OVER VIEW

<OVER VIEW>不況からの出口見えなかった02年世界IT市場 Chapter2

2002/12/09 16:18

週刊BCN 2002年12月09日vol.969掲載

 世界的IT不況を端的に物語るのは、半導体市場の縮小だ。01年、02年ともにピークの00年比で30%以上の落ち込みだ。パソコン出荷も世界的に低迷し、わが国の落ち込みはさらに厳しい。ITハードで価格破壊が激しいのは高額なサーバーで、02年世界市場はピーク比30%以上の減少だ。サーバーなどの価格下落はITサービス価格に直ちに飛び火し、ITサービス利益率低下をプッシュする。わが国IT投資も経済低迷と世界動向が影響し始め、02年国内投資も前年比1%増にとどまる。(中野英嗣)

数字が実証する不振の世界IT市場

■多くの要因が絡み合う世界的IT不況

 00年秋口からの世界的IT不況は同時期に発生した世界的経済低迷が影響したと考えられていた。しかし、長い間不況からの出口が見えないことで、今回のIT不況は従来の景気・需要循環論では説明しきれない多数の要因が絡んでいることが次第に明白になった。今回の不況は同時多発テロというスポット要因もあるが、このほかに需要循環、構造的IT市場縮小要因が複雑に絡み合う。

 今回のIT不況が始まった頃には、ドットコム崩壊が大きな原因と考えられていた。先進諸国でのパソコン、携帯電話のサチュレーションも明白だ。また00年まで米国では伝統企業までがネットバブルに躍って過剰IT投資を繰り返し、この過剰解消に相当長期間必要なことも米国不況の大きな要因だ。

 しかし今回のIT不況で注目すべきは市場の構造的縮小要因だ。欧米テレコム業界の巨額負債増、通信帯域需要減、通信の過剰設備もIT投資を抑える。しかし基本的にはパソコン、レガシー・アプリケーションに代わる新しいIT機器やアプリケーションの出現とその普及が遅れていることが指摘できる。

 さらに次世代eビジネスの中核、ウェブサービスもまだ検証中で、普及開始も当初予想よりも大幅に遅れ、IT業界の期待を裏切った。IBMもウェブサービスは次世代IT「グリッドコンピューティング」を基盤とすると説明しているからだ。

 また新しいIT需要の誕生が見えないうち、IT業界がユーザーのTCO削減ソリューションを提供し、それがきわめて効果であり普及を加速したことも構造的不況の大きな要因だ。とくにTCO削減のサーバーコンソリデーション(サーバー統合)は世界のエンタープライズで普及した。これにIT投資効果(ROI)追求気運が高まり、ROIの明確でないIT投資は先送りされている。もちろんパソコン、サーバーなどの激しい価格デフレは今後も続く、市場縮小要因だ。

 そしてIBMのユーザーの要請に即応する「オン・デマンド」方式のコンピューティングスタイルへのシフトを加速する戦略発表もあって、企業ITがこれまでの個別の「所有」から、共用IT(シェアドIT)の「利用」へと移るトレンドも明確になり、これが世界的にIT投資を強く抑制していることも見逃せない。

■半導体市場、大きな落ち込み

 パソコンや携帯電話の出荷よりも、世界のIT不況をより明確に示すのが世界半導体市場だ。

 パソコンなどは流通在庫も大きく、メーカー出荷と市場動向にズレが生じる。しかし半導体は価格変動が激しく需要と出荷が直結し、市場を語る証となるからだ。00年に世界半導体出荷はピークの2050億ドルであったが、01年に前年比32%減、今年も横這いで、回復に向かうのは03年からで、ピーク時に戻るのは04年以降になると考えられている。

 半導体の地域別需要動向を見ると、日本や米国、欧州の落ち込みが続くなか、日本を除くアジア・太平洋のみが大きく伸びる。これは、電子機器生産が中国にシフトしていることを物語ると同時に、DVDプレーヤーなどに続いて、パソコンなどの価格破壊がますます強くなることを予兆させる。DVDプレーヤーは生産基地がわが国から中国に移ったことで、米国での価格がたちまち6分の1になったという事実があるからだ。

 世界、国内のパソコン出荷も低空飛行が続く。世界パソコン出荷台数は00年まで年2ケタ成長だったが、01年に4.2%減、02年予測も当初の4.7%増から下方修正され、横這いか微減と予測され、四半期単位でも低空飛行だ。

 最近の国内パソコン市場は世界よりもさらに厳しく、02年度はピーク時00年比で台数は21.1%減、金額で23.1%減と予測される。

 既にパソコンは先進国では市場サチュレーション状況となっており、今後とも大きな回復基調は期待できない。

■価格破壊が激しいサーバー

 現在、世界的にパソコン、サーバー市場は出荷台数よりも価格破壊によって大きな打撃を受けている。とくにサーバーは単価が高いだけに価格破壊が激しい。01年米国サーバー単価はインテル、UNIXを含めて単価は16.7%減(IDC)で、02年も単価の2ケタ減が続く。これによって世界サーバー出荷金額は00年を100とする指数で、01年は17.3%減、02年1-6月も18.2%減で、出荷金額はピーク時00年比で32.4%も減少した。

 世界に比べると国内出荷金額減少は緩やかだが、01年に7.7%減、02年も前年比8.6%減で、ピーク時比15.6%減となる。

 これによって、世界を市場とするIBM、ヒューレット・パッカード(HP)のサーバー、ストレージを含むエンタープライズシステムの売上高も大きく落ち込んでいる。直近9か月の売上高を見ると、IBMは12.6%減、HPはコンパックを合算して23.6%減と大きく落ち込んでいる。

 サーバーの価格破壊を促進したのはIBMメインフレームだった。IBMによると、93年にメインフレーム1MIPS当たりの単価は6万3000ドルだったが、7年後の00年には2500ドルと、96%も下落した(IBM)。

 メインフレーム価格下落を加速した技術革新はメインフレームに続いて高額・高性能UNIXサーバーにトランスファーされた。またインテルサーバーも高性能・大型化することでUNIXに適用されたサーバー技術が転用されるようになり、ここでの価格下落を加速する。

 サーバーなどのハード価格の下落は、これにとどまらず、直ちにITサービス単価下落に直結することに留意すべきだ。ユーザーはソリューション基盤となるハード価格下落によって、その上のソリューション開発予算も縮小してしまうからだ。

 EDSのディック・ブラウン会長は、「UNIXサーバーの単価下落が米国におけるサービス単価の30%減をもたらした」と語る。米ハイテク調査会社IDCは、02年わが国IT投資の前年比を当初の5.1%増から1.3%増に下方修正した。

 わが国市場も世界的不況を徐々に受け始めた。わが国でもハード投資が大きく減少するなか、サービス、ソフトは5%台の増加が予測される。
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