都築電気は、社会や業際的な課題解決に挑める人材育成に力を入れている。全社の役員・従業員を対象にDX検定の認定取得を奨励するとともに、同社独自のDX資格「DXアソシエイト」認定者を増やしている。さらに、地域や他社に出向して課題解決に当たる越境学習プログラムの活用など多様な人材育成策を実行。従来のビジネスから一歩踏み出し、より影響範囲の大きい社会や業界・業際的な課題を解決する新領域のビジネスを広げていく方針だ。
(安藤章司)
4人に1人がDX検定の合格者に
都築電気は、長期的な経営ビジョンとして社会課題や先端技術を起点とした課題解決の領域をビジネスの新領域と位置付け、重点的に伸ばす方針を打ち出している(図参照)。社会課題を起点とする新領域に進出するに当たり、同社はまずDXの基礎的な知識をすべての役員・従業員に身につけてもらうとともに、個々人の業務や職務の経験に基づいた経験論文を執筆。一定水準以上に達した人を社内資格のDXアソシエイトとして認定する制度を立ち上げている。
DX知識の習得に当たっては、日本イノベーション融合学会が実施している「DX検定」の認定取得を推奨しており、直近で340人余りが3段階の認定レベルの下限である600点超の成績を修めて「DXスタンダードレベル」以上と認定された。阿部宏毅・執行役員総務人事統括部長は、「都築電気単体の社員約1200人のうち、およそ4人に1人がDXスタンダードレベル以上の認定となった」と話す。現在60人余りが新たにDX検定に挑んでおり、DXに対する理解と意識の底上げに努めている。
阿部宏毅 執行役員
DX検定の認定を取得後は、それぞれの業務や職務の経験に基づいた経験論文を執筆するフェーズへと進む。ユーザー企業と常に接点を持っている営業・SEであれば、客先で先進的なデジタル技術を駆使して業務を変革し、ユーザー企業の売り上げや利益の向上に貢献したプロジェクトなどを経験論文にまとめることが想定される。
開発中心のプログラマーであれば、ローコード開発を駆使して生産性を向上させた経験、システム運用担当者であれば運用自動化や品質の向上施策の取り組みなどが論文テーマの候補に挙げられる。経営企画などスタッフ部門であれば、例えば経営戦略を取りまとめるに当たって実施した社内アンケートを生成AIを使って意見集約を効率化するといった論文執筆を想定している。
ユーザー企業先のDXのみならず、都築電気自身のDXも推進できるよう、「開発や運用、スタッフ部門を含めた全社員にDX知識を身につけてもらう」(飯田浩二・人事戦略室担当課長)ことを重視している。
飯田浩二 担当課長
上期の人材投資を6倍に増やす
経験論文で一定の水準に達していると判断されれば、都築電気の社内資格であるDXアソシエイトに認定される。直近の認定者数は197人で、2026年3月期までの3カ年中期経営計画で定めた目標の240人に対する進捗率は82%まで到達している。DXアソシエイトのさらに上位資格として、「高度DX人材認定」を設定している。同認定では情報処理推進機構が定義しているDX人材像を参考にビジネスデザイン、データ分析、UX設計、先進技術の実装といった技能を総合的に評価。直近では7人が認定を受けており、中計最終年度では10人に拡充していく。
同社は33年3月期までの長期ビジョンで、社会課題の解決を起点とした新領域ビジネスに進出するため、実社会のさまざまな課題に向き合う越境学習プログラムを実施している。同プログラムでは地域社会や業界全体が抱える課題を解決するため、対立する意見を調整するなどして利害関係者同士をとりまとめる能力を伸ばすことに主眼を置く。ユーザー企業内の業務的課題を解決する従来型のSIビジネスから一歩踏み出し、ビジネスの幅を広げていく戦略だ。
具体的には、社内から越境学習の参加者を募り、町おこしや漁業振興のプロジェクトに加わったり、社会や業際的な課題解決に長けたコンサルティング会社に留学したりする。短期では1週間、長期プロジェクトでは3カ月にわたって現地に赴く場合もある。足元では25人ほど参加しており、「ITだけではない地域や業際的な調整能力を身につけてもらう」(飯田担当課長)活動に力を入れる。
前述のDX検定では、DXの初歩的な知識をチェックするマインドチェックさえ合格すれば、検定料は全額会社負担とし、越境学習プログラムも人材育成の一環として会社が費用負担をしていることから本年度上期(23年4~9月)は前年同期比で6倍余りの人材育成投資を行っている。また、本年度から過去5年の人的資本のデータを開示し、社内外から定量的に閲覧できるようにした。阿部執行役員は、「人材を資本と位置付けて投資を行うことが、長期ビジョンで定めた新領域への進出の近道になる」と捉えている。