OVER VIEW

<OVER VIEW>回復への出口見えず、低迷し続ける世界IT市場 Chapter5

2002/09/30 16:18

週刊BCN 2002年09月30日vol.959掲載

IT不況下の米国チャネル、SIer動向

 IT不況下、米SIerはIT市場回復期への準備を含めて新しい戦略の策定に取り組み始めた。ITサービスは依然として市場拡大のキーである。しかし、このためには再度ハード拡販重視も重要だと意識し始めた。不況でITメーカーもチャネル拡大路線と削減路線の二手に分かれている。これによってSIerは、チャネル戦略が自社都合でころころ変わるメーカーは避け、最も継続的にチャネルフレンドリーなメーカーを見分け、これとの協業を強化することが大切だと考えている。(中野英嗣)

■ROI追及の厳しい米企業IT部門

 コンパックを買収した新生HPの02年5-7月期売上高が発表された。

 このHP決算は、IBM直近四半期売上高動向と全く同一のパターンで、米チャネル経営者は両巨大メーカーに共通してITサービスが微減で、パソコン、エンタープライズ製品が大幅な落ち込みであることで、世界的にこれら市場が低迷していることを理解した。しかし企業市場はIT産業を牽引するポテンシャルをもち、ここで売上高を維持しなければチャネル経営も挫折してしまう。そして世界的経済低迷下において、米企業IT部門が重視するIT評価基準調査も発表された。

 これによって、現在の企業IT部門の心理動向が理解できる。IT部門が重視する指標は投資効果「ROI」、経常的IT経費がもたらす企業利益分析「CBA」、そしてIT所有の総コストを示す「TCO」であることがわかる。

 米IT部門でROIを「きわめて重要な基準」と回答したのは57%に達し、これにCBA、TCOが続く。TCOでは「ある程度重要基準」との回答率49%が「重要基準」回答率46%を上回っているが、これはTCO削減が長い間米IT部門の大きな課題であり、これまで多くのTCO削減ソリューションが採用され目的がほぼ達成されているからだと米インフォワールドは分析する。

 いまや経営トップCEO、CFO(最高財務責任者)からCIOへはROI、CBA追及要請が強くなっていることも証しでもあろう。これらのIT基準を重視することでユーザーは、採用するハード、ソフト、ITサービスの価格値引きを求めると同時に、新規アプリケーション導入にもきわめて慎重に対応するようになった。

 このようなIT部門マインドを十分に理解したうえで、SIerなど米チャネルはユーザーに接触しなければならないと考えている。

■米SIer、IT不況下での戦略を追求、

 米国ではハード、ソフトの価格破壊に続き、ITサービスにも価格デフレの波が打ち寄せている。このITサービス価格低下には2つの要因が絡んでいると考えられる。

①ユーザーの新規システム開発案件手控えによってSIer要因の過剰感が強くなった。

②システムインフラとなるハードの価格低下にともなってITサービス価格も低落した。

 しかし、依然としてITサービスがIT市場回復の担い手であることに変わりはない。ガートナーによると、03年から世界ITサービスは再び年率10%近い伸びを見せると期待されている。

 しかし、同社アナリスト、ペン・プリング氏はこの伸びは従来からの分野ではなく、次世代e-ビジネス期待のウェブサービスなど新分野だと解説する。このような市場動向を分析したうえで、米SIerは新しい戦略策定に取り組んでいる。

 ネットバブル崩壊、IT不況によって多くの米通信サービス、ITサービス事業者が倒産したため、米SIer経営者は、自社経営基盤は安定しており、ユーザーに永続的にサービスし続けられることを訴求することが現在一番重要だと語る。そしてROI追及も厳しいので、新しいオープンスタンダードを活用したコスト/パフォーマンスの高いソリューションを提案することをSIerは重視している。

 また市場縮小によって、メーカーのチャネル戦略もころころ変わるので、チャネルフレンドリーな戦略を堅持するメーカーの選定も重要だと語る。また、同業とのユーザー食い合いも激化しているため、このカニバリズムに勝ち残る体制整備も大切なことをSIerは認識している。さたにITサービス価格維持のため高価格・高性能サーバー、ストレージ拡販にも注力し始めている。

 この観点から多くの米SIerはITサービス売り上げ拡大のためにも、再度ハード拡販目標を設定し始めてもいる。このIT不況を乗り切るための戦術とともに、市場回復期にはユーザーのIT利用動向がこれまでの「自社導入」からITサービス事業者のITインフラを共用する「利用」へと大きく変革することも考えられ、そのための準備も必要だとの意識も米SIer経営者には強くなっている。

 メーカーや大手サービス事業者との協業によるホスティング(運用管理)/ネットソーシング案件の受注拡大もSIerの重要な課題だという認識である。そのためには次世代ITの基本となるネットソーシング、従量制料金のアウトソーシングであるユーティリティ・コンピューティング、あるいはその基盤となるグリットコンピューティングへの対応姿勢からメーカーも選択しなけらばならないことを、各SIer経営者は共通的に意識し始めた。

 そして現在何よりも大事なのは、自社のビジネスモデルがユーザーへどのようなメリットを与えられるかをユーザーが明確に理解できるように自社モデルを再確立することだと、米SIerトップは考えその努力を惜しまない。

■メーカーのチャネル戦略も拡大・削減に分かれる

 IT不況によって米有力ITメーカーのチャネル戦略も、チャネル企業数を拡大するメーカー、逆にチャネル数を削減する方向へ向かうメーカーに分かれた。

 拡大路線の代表は、世界で中小企業戦略強化を打ち出したマイクロソフト、そしてチャネル依存ITサービス拡大を狙い、中小チャネル向けにホワイトボックス市場に参入したデルである。一方、チャネル削減に向かっていると米SIerが認識しているメーカーは、HP、サン、EMC、オラクルだ。

 こうしてみると、IT不況でも業績堅調メーカーはチャネル拡大を、一方業績悪化メーカーは削減する方向にある。チャネル数を削減するメーカーも当然この方針を公表することはない。

 しかし、チャネルリベート戦略変更などで米SIerは、チャネル削減メーカーを的確に見分ける。エンタープライズと中小企業体制を明確に分離したIBMは、当然現在の全世界9万社のチャネルを依存する意向で、むしろ拡大する姿勢も見せる。このため現在多くのSIer経営者はIT不況下でもIBMが最もチャネルフレンドリーであると認識している。

 しかし、IBMは「IBM専業」をチャネルに要請し、囲い込み姿勢を強め始めている。
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