中小企業のIT化――。これまで多くのベンダーが取り組み、道半ばにさえ達しない段階で撤退を余儀なくされたテーマである。

 500万とも650万とも言われる事業者数から、どのベンダーも潜在需要の大きさに注目し、様々なビジネスモデルで挑んだが、成功に至ったケースは皆無に近い。

 では何故、成功しないのか。その要因の1つに、売る側の論理で「中小企業」を一括りにし、製品やサービスを押し付けてきた実態があるのではないか。

 多くの中小企業は、「IT予算が少なく、低価格なモノしか売れない」、「管理者が不在で、運用管理が必要なシステムは売れない」などと、マクロ的に見て中小企業のニーズを計る。その結果、生まれてくるのは、ベンダーにとって「手離れの良い」製品やサービス、たとえば電源を入れるだけで稼動し、遠隔保守できるアプライアンスサーバーなどだ。

 だが、“典型的”な中小企業に向けたモノは、ほとんど売れないのが現実である。ある意味、中小は大企業以上にITニーズが多様だからではないか。大企業は業種や企業文化が違っても、基本的なIT基盤の必要性はどこでも同じになる。ところが中小になると、より直接業務に結び付いたIT化を望むので、企業ごとにニーズが違ってくる。

 例えば、わずか従業員5人のある中古機械販売会社(茨城県)は、中堅企業向けCRMソフトを駆使しながら、あらゆる業務データを管理する。全国を飛び回る社長の業務を徹底して減らし、営業時間を確保するためだ。また、従業員18人の電子部品メーカー(栃木県)は、生産コストを削減する狙いで、高度な統計学を基にした原価管理システムを開発中である。

 ミクロで見れば、中小企業のITニーズは多様で、企業規模に関係なく奥が深い。ベンダーが考える、手離れ良く画一的なニーズは逆に少ないのかもしれない。

 もちろん経済合理性からいえば、1件当たりの受注単価が低い中小企業案件の場合、ある程度の標準化も必要になる。そのバランスをどう取っていくのかがカギとなるはずだ。

 この連載では、ベンダーや行政、異業種の中小企業市場への取り組みや市場傾向を紹介し、成功の可能性を分析してゆく。(坂口正憲)