アクセンチュアの人材育成に関する基本理念は、「Human ResourcesからPeople Mattersへ」という言葉に集約される。人材を企業の資産と捉え、業績向上のための“道具”として活用するという、多くの企業が採用するドライな考え方から、従業員を中心とした快適な環境づくりを優先する考え方へと全面的に変更した。コンサルティングといえば、人材の質が最も重視される業種だ。このような業種だからこそ、人材を企業の資源として即物的な扱いをするこれまでの方針では、企業からみて人材流出の大きな要因となる。

ヒューマンリソースからピープルマターへ

■「Best People」

 アクセンチュアの人材開発における基本戦略の策定は、実はまだ開発途上である。具体的な内容については「ここ数か月でようやく整理し始めた段階」(小川富士人事部マネージャー)という。その基本的な姿とはこうだ。

 まず、企業としての価値基準である企業理念がある。その理念に沿った形でビジネス戦略が策定される。その後、戦略を推進するための施策および戦略に必要なスキルをもつ人材の育成、という流れになる。そこで課題となるのは、戦略に必要な人材をどのように教育するか、またどのような戦術で臨むか――である。もちろん、ケースバイケースだが、核となるモデルが必要だ。

 「Best People」という概念で表されるアクセンチュアの理想的な人材構成要素は、最良の就業環境のなかで醸造される「決断力」、「企業文化の熟知」、「(個人スキルの)核となる能力」の3つ。

 同社の場合、「Best People」育成の最大のカギは、自己責任とその自主的な向上心を促進する就業環境の整備に尽きる、といえる。

■キャリアプランの作成

 アクセンチュアのキャリア成長モデルを紹介する。

 同社では年1回、個人のキャリアプランを作成する。社員1人1人にキャリア・カウンセラーが付き、キャリア構築のためのアドバイスを行うシステムになっている。

 キャリア・カウンセラーはマネージャー以上の役職に就く人物。彼(彼女)らが部下のキャリアプラン作成を補助する。

 年間のキャリアプランは、計画の作成、目標を成功に導くための行動予測、目標達成時の報酬の確認という3つの基本行動で構成される。年1回このキャリアプランを見直し、適宜、キャリア・カウンセラーが管理を施すことで、成長計画の微調整を行う仕組みだ。

 キャリアレベルは、初級レベルのアナリストに始まり、コンサルタント、マネージャー、アソシエイト・パートナー、パートナーという序列になっている。

 この縦の序列に、サービスライン、マーケットユニットを加え、立方体のフレームワークが構築される。また、キャリアレベルによって人材開発プログラムの中身も異なる。

 同社のサービス・ラインには、戦略グループ(S&BA)、カスタマー・リレーションシップ・マネジメントグループ(CRM)、サプライチェーン・マネジメント・グループ(SCM)、ファイナンシャル・パフォーマンス・グループ(F&PM)、ヒューマン・パフォーマンス・グループ(HP)、ソリューション・エンジニアリング・グループ(SE)、ソリューション・オペレーション・グループ(SO)、デジタル・コンバージェンス・グループ(DC)がある。

 各サービスラインは、マーケットユニットによって細かく分割される。具体的には、通信・ハイテク産業本部、金融サービス事業本部、官公庁本部、製造・流通業本部、素材・エネルギー産業本部である。(図参照) 


■チャンスと経験を与える

 このようなフレームワークごとに、人材開発トレーニングが施される。そのプログラム自体は同社オリジナルだ。とくに個人が自主的に学習を行えるトレーニングポータルサイト「my learning」は、社内向けとして世界同時に昨年夏にオープンした。

 人事部の原田広美統括部長は言う。「基本は、早くからチャンスを与え、経験によって育て上げていくこと」。

 自主的なトレーニングは、チャンスを獲得するための要素に過ぎない。例えば、ビジネス案件によるチーム規模にも左右されるが、入社2-3年でチームマネージャーに抜擢されることも少なくない。その後は、サブ・チームリーダー、チームリーダーへと昇格する。

 「抜擢された社員は当然、(マネージャーやリーダーとしての)何の経験もない。しかし、わからないなりに自分で解決策を模索し、四苦八苦するうちに、自然と成長していく」(小川マネジャー)という厳しいものだ。

 現在、同社には約1000人のアナリスト、約600人のコンサルタント、約500人のマネージャー、約100人のパートナーがいる。キャリアの積み重ねは、現場主義の実践と自己鍛錬の結果で生み出されるのである。

 人材開発面での今後の課題としては、大きく6つの課題を挙げる。(1)従来の価値観を引きずる管理職などの意識変革、(2)自主訓練に対する積極性の促進、(3)多様なバックグラウンドをもつ人材の確保、(4)英語力の上達、(5)トレーニングプログラム開発要員の確保、(6)トレーニングの効果測定法の確立――である。

 「これまで人材開発という側面で確固とした基準を設けずに走ってきた」(小川マネジャー)アクセンチュア。02年の大きな目標の1つに人材開発を掲げており、その確立は「早急に成さねばならない最重要課題」(森正勝社長)でもある。