「5年以内に世界最先端のIT国家を実現する」-01年1月に策定されたe-Japan戦略の基本方針である。この目標を実現するために「未だに数多くの規制や煩雑な手続きを必要とする規則が通信事業者間の公正かつ活発な競争を妨げている」(00年11月のIT基本戦略)として、電気通信分野での競争を促進する施策が次々と打ち出されてきた。ここで大きな役割を果たしているのが、公正取引委員会である。とくにインパクトが強かったのが、00年12月にNTT東日本に対して行った独占禁止法に基づく警告だろう。これをきっかけに、ADSLサービスが急速に拡大したといっても過言ではない。「NTT東日本の場合は、ほかのADSL通信業者がNTTのメタル回線を利用してサービスを提供しようとするのに、きわめて厳しい条件をつけて本格サービスの開始を遅らせたほか、フレッツISDNなどの営業担当者を競争相手となるほかの通信業者との交渉の場に同席させるなどの行為が行われたため、独禁法に基づいて警告を行った」(経済取引局調整課・原敏弘課長)。

 警告によってADSL通信業者の動きも一気に活発化。01年6月にはソフトバンクグループが参入を表明して通信料金が一気に低下し、爆発的な普及が始まったという“大きな流れ”をつくったわけである。さらに01年4月には、審査局の内部にIT・公益事業タスクフォースを設置した。電気通信などのIT分野と、電力など公益事業を重点的に監視するためのチームだ。「02年度には公取委全体で40人の定員増員が認められているが、そのうち28名が独占禁止法違反事案の審査の強化に投入される予定だ」(原課長)。

 公取委全体で職員数は570人程度だから、今回の定員増は大幅な戦力強化だと言える。このタスクフォースの成果として昨年12月に、NTT東日本/西日本の両社に、ADSLサービスに関連して独禁法の警告が再び行われた。ADSL接続が切断される恐れがある保安器の取替え工事や、光ファイバーからADSLが利用できるメタルケーブルへの収容替え工事について、両社は自社ユーザーの場合は無料で工事を行っていたにも関わらず、競合業者のユーザーの場合は有料で行っている疑いが認められたのである。「NTTの定款で個人に対して代金を請求できず、事業者であれば請求できるというのが理由だったが、それなら両方とも無料にするのが、公正な競争の観点からは自然であろう」(原課長)。この2回目の警告が行われたタイミングが、前回の警告から丸1年が経過し、さらに約1か月前には「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」が正式に公表されたばかりというのが興味深い。

 指針に基づいて公取委として、IT分野を厳しく監視していく姿勢を強く印象づけることになったからだ。公取委では、政府規制等競争政策に関する研究会を設置して、競争政策に関する提言を行ってきた。00年度の提言では、第1種通信事業者と第2種通信事業者の区別の廃止や、NTTグループの出資比率引き下げなどを打ち出す一方で、電気通信分野における独禁法のガイドライン策定という方針を打ち出した。当初は、この提言に基づいてガイドラインの策定作業がスタートし、01年6月にはパブリックコメント募集を実施する段取りだった。「そのあとで電気通信事業法の改正が決まった。それを受けて総務省から電気通信事業法も加えて共同でガイドラインを出せないかとの申し入れがあった」(原課長)という。すでにガイドラインの原案がほぼでき上がっていたのだが、電気通信事業法の部分を加えることとなったため、パブリックコメントの募集が9月へと3か月ズレ込むことになった。