OVER VIEW

<OVER VIEW>サーバー新戦略を展開するIBM Chapter3

2002/11/18 16:18

週刊BCN 2002年11月18日vol.966掲載

 IBMサーバー戦略究極の狙いは、次世代エンタープライズコンピューティングの従量制料金サービス「e-ビジネス・オン・デマンド」の基盤となる商用グリッドコンピューティング実現である。グリッドではもはやオペレーターによるシステム管理は困難となるので、人体の自律神経のような自己管理機能をもつオートノミックコンピューティングが必要となる。このための技術開発を行うプロジェクト「eLiza(イライザ)」をIBMは推進している。既にその成果の一部はIBMサーバーに搭載され始めている。(中野英嗣)

オートノミックで商用グリッド時代を推進

■構成コンポーネント階層を全サーバーで共通化

 IBMは世界サーバー出荷金額ではヒューレット・パッカード(HP)を僅かに押えて1位ではあるが、台数ではHP、デルの後塵を拝している。

 米国ではメインフレームを除く主力サーバーUNIXでIBMがサンに大きく引き離され、出荷台数が圧倒的に多いIA-32サーバーの14%にも達しているインテルLinuxサーバー出荷台数でもHP、デルの2分の1程度だ。

 従ってあらゆる企業規模のeビジネスインフラとなったサーバー市場で、IBMはUNIXではサン、IAではHP、デルを急迫しなければならない。

 IBMは、eビジネスソリューションを構築するサーバーはパフォーマンスや特徴の異なる多くのモデルが必要であると主張する。このためIBM eServerではメインフレーム「zSeries」、UNIXサーバー「pSeries」、ミッドサーバー「iSeries」、IAサーバー「xSeries」の4シリーズを擁し、その共通OSとしてLinuxを採用した。

 IBMはeビジネスが求めるソリューション条件から、今後とも現行ファミリー体系を継続する方針を貫いている。更に同社はネットワーク型ストレージもサーバーファミリーに加えることも示唆している。従って4モデル併存方針でIBMはOSの共通化とともに、ハードとミドルウェアの次世代共通コンポーネント階層を公表している。

 IBMは全サーバーファミリー構成要素の共通化によって開発費を含めたコスト削減を推進すると同時に、大小さまざまなサーバーをグリッドコンピューティングに組み込める準備を進めていると考えられよう。

■TCO削減のための2つのブレード概念

 IBMは、eビジネスインフラでは、管理コストを含むTCO削減のためにもサーバー、ストレージなどの統合(インテグレーテッドインフラ)が重要であると主張する。IBMは次世代サーバー・トレンド・ベクトルの1つとして、超高密プレレーデッドサーバーをあげる。

 IBMは管理コスト、物理的スペース極小化を狙うブレードではバーチャル(仮想的)、フィジカル(物理的)の2つの考え方を示している。バーチャルとは、サーバー内部を複数パーティションに分割するロジカルパーティション(LPAR)手法を指す。この手法は、代表的にはメインフレームなどで、数多くの既設サーバーコンソリデーション(統合)を実現している。

 IBMメインフレームは最大4000パーティション分割も可能といわれている。一方フィジカルはいわゆるブレードサーバーだ。IBMもブレードサーバー「BladeCenter」を発表している。このサーバーは1装置内に14ブレードが収納できる。

 IBMはブレードの使い方として、1ラックでウェブ、コラボレーション、ターミナルサービス、ファイルサービスに特化した数多くのブレードを収納できることを例示する。IBMサーバーファミリーはこのフィジカルブレードをローエンドとして、ハイエンドにはメインフレームzSeriesがIBMフラッグシップサーバーとして今後も存続する。

 IBMはフラッグシップサーバー、メインフレームの役割は現在の「堅牢なeビシネスソリューション構築」から次世代は、従量制料金のネットワーク・アウトソーシング「eビジネス・オン・デマンド基盤」に移ると説明する。

■オートノミックコンピューティングで商用グリッドを

 IBMはeビジネスソリューションが高度化・複雑化するにつれ、その管理コストも急上昇しており、これを解決する技術が必要と説明する。この問題解決のため同社はサーバー、ストレージ、ミドルウェア、クライアントの自己構成、自己治癒、自己最適化、自己防衛の4機能を開発するプロジェクト「eLiza」を01年に発表した。

 IBMは、管理コスト削減のためにはオペレータ介在をできるだけ排除し、すべての管理をシステム自身が可能とする技術開発が必要であると説く。eLizaとは「電子的トカゲ」を意味するIBMの造語である。

 IBMによると、eLizaは2つの意味に解釈できる。トカゲは何度尻尾を切られても再生する強い生命力をもつ。従って、第1にはトカゲのように自己再生力の強いシステム開発を目指すという意味だ。

 第2は現在の技術で目指せる電子頭脳はせいぜいトカゲ程度なので、IBMは現行技術での最高IT開発を狙うという意味だ。さらにeLizaで開発された技術を統合して、オートノミック(自律的)コンピューティング開発を発表した。

 同社は「人体は自律神経系がさまざまな機能を調節している。この人間の自律神経系をITシステムに適用する意味で、これをオートノミック(自律的)と呼ぶ」とその意図を説明した。

 IBMがオートノミックで目指すのは、(1)無停止プロセッサ、(2)自動負荷管理、(3)システム侵入者発見、(4)自動サービスだ。

 00年秋、IBMが全サーバーファミリーをeServerにリブランディングして新しいサーバー像を示してからのIBMサーバー開発戦略は、共通OSとしてのLinux採用に始まり、プロジェクトeLiza、オートノミックコンピューティング開発へと拡大してきた。

 そしてIBMはこれら開発成果をベースに次世代コンピューティング開発へ邁進している。そしてIBMはこれら開発成果をベースに次世代コンピューティングインフラ「グリッド構築」という究極の狙いを明確にした。

 ネットワークに接続された多数のサーバー間で余剰プロセッシングパワーを供給し合うグリッドコンピューティングでは、もはや人間の介在による管理は不可能であるからだ。現在、日米の大学、研究所などで実用化を迎えたグリッドは、科学・研究分野の超スパコン機能を実現した。このグリッドは急速に商用化時代を迎え、エンタープライズコンピューティングはこの商用グリッドを活用する方向に移行すると、IBMは説明する。IBMはeLiza技術をまずメインフレームに搭載し、順次これを全サーバーに拡大して、すべてのIBMサーバーをグリッド基盤に組み込めるようにすることを狙っている。
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