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<ASEANを数字で読み解く>2.決済・電子マネー編

2015/03/12 18:59

週刊BCN 2015年03月09日vol.1570掲載

 ASEANでは、経済成長に伴って消費社会が形成され、電子マネーで支払いをするという消費行動が盛り上がりをみせている。野村総合研究所(NRI)は、ASEANの非現金決済金額は2020年までに、日本と同程度の約3兆米ドルに拡大することを予測している。経済成長に沸くインドネシアがけん引するかたちだ。この動きは、日本のITベンダーにどんな商機をもたらすのか。NRIのデータをもとに、ASEANの決済・電子マネー市場の可能性を探る。(ゼンフ ミシャ)

2020年の非現金決済金額
日本と同水準に
インドネシアがけん引役

 アジアにおける2015年の非現金決済金額を国・地域別でみると、中国は約15兆米ドルで首位を握る。2位は日本(約3兆米ドル)、3位はASEAN(10か国の合計、2兆米ドル強)、4位はインド(1兆米ドル強)と続いている(図1)。向こう5年、ASEANは活発な伸びをみせ、2020年には、横ばいで推移する日本と同じくらいの水準に達する見込みだ。電子マネー王国ともいえる中国には及ばないものの、ASEANで、注目すべき決済・電子マネー市場が立ち上がるのは間違いないだろう。


●タイにも要注目

 ASEANの決済・電子マネー市場のけん引役は、GDP(国内総生産)トップのシンガポールではない。ASEANのなかで人口が圧倒的に多く、経済成長に沸くインドネシアが、ASEANの決済・電子マネー市場を引っ張るとみられる。

 NRIによると、2013年時点で非現金決済金額が大きいのは、インドネシア(約7000億米ドル)をはじめ、タイ(約4000米ドル)やフィリピン(約3000米ドル)だ。なかでも、インドネシアは成長が著しく、同国の決済・電子マネー市場は2020年までに、1兆米ドルを突破することが予測されている。一方、シンガポールは、交通系や銀行系の電子マネーは広く普及しているが、面積が小さい都市国家なので、ASEANのほかの国と比べ、人口が少ない。そのため、13年の市場規模は、マレーシアとベトナムに次いで、6位になる。今後も横ばいで推移し、2020年は6位のままという見込みだ(図2)。


 インドネシアでは、首都ジャカルタをはじめ、都市部からカード決済の普及が速いスピードで始まっている。2012年、NTTデータが現地の通信キャリアであるTelkom Indonesiaと共同でモバイルNFC(近距離無線通信)ペイメントの実証実験を実施するなど、日本のITベンダーが力を貸して、非現金決済のインフラ整備が進んでいる。さらに、国も動き、非現金決済関連の法整備を進めつつある。そんななかにあって、NRIのICT・メディア産業コンサルティング部の田中大輔・上級コンサルタントは、インドネシアを「ASEANで決済・電子マネー市場の成長が最も期待される国」と位置づけている。

 では、インドネシア以外はどうなのか。ASEAN各国の決済・電子マネー市場の可能性についてのヒントを得るために、個人の購買力を表す一人あたりGDPの推移をみてみよう(図3)。インドネシアに加え、2020年までに一人あたりGDPが活発に伸びることが見込まれるのは、マレーシア(2020年予測は1万2177米ドル)とタイ(7099米ドル)である。マレーシアは、GDPの成長とは裏腹に、非現金決済金額は横ばいで推移し、大きな伸びをみせない。一方、タイに関しては、電子マネーの利用がさらに活性化し、非現金決済金額は2020年までに、5000億米ドルを超える見通し。インドネシアと比べ、市場規模としては半分だが、タイも、決済・電子マネーをめぐる商機が旺盛になるだろう。

●日本のノウハウを提案

 NRIの田中上級コンサルタントは、「カード事業やその裏で動くシステムの事業など、日本で培ったサービスノウハウをASEANへ展開することでビジネスチャンスを見出すことができる」と指摘する。ユーザーの利便性を高め、電子マネーの利用を促すために、各カードシステムを共通化したり、かつて日本で直面した課題の解決を合わせて提案すれば、受注の確率が高まるといえそうだ。しかし、「マーケット成長の速度が国によって異なるので、横展開の可能性は慎重に検討しなければならない」(同)という点には、留意する必要がある。
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