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<OVER VIEW>2002年、変革する世界のIT市場 Chapter3

2002/02/18 16:18

 厳しいIT不況の続く米業界では、テロ対策やROI追求、ITビジネスのサービスへの移行、チャネル整理・統合、メーカーの大型買収・合併、海外戦略強化などが02年に目立つ業界トレンドになると考えられている。テロ対策は新IT市場を誕生させ、ユーザーはITの投資効果(ROI)を厳しく問い始めた。ITビジネスの中心は売り切り方式からサービス形態へと急速に移行し始める。米国では、HPのコンパック買収に匹敵するメーカーの合併も噂される。米国メーカーは自国に比べ堅調な日本、アジア、EU市場へ熱い視線を注ぎ始めている。

米国市場、6つのトレンドが明確に

●見えてきた6大トレンド、テロ対策、ROI追求

 厳しいIT市場のなか、米国ではユーザー、IT業界に6つの新トレンドが見えてきた(Figure13)。

 ユーザーではテロ対策がITの最優先課題として浮上し、一方ではこれまでの巨額IT投資への疑問から、ROIが厳しく問われ始めた。販売チャネル、SIerはITビジネスの中核がサービスに移行することを知り、またチャネルの整理統合が激しく動き出す。

 またITメーカーではHPとコンパック買収計画に次ぐ大型買収・合併の波が打ち寄せ、厳しい米国市場依存から脱出するためグローバル戦略を追求する動きも活発になる。

 01年9月の米同時多発テロ以降、米国ユーザーではデータセンターの物理的破壊、ウイルスによるソフト的破壊、生物科学兵器攻撃によるセンタービル閉鎖などテロ対策が最も緊急性の高い課題となった。経済失速下にあってIT投資も削減されるが、テロ対策に多くのIT投資を割り振るユーザーは多い(Figure14)。

 これまでもサイバーテロ対策は課題であったが、3種類のテロ対策のための米国IT市場は156億ドルから210億ドルの範囲に一挙に拡大するとメタ・グループは報告する。一方では、00年までのIT巨額投資による過剰IT資産を実感するユーザーが多くなってROIが厳しく追求され始めた米国市場だ(Figure15)。

 eビジネスも所期の目的が達成されず、巨額IT投資のツケだけが残った企業も多い。SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)など期待の新アプリケーションも、これを推奨したITメーカー自身が、半導体やパソコンの膨らんだ在庫に苦しむ現状が、SCMに対するユーザーの信頼感を喪失させたという米アナリストも多い。

 米国では何万本単位の導入で高額になったOS料金すらもROI追求の場に引きずり出されるケースも見られる。米国販売チャネルでは「多くの米企業のIT投資最終決定者が、これまでのCIOからCEOに移った。このため発注書のサイン数も多くなった」という発言も聞かれる。

 一方、ROI追求をチャンスと捉えて、ROI評価を専門的に手がけるITサービス事業者も数多く米国では誕生した。ROI追求は発注者側だけでなく、これを売り込むメーカー、販売会社も大きな影響を与える。売り込み側も客観的なROIアセスメント能力を備えることが要求されるからだ。

●ITビジネスがサービス形態へシフト

 米国ではITビジネスがこれまでの売り切り型からサービス形態へと急速に変化すると予測されている。IBMのeソーシングをはじめ、多くのIT事業者が固定料金制ではなく、電気、ガス、水道のように使用したIT資源に応じる従量制料金のITサービスを開始した。

 これは「ユーティリティライク」とも呼ばれる。従量制でユーザー側もROI追求が容易になり、巨額の初期投資を抑えたいユーザーはアウトソーシング利用へと動き始めた。テロ対策としてのiDC利用などもこのアウトソーシング需要を高める。サービス形態へ移行するのは「ユーザーはITを活用したいだけで、ITマネジメントの育成には関心がない。このためITサービス利用へとユーザーが動くのは当然だ」と語るアナリストは多い(Figure16)。

 IBMはeソーシングと呼ぶ従量制サービスを早くから準備し、02年1月から米国でこのチャネル企業募集を開始した。マイクロソフト、サンなどもサービス中心でビジネスを展開するための体制整備を急ぎ始めた。

 ネット上で異なるアプリケーションが相互に連携するXML(エクステンシブル・マークアップ・ランゲージ)ベースのウェブサービスは、アウトソーシングやアプリケーション・ホスティングに最も適した分野と考えられる。ITサービスやコンシューマコンピューティングにも影響すると考えられている。このため1回のサインだけで各種アプリケーション処理も利用できるようになるシングルサイン標準を巡って、サン陣営の「リバティ・アライアンス・プロジェクト」とマイクロソフト「.NETパスポート」の争いも激しくなった。

 多くの米SIer経営者は、「ユーザーの個別案件開発では売上高に応じて開発人件費が増えるが、ホスティングサービスでは売上高と人件費が比例することもなくなり、安定したユーザー数が確保された後は、このビジネスの利益率はきわめて高くなる」とホスティングへ期待する。自社のITビジネスの中心がサービスに移ったことを示すのがIBM決算だ(Figure17)。

 01年12月決算売上高でIBMサービス構成は40.7%となって、同社史上初めてハード比率38.9%と逆転した。サービスとソフトを加えたノンハード構成比は55.8%にも達する。

●チャネル統合、買収・合併、海外強化が業界動向

 HP、コンパック、マイクロソフトなどが直販や直接サービスを強化したことが、一方ではチャネルの整理・統合を加速すると米国では見られている(Figure18)。

 01年にエクソダスなど多くサービス業者が倒産したことで苦労したユーザーは、サービス事業者選択の第1条件と、その経営安定度だと発言する。中小チャネルは金融からの資金調達パイプも細くなり、この点からもチャネル整理・統合が進む。

 米国ではチャネルが生き残るには一定の売上規模、直販姿勢を強めるメーカーも手が回らない程のユーザー数を保有することが条件になると考えられている。整理・統合はチャネルだけでなく、コンピュータ業界ではHPのコンパック買収に次ぐ大型買収があると考えられている。またバンドウィズ(回線帯域)の需要下降サイクルに入ったため、通信サービス、通信機器でも大型買収が噂されている。

 HP、コンパック、サンなど有力メーカーが、これまでの米国依存のモデルを変更して日本、EUでの戦略を強化する。IBMの米国依存度は40%以下で、IBMが米国IT不況に強かったことが、ほかの海外戦略強化を刺激した。
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