電子商取引のための法的基盤が、今年3月末に経済産業省が公表した「電子商取引等に関する準則」でほぼ整うことになった。一部に先行して検討されていたものもあるが、実質的には01年1月のIT基本法施行から、わずか1年3か月で、米国やEU並みの法体系を一気につくり上げたことになる。表に示したように、最後に「個人情報保護に関する法律」という難問が残されているものの、民事・刑事のルールつくりはほぼ完了したようだ。3月に公表された『準則』は、あまり聞きなれない名前である。当初は米国の統一コンピュータ情報取引法のように、新しく“情報取引法”といった新法を制定することも検討したようだが、日本の法体系はできるだけ既存の法律の“解釈”で運用する大陸法の考え方が強い。「新しい法律は作らないが、できるだけ“解釈”を明瞭にすることで、混乱が生じないように『準則』で対応することにした」(経済産業省商務情報政策局情報経済課・池谷香次郎権利保護係長)。

 経済産業省では、00年4月に産業構造審議会内に情報経済部会を立ち上げて、電子商取引に関するルールづくりの検討をスタート。最初に、電子商取引の特質に対応したルール整備の3つの原則を策定した。(1)誰でも参加できる→安心して取引に参加できる環境の整備。(2)民間主導(多様性、スピード)→事前規制から事後の対応へシフトする(規制緩和、迅速な紛争解決の提供)。(3)ボーダレスな市場形成→国際整合性の取れたルール整備を進める。これに基づいて新しい法整備が進められてきた。準則という形態を取ることで、(2)の電子商取引の多様性やスピードに対応しやすいという効果もある。準則は、情報経済部会の下に中山信弘東京大学教授を中心とした5人の法学者で構成するルール整備小委員会を設置して取りまとめたもので、電子商取引で想定される問題について現行の民法、消費者契約法、知的財産法、新たに制定された電子契約法などに照らして中立的な解釈を示した。

 民事法の“解釈”は最終的には裁判所で示されるものであるが、判例を待っていては電子商取引の世界のスピードに遅れてしまう。こうした問題に対応するとともに、事業者側の「リーガル(法的)リスク」を事前に軽減する仕組みが、「準則」と言うこともできる。準則で、できるだけ明確な解釈を示すとともに、昨年3月に閣議決定されたノーアクションレター制度(行政に対する事前問い合わせ制度で、30日以内に回答するのが原則)の活用や、ADR(裁判外紛争処理)機関の整備を進める――。電子商取引に関するルールを国や行政が全て作るのではなく、市場が法の原則に基づいて自主的にルール形成を行っていくことを可能にするのが狙いだ。「司法制度改革の結果、裁判所からも判例として具体的な解釈が示されるケースも増えるだろうし、民間でも議論が活発化してくるだろう。そうした過程を通じて、行政の役割は徐々に縮小されていくだろう」(池谷係長)。