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<OVER VIEW>幕が開くエンタープライズLinux時代 Chapter2

2002/05/13 16:18

週刊BCN 2002年05月13日vol.940掲載

 IBMは全サーバー共通OSとしてLinuxを採用し、HPなどの各有力メーカーもミッションクリティカル分野へのLinux普及の準備を進める。いよいよ中堅・大企業がLinuxを中核サーバーとして利用するエンタープライズ時代が到来した。サンもこれまでの自社アーキテクチャだけの戦略を放棄して、Linux陣営へ参加した。マイクロソフトはLinux脅威を社員に訴え、Linux打倒のいくつかの戦略を推進中であることを公表した。これからはIBMとマイクロソフトの新しいバトルの時代とも捉えられる。

大企業の中核へLinuxが進出

●次々とLinux戦略を発表するIBM

 IBMは新CEOに就任したサム・パルミザーノ氏が同社サーバー部門責任者であった00年、IBMサーバー名称をeServerに統一するとともに全サーバー共通の基幹OSとしてLinuxを採用することを発表して世界の業界にショックを与えた。

 IBMは長い間メインフレーム用やミッドサーバーで自社OSを守り続けてきたからだ。パルミザーノ氏の強硬意見に異を唱えた自社OS擁護派の多くのIBM幹部は社を去った。

 IBMは今後、オープンスタンダードLinuxを基盤に強固な業界地位を確立しようとしている。IBMは01年以降、次々とLinux戦略を発表している。すでにIBMはLinux関連ソフト開発、サポート体制強化のため13億ドル(1700億円)を投じた。また自社UNIXとLinux兼用の64ビットOS「AIX5L」を発表した。このOSはIBMとインテル64ビットプロセッサで使うことができる。

 インテルは64ビットサーバーの主力OSにウィンドウズと並んでLinuxを採用するため、IBMの新OS開発に資金を提供した。さらにIBMは01年に国内のメインフレーマ3社とエンタープライズ版Linuxを開発することを発表し、その成果となる第1弾を02年1月に発表した(Figure7)。

 IBMは83%と総利益率がきわめて高い自社ミドルウェアをLinuxに移植し、全サーバーで共通に利用できるようにしてこれらのシェア拡大を狙う。

 IBMは自らLinuxへ注力し、IBMがLinuxユーザーの実績を積み上げたことで、世界の大企業のLinuxへの信頼性を高めたと自画自賛の説明をした。ここでIBMはLinuxがサンのソラリスを退けてすでにUNIXの実質業界標準になったと解説する。

 Linuxを搭載したことで、メインフレーム売上高が再度上昇に転じたことに自信をもったIBMは、OSとしてLinuxオンリーのメインフレームやミッドサーバーiSeriesを発表した(Figure8)。

 またIBMは堅牢さが実証されている自社UNIX上でLinuxアプリケーションが使えるAIX5L普及を促進するためのキャンペーンを全世界で展開した(Figure9)。

 「UNIXの堅牢性は直ちに放棄できないが、Linuxアプリケーションも採用したいという多くのIT部門に最適なプラットフォームが、堅牢なUNIX OS上でLinuxアプリケーションが使えるAIX5Lだ」と、IBMは強調する。IBMはeビジネスの中核にUNIXサーバーが君臨するこのチャンスを、UNIXとLinux兼用OS投入でエンタープライズへLinuxを普及させる好機と捉えている。

●エンタープライズLinux元年の到来

 多くの米ITアナリストも02年が世界的にエンタープライズのミッションクリティカル分野にLinuxが進出する元年だと解説する。

 このLinux普及にはユーザー環境の変化と、メーカー戦略の変化が絡み合って加速度を与える。ユーザーのIT投資の削減やIT投資効果(ROI)の追及が厳しくなるにつれ、ライセンス料の安いLinux導入が盛んになるのは当然だ。

 マイクロソフトが01年秋に発表した新ライセンス方式をOSの実質値上げと感じる米国ユーザーは多く、これもエンタープライズでのLinux導入の追い風になっていると、ガートナーのアナリスト、ジョージ・ワイス氏は分析する(Figure10)。

 またメーカー側のLinuxへの注力はますます盛んになっていることは、02年1月ニューヨークでのLinuxWorldの展示を見ると明らかだ。IBM以外にもHP、コンパック、オラクル、SAPなどが多くのエンタープライズLinux商品を発表した。

 また米国ではHPとコンパック合併が実現すれば、新HPはこれまでのHP-UXとコンパックのDigital-UNIX双方の開発を継続することは困難で、このためUNIX系商品はLinuxへ統合されると見られている。これもエンタープライズLinux普及の大きな推進要因となる。

●サンもLinux、マイクロソフトはLinux打倒を

 Linux普及はこれまでローエンドUNIXサーバー市場で高シェアを維持してきたサンに大きな打撃となり、Linuxをウィンドウズの強敵と意識するマイクロソフトは公然とLinux打倒戦略を打ち出した。

 サンはこれまでの自社プロセッサ「SPARC」と自社OS「ソラリス」のシングルアーキテクチャを放棄して、インテル系プロセッサを採用したサンブランドのLinuxサーバーを発売することを02年2月に発表した(Figure11)。

 ギガ・インフォメーション・グループのアナリスト、ロブ・エンダール氏は「サンは上位サーバーをIBMサーバーにやられ、下位をLinuxサーバーに浸食されている。また、サンの収益力低下によってサンパートナーもサンから逃げ始めている。サンはこのような状況を打破するため、Linux市場へ参入した。これはサン自身が自らのソラリス牙城をLinuxで浸食することになる。しかし、これをやらなければIBM、コンパックに自社ユーザーをリプレースされるので、自らそのリプレース役を担うのだ」と分析した。

 一方、Linux脅威論を公然と口にするようになったマイクロソフトは01年初より、いくつかのLinux打倒プロジェクトを推進中であることを公表した(Figure12)。

 同社ブライアン・バレンタイン副社長は、「社員はLinuxを軽視してはならない。マイクロソフト幹部は日夜Linux打倒を真剣に討議している」と社員に訴え、LinuxとLinuxをサポートするベンダーを徹底的に攻撃すると決意を述べた。また同社はLinux打倒チームを編成して、とくにIBMのLinuxサーバーがエンタープライズへ普及することを阻止する構えを見せる。

 同時に「Linuxは無料で、ウィンドウズよりもサーバーコンソリデーションが低い投資でできる」というLinux神話払拭のため、Linux導入コストの評価をコンサルタント会社へ委託したことについても公表している。

 しかし、米業界ではマイクロソフトが真剣にLinux打倒を口にすること自体、Linuxがウィンドウズオルタナティブになったことの証になると、マイクロソフト戦略を批判する。
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