【1980年代のIT】拡大するパソコン 販売店の明日は?

強まるチェーン店の勢力

1982/03/15 16:04

フランチャイズ方式 大規模チェーンの誕生 米国市場販売力で独立店を圧倒

多業種からの進出相つぐ


 パソコン専門店をはじめ情報処理サービス、家電販売店、事務機器販売店、オフコン販売店とパソコン販売に意欲的に取り組む販売代理店の現状と今後の問題を中心に述べてきた。これらの業種の企業が現在、パソコン販売に最も積極的な姿勢を示している業種であるが、最近ではこれら本命と見られる業種以外の、いわゆる異業種といわれる分野からのパソコン市場への進出が相次いでいる。

 3月1日、日本アイ・ビー・エムがVSBC(ペリー・スモール・ビジネス・コンピュータ)「IBMシステム23」を発表すると同時に特約店制度を発足させたが、1月時点で決まっていた特約店15社のうち5社が、この5つの業種に含まれない異業種である。カーディーラーの東京日産自動車販売、モービル石油の重油販売、自動車設備工場の経営を行っている徳島スタンガス、酒卸売の老舗のぬ利彦、医薬品、動物薬品、医用機器などの商社ホシ伊藤、それに紙・板紙、和紙の専門商社、吉川紙商事。5社ともにIBMのユーザーであり見方によっては、それぞれの業種向けのソフトウェア・パッケージを取りそろえたということになる。

参入への契機は二通り


 最近の異業種の進出の代表的なところでは、百貨店、スーパーといった小売業と書籍販売店であり、小売業では三越、ダイエーをはじめ西武百貨店などが販売を開始している。書籍店では丸善、紀伊国屋書店などが主なところである。異業種のパソコン市場への進出は、日本IBMの特約店のように、これまでコンピュータを積極的に利用し、その結果、いろいろなソフトウェア・パソケージを開発、それをパソコン代理店となって販売していこうという形態と小売業や書籍店のように一般大衆を対象とした商売で、大規模な流通ネットワークの中で売っていこうという企業に大別できる。

 前者はある業種に絞った販売となってくる可能性が強いことから、同業種へのソフト的な対応はできても、それ以上の拡大を目指すとなるとかなりの困難がつきまとってくる。逆に後者は、販売ネットは強力なものがあるがソフト対応がどこまでできるかが、成長の鍵を握ることになる。このように最初に述べた5業種を含め、各業種のパソコン販売店は、それぞれの強みを持ってパソコン市場に進出してきたが、反対にそれぞれの弱点も常に持ち合わせており、今後のパソコン市場をどのように占有していくかは、かなり流動的であるといえそうだ。

 しかし、今後のパソコン販売業界において独立ディーラーが不利な立場になってくるのは確実であろう。日本で現在、食品や衣料業界で起こっているような大規模チェーンの進出と、パソコン・メーカー自身のセールス部隊が、独立ディーラーの成長に釘をさすことも予想できる。すでにパソコンの先進国である米国では、そうした傾向がはっきりと現われてきている。最近のビジネス・ウィーク誌によると、世界最大のパソコン・メーカーであるタンディ社は子会社のラジオシャックを通じて全世界の8300店のエレクトロニクス・ストアと300のコンピュータ・センターのチェーン化を積極的に進めている。また、第2位のアップルコンピュータ社は独立ディーラーの獲得を目指してきたが、独立ディーラーに資金援助を行うとともにセールスプロモーション、社員訓練をほどこして独立ディーラーのチェーン化を展開、アップル用のプログラムを競って作らせるようにしたことによって、驚異的な伸びを示している。

フライチャンズで売上げ急増


 昨年進出したIBMも、自社の小売ショップを開設する一方、米国の有力なパソコン専門のフランチャイズチェーンであるコンピュータランド社と販売契約した。ゼロックス社も独立ディーラーの利用を行っているが、中心は自社の小売ストアの開設においており、85年までには500店までに拡大する計画を持っている。さらにIBMと提携したコンピュータランド社は米国に245店のフランチャイジーを持ち海外14か国をネットするパソコン代理店で、フランチャイズ店を82年までに300店以上にする計画である。

 このように米国では、パソコン・メーカー自身が自社の小売ストアを作るとともにチェーン展開を開始、また、大手のパソコン・ディーラーがフランチャイザーとなり、チェーン展開を進めるという傾向が強くなっており、その勢力は強くなる一方である。コンピュータリテーリング誌の発行主であるマイケル・ウイッター氏は、大規模チェーン店の台頭によって1980年だけで独立ディーラー、とくに弱小小売店の少なくとも100店が店を閉じた。81年はその2倍が永久に店を閉じることになろう、と語っているほどだ。日本でも近い将来、米国のような傾向が出てくることは間違いなく、すでに一部ではパソコンメーカー、大手パソコンディーラー、あるいは総合商社などを中心に、チェーン化の動きが出始めているのも事実だ。(終わり)
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