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経営にメスを入れないと 働き方改革は成功しない

2017/12/07 09:00

週刊BCN 2017年12月04日vol.1705掲載

アウトプットを変えて逆算せよ

 Gmailで多くのユーザーを獲得しているグーグルが、仕事にメールを使わないという。メールの返信を待つことが、結論を遅らせる要因になるためだ。プロノイア・グループ代表取締役のピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、グーグルに在籍していた自身の経験をもとに著書で効率的な仕事の進め方を指南している。同書が話題になった背景にあるのは、働き方改革。労働生産性を上げるにはIT活用が不可欠だが、それだけでは働き方改革を実現できない。何が必要で何が間違っているのか、ピョートル氏に聞いた。

働き方改革は経営改革

──「世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか」というピョートルさんの著書のタイトルを見て、とても興味を抱きました。仕事のスピードを上げるのは、働き方改革で求められる要素の一つかと思います。日本では国を挙げて働き方改革を推進していますが、その取り組みに対して、どのような感想をおもちですか。
 

プロノイア・グループ
ピョートル・フェリクス・グジバチ
代表取締役

 企業が取り組んでいる働き方改革は、考え方が根本的に間違っていると思います。というのも、残業を減らすとか、どこでも働けるようにするとか、仕事のプロセスしか考えていないからです。もちろん、大切なことですが、それでは働き方改革は実現できません。

──確かに、ほとんどがそういった取り組みになっていますし、国としても、企業に求めているのは労働時間の短縮と多様な働き方の実現にあると思います。

 労働時間を短縮して残業を減らすとか、テレワークやモバイルワークなどを導入するといったことは、人事部が主導する取り組みになります。問題は、そこにあります。働き方改革は、人事部ではなく、経営者が主導しなければなりません。重要なのは、経営者が経営の問題として働き方改革に取り組むということ。働き方改革は、経営改革だからです。ビジネスモデルや企業のミッションといった視点から取り組む必要があります。

──働き方改革で労働時間を短縮するだけでは、企業は成長できないということですね。

 労働時間を減らすだけで、ほかに何もしなければ、会社は弱ってしまいます。そこで生産性を高めることになりますが、高めるだけでは業績は上がりません。アウトプットが同じだからです。

──働き方改革に取り組むなら、企業の成長には貢献することを考えるべき。経営改革が必要という理由が、よくわかりました。

 現状でも業績が上がっていないとしたら、新しいビジネスに注力する必要があります。働き方改革で生産性を高めたら、余力で新規事業に注力することが可能になります。アウトプットから逆算して、インプットを考える。アウトプットができていれば、何のために生産性を高めるのかがみえてきます。働き方改革を経営改革にするというのは、そういうことです。

ITだけでは長続きしない 

──働き方改革でIT関連のソリューションの導入が進み、IT業界は盛り上がっています。ツールの活用という視点から、IT業界が提案すべきポイントはどこにあるとお考えですか。

 ITは、効率化という面で価値があると思います。ただ、それだけではIT業界の盛り上がりが長続きしないでしょう。

──では、どうするべきでしょうか。

 まずは、企業のピラミッド構造を変えるという視点で提案してみたらいかがでしょうか。日本企業では、多くの社員が上司との意思疎通ができていないというデータがあります。意思疎通の悪さは、企業の意思決定を遅らせる原因の一つになります。その改善には、チャットに代表されるコミュニケーションツールが有効です。メールと違って、スピード感のあるコミュニケーションができるし、相手の都合を考える必要もない。シリコンバレーでは、社内の意思疎通を円滑にし、意思決定のスピードを上げて、新製品の開発に取り組む企業が増えています。

──組織のあり方の見直しも必要になりそうです。

 その通りで、ITを活用して効率化を推進しても、ピラミッド型の組織構造のままでは大きな効果は期待できません。組織間の風通しをよくする。加えて、アウトプットをしっかり設定する。例えば、売り上げを10倍にするとアウトプットを設定する。これによって、効率化を進める意味、意思疎通を円滑にする意味がみえてきます。

──ユーザー企業の経営者にそこまで提案できるかどうかが、ITベンダーの腕のみせどころになりそうです。

社員もアウトプットを考える

──働き方改革は、会社だけでなく、社員のためでもあります。労働時間を短縮できれば、趣味や家庭のために時間をえるようになります。

 これからは個人にも生き残りをかけた取り組みが求められます。例えば、AI(人工知能)は多くの仕事を奪うでしょう。専門性を生かした個人の軸をもたなければ危ない。むしろ、「現在の自分の仕事は意味がない」という気持ちで今後を考えるべきです。個人も、インプットではなく、アウトプットで考える。新たな時代の到来は、新たな自分を見出すチャンスでもあるのです。

 
profile
 ポーランド生まれ。2000年に来日。02年にベルリッツでグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者。06年にモルガン・スタンレーでラーニング&ディベロップメントヴァイスプレジデント。11年よりグーグルにて、アジアパシフィックでのピープルディベロップメント、14年からはグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わる。現在は独立し、プロノイア・グループとモティファイの2社を経営。「世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか」(SBクリエイティブ刊)など、著書多数。
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外部リンク

プロノイア・グループ=http://www.pronoiagroup.com/