大阪府羽曳野市役所は1991年から、ほかの自治体に先駆けて、証明書の自動交付や施設利用予約を市内の公共施設に設置した端末から提供する仕組みを構築している、いわゆる先進自治体の1つである。その取り組みを牽引する秘書室・戸谷壽夫理事(情報・行革担当)は、10年先の市役所行政の姿を見据え、官・学・民連携の住民を重視したサービスの実現に向け、着実な取り組みをみせている。しかし、羽曳野市のような自治体でも、さまざまな問題を抱えている。(最終回)(谷古宇浩司●取材/文)



シティカードを発行

 羽曳野市秘書室・戸谷理事は、自治体のIT化には「光と影がある」という。光の部分とは脚光を浴びるITという名の変革の恩恵である。

 自治体業務が順調にIT化へと移行した際、住民は従来役所に足を運ばねばならなかった各種証明書の発行/受け取り作業を、自宅に居ながらにして行える。また、行政情報も簡単に手に入れられるようになる。

 自治体側にしても、初期投資、維持費はかかるものの、長い目でみればコスト削減につながっていく。

 一方、影の部分は、光の恩恵が的を外れた形であらわれる場合を指す。

 「初期投資・維持費に莫大な予算を割きながら、実際には住民がほとんど利用しないというケースが出てくるのではないか」。戸谷理事はそう懸念を示す。

 羽曳野市は、91年から各種証明書の自動交付システムを構築するなど、業務の電子化では全国に先駆ける先進自治体に数えられる。シティカードを発行し、住民票の写しや外国人登録済証明書、印鑑登録証明書、市民税証明書、固定資産税証明書が、平日は午前8時45分から午後7時まで、土日は午前9時から午後5時まで、市役所のロビーやコミュニティセンターなどの公共施設に設置した交付端末で手に入れられるようになっている。

 また、施設予約は、12の公共施設に設置した端末から行える仕組みも構築している。これは、千葉県市川市がコンビニエンスストアに設置した施設予約端末で始めたサービスに先駆けるもの。戸谷理事は、「住民サービスの一環として、市民からはメリットがあると好評を得ている。しかし、本当の電子自治体業務への転換は、これから」と話す。

 というのも、証明書の発行や施設予約などのサービスは、行政業務全体の構造改善に関わるほどのインパクトはもっていないからだ。

 位置づけとしては、サービスが電子化された際のイメージを住民に知ってもらうための実験的取り組みと捉えることができる。ただ、そういう意味では、「羽曳野市の取り組みは、住民の方達からから好評をもって迎えられている」という。

 では、羽曳野市が考える電子自治体の姿とはどのようなものか。戸谷理事は、「ワンストップでさまざまな行政業務を統合する窓口を設け、コンピュータで処理できる業務は処理し、コストの大幅な削減を実現するとともに、住民により良いサービスを提供するもの」と定義する。

 これは10年先を視野に入れた革新的な市役所業務の姿であり、「実現可能かどうかは今の時点ではわからない」段階でもある。

行政の仕組みを変革

 現在、市役所では各課の窓口が開設され、縦割りで業務が行われている。それを、(1)1つの窓口に統合し、住民からみた利便性を向上させる、(2)窓口で受けた依頼は各課に回され、IT化によって簡略化できる業務はすべてITによって処理してしまう──。このような仕組みは、結果的に人員削減が必要であり、役所の組織改革もともなう。

 戸谷理事は、「役所業務にも経営の考えを導入する必要がある」とし、「行政の仕組みを転換する時期は、IT化が叫ばれている今が最適の時期」とする。つまり、ITをテコとした自治体改革の時期が今、ということである。

 羽曳野市役所の場合、役所内のIT化に携わる業務を統括するのは、秘書室の情報管理課。

 戸谷理事は、秘書室理事として情報・行革担当を請け負う。情報管理課はシステム開発や庶務など、合わせて16人の体制。このうち10人が役所内のシステム開発に携わる。01年度の開発予算は約500万円で、ほとんどすべてを役所内で行った。外部委託やアウトソーシングを活用しない分、費用が少なく抑えられているのだ。

 このほか、業務のIT化にともなう行政改革の企画を立案するのも、同課および戸谷理事の仕事。だが、「政策決定まで行うことはできず、必ず財政問題で引っかかってしまう」という問題点も抱えている。

 これは、いまだに役所内でのIT化に対する共通認識が行き渡っておらず、行政改革に至るまでのコンセンサスが十分得られていないことを意味すると言える。

 また、「いまだにパソコンが使用できない職員がいる」のも問題だ。要職に就く職員にその傾向が強く、戸谷理事は「あえて研修はしない。各人が問題意識をもち、やる気を見せ始めた段階で、初めて総合的な研修を行おうと決めている」とし、スパルタ的な対処を検討している。

 羽曳野市のように、自治体のIT化に関して先進的な意識をもつ自治体でさえも、役所内のコンセンサスは十分にとれていないというのが現状だ。戸谷理事は、「全国3300の地方自治体のうち、業務のIT化の困難さを本当に理解しているのは、500程度ではないか」とみている。

 それ以外の自治体は、ほかの市町村の取り組みを横目に見ながら、後追いで対処していく姿勢を示している、というのである。

 それも1つの方法だが、自ら困難にぶつかり、解決策を見出す努力を怠っている自治体には、地域格差の拡大というマイナスポイントが絶えずつきまとうことになりそうだ。