OVER VIEW

<OVER VIEW>新しいトップを迎えたIBMの課題 Chapter1

2002/06/03 16:18

週刊BCN 2002年06月03日vol.943掲載

 IBMの新CEOに同社社長サム・パルミザーノ氏が就いた。日本IBM営業担当専務も経験し、その後サービス、ストレージ、サーバーなどIBMにとって重要事業トップを次々と歴任して業界通を自負する。新CEOは「強烈な攻撃マインド」、「味方に対する強い包容力」という二面性をもつようだ。競合に対しては次々と痛みを与えるプロジェクトを推進し、業界で恐れられた。ガースナー前CEOによってIBMは巨額利益会社に復活したが、その間売上高の伸びは小さかった。売上高の大きな伸長が新CEOの大きな課題だ。

競合打倒、赤字事業の解消

●売上高の大きな伸長が焦眉の課題

 異業種ナビスコからIBMトップに転じたルイス・ガースナーCEOの後任に、IBM生え抜きのサム・パルミザーノ社長が2001年3月に就任した。ガースナー前CEOは、IBMの事業構造をハード偏重からソフト、ITサービスなどノンハード重点に移し、01年ノンハード売上構成比を56%まで高めIT不況下の同年も77億ドルという巨額純利益を計上して世界IT業界の雄に復活させた。

 ガースナー前CEO就任時の93年、IBMの赤字は81億ドルだったので、ガースナー前CEOの損益改善は158億ドル(2兆円)という巨額に達した。しかし、同CEOの最大の問題点は、在任9年間、同社の売上高は年平均4.0%という低い成長にとどまったことだ(Figure1)。

 この間世界のIT市場は約2倍となり、インテル、マイクロソフト、サン、デルなどは年20、30%という高い伸びを続けた。当然IT各分野でのIBMシェアは下がり、市場におけるプレゼンスも小さくなった。

 パルミザーノCEO誕生の02年1-3月IBM売上高は前年同期比11.8%減となり、これにともない同社は8000人の人員削減発表と、その出足は厳しいものであった。

 しかしパルミザーノCEOは、「今年後半からIT市況は回復し、IBM売上高も大きく伸びる」と強気発言をする。しかし、IT業界ではウィンテル事業でひとり勝ちするデルに対抗するためHPはコンパックを買収合併して、IBM売上高に迫る世界第2のITメーカー「新HP」も誕生した(Figure2)。

 世界のハイテク業界では、IBM、HPに続いて日立製作所以下の日本メーカーがずらりと顔を揃える。ウィンテル専業ながらデルは既に米国第3位のITメーカーに躍進した。IBMがHP以下を大きく引き離して突出したプレゼンスを示すには売上高を大きく伸ばさなければならない。ニューヨーク・タイムズも新CEO誕生時、「パルミザーノCEOの課題は利益は少々犠牲にしても年7-8%の売上高伸長である」と解説した。

●多くの課題を抱えるパルミザーノIBM

 日本IBMは国内市場のパソコン、メインフレーム、UNIXサーバーなど各分野でも国産勢の後じんを拝してそのプレゼンスも弱くなった。パルミザーノCEOも、IBMの抱える多くの問題点を十分承知しており、CEO就任時自ら次の課題を述べている(Figure3)。

 (1)現在世界のITサービスでの8%シェアを20%にまで伸ばすことを含めた売上増大戦略、(2)IBMパートナーとの連携強化、(3)ウィンテルに代わって再びIBM技術が支配するような技術的覇権の確保、(4)日本を含めてIBMの海外市場での売上増大とシェアアップ、(5)パソコン、ハードディスク、半導体の赤字3元凶の早期的解消。

 いずれにせよ、利益面での復権を果たして、ガースナー時代に果たせなかった売上増大で世界IT業界を牽引する業界キープレーヤーに転身するパルミザーノ時代への転換をIBMは迫られている。パルミザーノCEOは、「世界のIT業界で最も攻撃的ビジネスマン」と恐れられたこともあった。同CEOはガースナー時代、IBMのサービス、ストレージ、サーバーなど各部門責任者に就くと、その分野の最強相手に次々と、相手に痛みを与えるという意味の「ペインプロジェクト」を仕掛け、競合相手に恐れられた。その標的はサービスのEDS、サーバーのHP、サン、ストレージのEMCであった。ときにはIBM製品を原価割れ価格で提示して競合を諦めさせ、これに付帯するサービスで利益を補填するという手段も採った。

 一方パルミザーノCEOはIBMパートナーの話もよく聞き、必要な手を直ちに打つということで、味方のパートナーからは高く評価されている。このようにパルミザーノCEOは「強烈な攻撃マインド」と「味方への強い包容力」という二面性をもつと米IT業界では評されている。

 同氏は社内でも厳しいビジネスマンであり続け、社内の波風も立て続けた。コンシューマパソコンからの撤退、自社OSを退けてフリーOS「Linux」をIBM基軸OSに捉えたことも彼の発案で、その反対派はことごとく社外に去った。また部下の営業幹部には「今週注文を獲ると約束したことだけを守ればよい。失注の言い訳のような来月の受注予定なんかは聞きたくない」としばしば語った。ガースナー前CEOは「サムは私のやってきたことをことごとく壊してくれることを期待して後を託した」と語る。

●赤字の解決と競合への攻撃

 パルミザーノ新CEO就任で、得意のペインプロジェクトを仕掛けていくだろうと米業界は噂する。その標的はサン、HP、EMC、そしてマイクロソフトだともいわれている。凋落してもUNIXサーバー1位サン、そしてコンパックのUNIXも吸収した2位HPとIBMの同分野売上高格差はまだ大きい(Figure4)。

 またストレージトップEMCは、IBMストレージ売上高の2倍以上ある。このためパルミザーノ新CEOの提携戦略第1弾はCEO就任1か月半後に発表された日立とのディスク事業統合であった(Figure5)。

 パルミザーノCEOは就任1か月後の4月上旬、密かに日本を訪問し日立、NEC、富士通トップと会談している。日立とのディスク統合は日本強化の一環で、これからも国内有力メーカーとの大型提携が発表されると国内業界は噂する。

 パルミザーノCEO焦眉の課題のひとつはパソコン、ディスク生産、半導体赤字の解消だ。

 とくにパソコン事業は長い間売上高は低迷し、赤字体質から脱却していない(Figure6)。

 ガースナー前CEOは98年に早くも「パソコン時代の終焉(PC era is over)」を宣言し、同事業形態の転換も示唆している。

 パルミザーノCEOは、コンシューマ市場からの撤退に続いて、パソコン生産の全面外部委託も視野にあるだろうと米業界は噂している。
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