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<OVER VIEW>IT不況克服、米有力メーカー戦略を検証 Chapter 4

2002/10/28 16:18

週刊BCN 2002年10月28日vol.963掲載

サン、シングルアーキテクチャを放棄し、Linuxへ参入

 世界の有力ITメーカーでIT不況の影響を最も強く受けているのは、サン・マイクロシステムズだ。02年6月決算のサン売上高は前年比32%も減少し、巨額赤字に陥った。この打開策としてサンは、これまで固執し続けてきた自社シングルアーキテクチャ戦略を放棄して、Linuxも併存する戦略を採った。サンはサーバーだけでなく、パソコン、PDAにまでLinux戦略を拡大する。しかし米市場のサンLinux戦略に関する評価は、厳しい論調が目立つ。サンがLinuxだけで業績回復するのはきわめて難しいだろう。(中野英嗣)

■巨額研究開発費の削減も視野に

 90年後半からの世界的インターネットブームが世界のIT投資活性化を促すにともない、UNIXサーバーがeビジネスの中核サーバーと認識したユーザーは、競ってUNIXトップのサンSolarisサーバーを導入し始めた。

 サンサーバーの大きな市場は、多数の新興ドットコム、新興・伝統的テレコム(通信サービス)、金融機関であった。これによってサンの売上高は急激な右肩上がりとなり、00年の前年比売上伸び率は33%に達し、01年6月サンの売上高は183億ドル(2兆1900億円)となった。

 しかし世界的経済不況、ネットバブル崩壊によるドットコムの倒産、テレコムは通信帯域の過剰によるIT投資削減でサンの売上高は急落し始め、02年6月決算売上高は前年比32%減となって、6億ドルの巨額赤字に陥った(Figure19)。

 サンの全盛時、同社総利益率はIBMの36-37%を大きく上回る52%にも達したが、売上高急減とともにそれも39%まで落ち込んだ。これはUNIXサーバーにもパソコン以上の激しい価格デフレが起こったからだ。

 とくにサン出荷台数の多いローエンドサーバーでは、ウィンドウズ、UNIXサーバー・オルタナティブ(代替)として人気急上昇のインテルLinuxサーバーがサン牙城を崩し始めた。

 サンはSPARC、Solarisというハード、ソフトで自社アーキテクチャにこだわり、有力メーカーとしては唯一、垂直統合型メーカーとして発展してきた。しかし自前ですべてを賄うサンは巨額な研究開発費(R&D)を必要とする。

 最盛期もサンR&Dは売上高比11%台で推移していたが、垂直統合型メーカーである限り、売上高急減でもこれを大幅に削減することはできない。結果的にR&Dは売上高比15%近くに達し、総利益の37%をも占め、サン赤字転落の大きな要因となった(Figure20)。

 サンは巨額R&D削減のためにも垂直統合でないビジネスモデルを求めなければならない。このような経営的課題解決のためにも、サンはこれまで距離を置いてきたR&Dプッシュの小さいLinux市場へ参入しなければならなかった。

■苦汁の選択でLinux市場へ参入

 米IDCは、02年世界で稼働するLinuxサーバーは350万台だが、05年には860万台にまで伸びると予測する。この間Linuxサーバーの伸び率は倍増以上の146%と、ウィンドウズの61%を大きく上回る。また現在Linuxサーバーを使うユーザーの半数以上が、今後もLinux利用領域を拡大すると回答している(Figure21)。

 このようなLinux市場の拡大を横目で見て、また自社ローエンドサーバーが低価格インテルLinuxサーバーに浸食されるサンは、02年8月にインテルLinuxサーバーを発売して、同市場へ参入した。そして同社は02年9月にLinuxではサーバーだけでなく、ウィンドウズ代替も狙ってデスクトップ市場へも参入すると発表した(Figure22)。

 さらにサンのスコット・マクネリー会長はLinuxでモバイルパソコン、PDAへも参入することを表明した。サンはハードすべての分野にLinuxモデルを投入する。米ギガ・インフォメーション・グループのチーフアナリスト、ロブ・エンダール氏はサンLinux戦略について次のように分析した。

「サンがLinuxへ参入しなければ、デル、HPなどのLinuxサーバーがサンSolaris牙城をどんどん崩す。サンは対抗上Linuxサーバーを投入せざるを得ない。しかし、Linux市場へ参入すれば、サンは自らの手で自社Solaris市場を崩してしまうことになる。このようにサンは二律背反の苦しい決断を迫られ、遂にLinux採用の道を選んだ」。

■ついに放棄したシングルアーキテクチャ

 サンはこれまで固執し続けたSPARC、Solarisのシングルアーキテクチャを放棄して、自社アーキテクチャとともにLinuxも併存させることになった。

 それは大市場のIT投資大幅削減、ローエンドのインテルLinuxサーバーによる激しい浸食、UNIXサーバーの価格デフレ、R&Dの削減、ユーザーITインフラがウィンドウズ、UNIX、Linux混合のマルチアーキテクチャ時代へ突入したなど、サンにとっては苦しい環境がより厳しくなったからだ(Figure23)。

 IBMのサム・パルミザーノCEOは、「UNIXのデ・ファクト・スタンダードはこれまでのサンSolarisから、オープンソースのLinuxに急速に移行している。このメインストリームにはサンも抵抗のしようがない。このためサンはLinux市場へ参入せざるを得なかった」と長年のライバルの変身を語る。

 サンのマクネリー会長は、「3つのバブル崩壊でIT市場は長い不況に陥った。この回復時期を自分は予想することはできない」と前置きして、自社Linux戦略について次のように説明した(Figure24)。

「LinuxはUNIXの親類であり、UNIXトップのサンがLinux市場でのプレゼンスを高めるのは当然の成り行きだ。サンLinuxサーバーは必要ソフトを全てバンドルしており、システムインテグレータ(SIer)が必要なソフトを別々に調達してその動作検証をする必要もない。この意味で、サンはLinux唯一のワンストップ型ディストリビュータである。また司法省すら崩せなかったマイクロソフトの独占解放をサンはLinuxパソコン投入で実現する」

 しかしこれまでもシンクライアントは大きな市場を形成していない(Figure22)。

 ギガはサンLinux戦略について次のように分析する。

「ハイエンドサーバーではIBMのエンタープライズLinuxにサンSolarisは苦戦を強いられる。ローエンドサーバーではデル、HPなど競合も先行しており、サンが優位性を発揮するのは難しい」

 サンはIT不況対策として、自社シングルアーキテクチャの放棄まで決断した。しかし、サンがLinuxパソコンまで発表すると、米ナスダック市場はサン株価を危険水域の2ドル台まで引き下げてしまった。市場も総合的評価としてサンLinux戦略を危惧しているといえるだろう。
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