ会議システムの販売」の3分野に分かれています。このうちテレビ会議システム事業は、この3-4年は非常に好調で、利益に貢献していました。

 ──大きな柱だったわけですね。

 池田 約40%を占めるまでに至っていました。依存度が徐々に高まりつつありましたね。3人の経営幹部から受けた提案は、この状況を踏まえて、事業の「選択と集中」を行うという内容。つまりテレビ会議システム事業に「集中」したいということです。私にその考えはありませんでした。もちろん拒否することができましたよ。ただ、その案に現場のマネージャークラスの約半数が同意していると言われたのです。現場で戦う従業員を束ねる立場のマネージャーも同意しているとなれば、プリンストンの未来を考えて私は退くべきだと思ったのです。

 ──自らが設立し、約15年間トップを務めた企業となれば、思いも当然強いはず。それなのに即決退任とは、潔すぎる印象です。以前からそうした議論はあったのですか。

 池田 確かにこうした提案は以前からありました。ただ、あの1日で一気に話が進み、私が決断するのに費やした時間は数分。自分のことですが、「こんなドラマのようなことが現実に起きるんだなあ」と、自分を客観視してしまいましたよ(笑)。今になってみれば、今後の人生のための“素晴らしいハプニング”だと思っています。

 ──プリンストンを去った今でも、自身が貫いた経営戦略に間違いはないと思っていますか。

 池田 私はこれまで「選択と集中」ではなく、「選択と拡張」を推進してきました。緻密な調査を経て、伸びると感じた分野には徹底攻勢をかけてビジネスを伸ばす。そうしたカテゴリを複数つくることで、企業規模を拡大する。プリンストンはこの戦略で伸びた会社です。

 一部では「業績不振が退任の理由」といわれているようですが、赤字決算は過去14期のうち一度だけ。それも4年前の11期です。今年度上期も、大変厳しい環境でしたが、黒字で終えることができました。

 拡張路線を急速に進めすぎて母体が大きくなり、統率が効かなくなっていたのは確かでしょう。ここは反省点ですが、自分の戦略が間違っているとは、今でも思っていません。

新会社は4-5年後のIPOが目標。従業員は増やさず「SMBの理想像」を目指す

 ──11月12日の退任後、わずか2か月で新会社「フォースメディア」を設立。そのスピードに驚きました。

 池田 少しのんびりしようと思ったんですけどね(笑)。11月下旬には準備に取り掛かっていたと思います。家族には本当に支えられたので、会社設立は「いい夫婦の日」の1月22日。資本金はすべて自分で用意しました。今は元プリンストンの従業員を中心に、約10人のメンバーとビジネスに取り組んでいます。

 ──フォースメディアの事業内容を教えてください。

 池田 法人向け・個人向けのIT・デジタル機器市場に、自社開発製品や海外から輸入した製品を販売します。法人向けは、まずはデジタルサイネージに活用できるモニタやネットワーク関連製品を投入する計画です。すでに海外メーカーと提携しました。個人向けには、自社ブランド「J-Force」を立ち上げて、PC周辺機器やデジタル家電製品をラインアップします。今、準備の真っ只中で、6月までには7-8製品発売するつもりです。

 ──フォースメディアのゴールは何に定めていますか。

 池田 まずはIPO(新規株式公開)を目指します。目標は4ー5年後。会社の長期的な将来像と、次の経営者のためにも、IPOは必要だと思っています。それと、偉そうかもしれませんが、フォースメディアでは「SMB(中堅・中小企業)の理想」を目指すつもりです。

 従業員数は増やさずに、多くても30人ぐらいの少数精鋭の集団であり続けながら、業容・売上高を拡大させていきたい。アウトソーシングを多用して、従業員はなるべく増やさない事業基盤を作るつもりです。

 ──その理由は何ですか。

 池田 先ほどお話ししたように、プリンストンの経営で反省しているのが、「規模の論理」にこだわりすぎたことです。業容は拡大し、売上高も増えてはいたのですが、拙速に拠点や人員を増やしすぎたと思っています。それが原因で、メンバー全員の意識の統一ができなくなっていたのを実感していました。一般的に、「企業は従業員数が100人を超えればステージが変わる。マネジメントを変える必要がある」といわれますが、本当にそうだな、と痛感しました。

 私は新会社でIPOを目指します。売り上げや利益にもこだわります。ただ、それ以上に新会社で私が大切にしているのは、メンバー全員の価値の共有です。すべての従業員が、同じ目標や理想に向かって、気持ちよく走ることができる──そんな集団づくりなんです。それを実現したくて、私はフォースメディアをつくりました。

池田譲治社長は新会社の事業内容や目標について、終始生き生きとした表情で語った