人材流動化の時代

<人材流動化の時代>第6回 ミスマッチ解消と大学の開放

2002/08/05 16:04

週刊BCN 2002年08月05日vol.952掲載

 ITスキルの向上では、ほぼ550万人が基礎講習を受講したという。そのうち何割の人たちがパソコン愛好者になったかは定かではないが、シニア層に大きな刺激を与えたことだけは確かなようだ。

ただ、これはあくまでIT落ちこぼれを防ぐための措置で、人材育成とは違う話である。

人材育成につながる施策としては、厚生労働省が実施している「職業能力開発の効果的、効率的な推進」があり、昨年度は71億7100万円が投じられた。

「ITに係る能力修得機会の確保を図るため、離職者を対象とする公共職業訓練、能力水準に応じた学習支援およびIT化社会をリードする高度な人材の育成を図るための職業訓練等を推進」するというのが目的である。

厚生労働省の公表値によると、01年1月から11月までに、公共訓練の受講者は計画の75万人を3%上回る77万人、学習支援は67万人の計画に対し14%上回る76万人が受講したという。合計では153万人、数だけを聞けば、相当の効果を上げているように見えるが、実体はどうなのだろう。

学習支援を受けた経験者の話によると、かなり初歩的な教育が中心で、一応パソコンが使えるようになるレベルだとか。再就職できたのか、そこでどのように評価されているのかなど、後追いのデータが欲しいが、そうした追跡調査はやっているのだろうか。

もちろん、本人がどう努力するかという自覚、姿勢こそが問われるべきではあろうが、それにしても再教育のための投資資金がわずか72億円というのは少なすぎないか。

制度的、慣習的に、日本では教育期間は大学までという風潮が定着している。多分、90年代に日本が国際競争力をなくしてきたのは、このことが大きく影響しているだろう。

ITのような変化の激しい産業では、常に再教育が必要であり、企業レベルはもちろん、国レベルでもその体制づくりにもっと力を入れるべきである。

その意味で、東北大学が社会人向けの再教育コースを始めたという話は興味深い。

ハローワークで行う初歩的な教育でも、ある程度は雇用のミスマッチ解消に役立つかもしれない。しかし、そうしたミスマッチの緩和と、IT業界内の人材の高度化は別のテーマであり、その面で期待できそうなのが大学の開放なのではないか。(石井成樹)
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