【上海発】中国の流通・小売・サービス業の特異な実態が浮き彫りになってきた。発達しきれていない中国の流通・小売・サービス業の脇の甘さを突くかたちで、ソーシャルメディアと巧みに融合した新興のネット通販やサービス業が急成長。固定電話が十分に整備されないうちに、携帯電話のほうが先に普及した中国特有の構図が、流通・小売・サービス業においても繰り返されているのだ。野村総合研究所(NRI)の最新の研究に基づいてレポートする。(安藤章司)

既存小売りのぜい弱さ

郷裕
上級諮詢
顧問
 直近の中国流通・小売サービス業を俯瞰してみると、中国全土に約4000店あった百貨店・総合スーパーなど大型店舗が、2014年だけで実に200店舗余りが閉店し、うち7割が外資系だった。中国に進出した外資系大手を中国地場大手が買収する動きも活発化している。

 中国の消費市場は2013年は前年比13.1%増、2014年は同12.0%増と、成長は若干鈍化しているものの、依然として“高度成長”を続けている。流通・小売サービスで中国よりも遥かに“先進的”であるはずの日系企業も、これまで果敢に中国市場へ挑戦してきたが、残念ながら大成功しているとは言い難い。本来ならばより洗練された先進国由来の外資系大型店が、中国の旺盛な消費の受け皿となることがイメージされがちだが、実態は大きく異なる。その一方で、ネット通販大手の阿里巴巴(アリババ)や京東といった地場ネット企業グループが相次いで株式を上場。アリババの時価総額は実に約25兆円にも達し、米アマゾン約16兆円、楽天約1兆7000億円と比較しても突出している。

劉芳
諮詢顧問
 なぜか──。荒削りな言い方をすれば、中国の既存の流通・小売・サービス業のぜい弱さ、未発達さがその背景にある。高水準のサービスを提供している小売業が存在するといわれながらも、そうでない低水準な店も想像以上に多い。リアル店舗の店員のサービス業としての意識の低さ、商品知識不足、レジでの長い行列、アフターサービスの貧弱さなど、枚挙にいとまがない。

最先端を行くネット勢

 市場経済の価値観が浸透しつつあるとはいえ、古い計画経済時代の商慣習が残っているきらいがある。ここに目をつけたのが阿里巴巴や京東といった新興ネット企業である。固定電話が普及しきっていないにもかかわらず、携帯電話のほうが先に普及するというかつての順序の逆転現象が、流通・小売・サービス業でも起きているわけだ (図1)。


 ネット勢は、既存店舗と差異化すべく、米国式の徹底した顧客主義を貫き、「ソーシャルメディア上などで書き込まれる消費者のコメントをつぶさに分析して、サービス向上につなげる経営姿勢で消費者の心を鷲(わし)づかみにした」(野村総合研究所上海法人北京分公司の郷裕・営業総監上級諮詢顧問)ことが、新興ネット勢の勝因となった。2011年には、消費市場の約4.4%に過ぎなかったネット通販は、2014年には日本のネット通販比率を上回る10%の大台に乗る勢いで推移しており、「向こう数年で20%規模に迫る」(同)とみられる(図2)。


 また、スマートデバイスの劇的な普及もネット勢の追い風になった。中国大手スマートフォンメーカーに急成長した小米科技は、「ネット上でのファンとの交流を通じて、消費者が製品開発に“参加する感覚”を得られる独自の仕組みを構築」(劉芳・消費財・流通戦略部諮詢顧問)、ユーザーの意見を反映するかたちで、頻繁にソフトウェアをアップデートしている。2014年のネット通販に使う端末は、モバイルデバイスが33%まで拡大し、2016年には50%を超える見通しだ(図3)。


 ソーシャルをはじめとするネットサービスを駆使し、最新のスマートデバイスの普及に後押しされるかたちで、「既存の流通・小売・サービスをはるかに上回る利便性」をネット勢が提供している点が、中国の今の姿だと野村総合研究所上海法人北京分公司では分析している。

 日系企業が中国で成功するためには、もはや世界最先端ともいえる中国の新興ネット企業を上回るサービスを打ち出すしかない。とりわけ既存の流通・小売・サービスが充実している日本国内の流通・小売・サービス企業は、ややもすれば「リアル店舗優先」の傾向が強く、「中国ネット勢の動きを重視し、謙虚に学ぶ姿勢が、中国での流通・小売サービスビジネスで勝ち残る道だ」(郷上級諮詢顧問)と指摘している。