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<OVER VIEW>2002年、変革する世界のIT市場 Chapter2

2002/02/11 16:18

週刊BCN 2002年02月11日vol.928掲載

 厳しさの続く02年の世界IT市場を回復させるプレーヤーは、ITメーカーではなく、SIerなどのソリューションプロバイダである。IT業界はポストPC時代に突入したことはマイクロソフトのゲイツ会長も認める。IT業界はユーザーの抱くIT投資への不信を払拭する新しいITを、企業利益増大という経営方程式の解として提供しなければならない。02年にはXMLベースのウェブサービスをもって企業はeビジネス当初の目的であった「新しいビジネスモデルの創造」に再度挑戦し始める。

ポストPCと新マーケティングの時代

■01年に予告された02年に変革するIT市場

 IT業界には厳しい年であった01年に米国で起きた業界変動は、02年の市場にも大きな影響を与える(Figure7)。

 とくにIT市場に大きな影響を与えるのは米同時多発テロである。これによって米IT部門の第1優先課題はITのセキュリティ確保/破壊回復対策となった。

 米調査会社は米企業のテロ対策IT予算配分は0-2%が62%の企業、そして2-10%のIT予算をつぎ込む企業は38%に達すると発表した。01年までテロ対策予算などは殆どゼロであった。

 この調査によると、02年米企業のテロ対策市場規模は156億ドルから210億ドルになる。ゼロであった市場が突如巨大になったのだ(Figure8)。

 01年のIT投資削減は米国パソコンの2ケタ出荷減少となり、縮小する市場で生き残るためHPはコンパック買収を発表した。IT不況を悪化させないための配慮もあってか、米司法省はマイクロソフト裁判で和解策をとり、同社は厳しい企業分割から逃れた。新種ウイルスの攻撃もITセキュリティ対策費を増額させる。

 一方ハードでは、パソコンやサーバーに代わってストレージ需要の大波が押し寄せつつあり、02年にはネットを使うIP-ストレージが大市場になるという期待も生まれた。また経済失速によって通信回線のバンドウィズ(回線帯域)サイクルが需要下降局面に突入し、多くのテレコム関連新興企業が倒産し、AT&Tなどメガキャリアも苦境に追い込まれた。ネットワーク機器も低迷し、シスコシステムズやノーテルなど超優良企業が軒並み赤字へ転落した。

 BtoBで期待されたeマーケットプレイスも参加企業不足などで立ち上がらず、米大企業は自社独自のネット調達路線を再び追求し始めた。

 しかしこのような暗い話題ばかり多い世界のIT市場でも、アプリケーションの相互乗り入れが可能となるXMLベースのウェブサービスが02年に米国を先行馬として大市場を形成し始めると期待されている。

■マイクロソフト自身が認めるポストPC時代

 98年春にIBMのルイス・ガースナーCEOは「PC時代の終焉(PC era is over)」を宣言した。しかし当時世界のパソコン市場は右肩上がり状態で、これに賛同するのは少数であった。

 しかし01年にはそれが現実のものとなった。パソコンCPUを独占してきたインテルの01年12月決算がパソコン市場動向を集約する。95年から00年までインテルの売上高は年平均15.8%で伸び、純利益はこれを上回る24.2%の伸びを示してきた。しかし世界のパソコン市場の縮小はインテル決算を直撃した(Figure9)。

 01年12月の決算でインテルの売上高は前年比21.3%減少し、純利益は87.7%も減る大幅な減収減益となった。ポストPC時代の到来は、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長自身が一番良く知っているのだろう。同会長はパソコン主導の市場拡大は終わったことを明言した。そのIT市場第1フェーズ終了を同会長は「ジ・エンド・オブ・ビギニング」と表現し、これからの第2フェーズの10年間を「デジタルディケード」と捉えている。

 マイクロソフトはこれまでのパソコン一辺倒の戦略を転換し、パソコンに加えてエンタープライズ、コンシューマ・リビング、IT開発市場の開拓に力を注ぐと発表している(Figure10)。

 マイクロソフトにとってはeホーム構想やタブレットPCの実用化を急ぐことも大切だ。また02年1月のCESで同社は新しいホームユーザー機器を公開した。ウィンドウズXPを搭載したパソコンを赤外線リモコンで操作する「フリースタイル(開発コード)」とウィンドウズCE.Netを載せたインテリジェント・ディスプレイ「ミラ(同)」だ。

 ミラはWi-Fiワイヤレス通信機能を備え、ユーザーはディスプレイだけをもち歩いて家庭のどこでもブラウジングやメール送受信ができる。これらはタブレットPCとともにウィンドウズベースのポストPC商品だ。

 ウィンドウズ制覇に対抗するノキアのヨルマ・オリラ会長は非ウィンドウズOS「EPOC」ベースのJava携帯電話機がポストPC時代の主力機器になることを演出する。

 同会長は03年末までにJava電話機は世界で1億5000万台出荷されると強気予測を行う。世界経済失速、同時多発テロとIT不況が同時に起きたため、業界の先行きは不透明となったが、02年のIT動向を予知するには、表面的現象と基本的現象を分離して市場分析することが重要だ。

■新しいマーケティングの姿勢が問われる

 02年も厳しいIT市場を乗り切るための市場動向把握については、多くの米ITアナリストの見解が一致している。彼らは従来のITが縮小した市場を回復させる力はないという。それはユーザーがこれまでのIT投資、そしてとくに投資効果について強い疑問を感じているからだ。彼らはユーザーは共通的にIT投資に対して「恐怖」、「不明確さ」、「疑い」を抱いていると解説する。ユーザーはITメーカーを信用しなくなっているため、市場回復のプレーヤーはSIer、VARがキーになると主張する(Figure11)。

 このためSIerなどは、従来ITではなく新しいITでユーザーの投資意欲を刺激しなければならない。また多くの米アナリストは、SIerはメーカー同志のリプレース合戦やメーカーとの競合激化から逃れる知恵をもたなければならないと助言する。

 ユーザーのITに対する見方も変化した。例えばシステムのアップグレードもこれまでのように「ITからの要求」ではなく「ビジネスからの要求」に立脚するようになる。SIerは自信をもってユーザーを説得できるだけの「テクノロジー+ビジネス=企業利益」の解をもたなければならない。

 eビジネスへの期待についても新しいビジネスモデル創造、売上高増大はいずれも果たせず、現在は現状の売上高を維持しながら、経費や原価を削減する利用方向へ集約されている。しかしXMLベースのウェブサービス具現化によって、ユーザーはeビジネスで再度「新ビジネスモデル」の創造に挑戦し始めるとIBMガースナーCEOは説明する(Figure12)。

 いずれにしてもユーザーが納得する新しいマーケティング姿勢をIT業界は必要としているといえるだろう。
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