「なぜ他県では、光ファイバー網の自設にこだわるのか分からない。将来にわたる運営コストを考えたら県民の負担を減らすためにも、民間活力を生かすためにも借り上げの方が有利」――。島根県庁の地域ネットワーク政策担当者はそう宣言する。島根県内の光ファイバー網は全てがNTT西日本か中国電力系のネットワークを活用している。基幹ネットワークだけではない、各市町村を結ぶファイバー網も民間回線を利用するという徹底ぶり。「島根方式」と呼ばれる、島根県が独自の発想で進めるネットワーク運営を取材した。(川井直樹)

すべて借り上げ回線利用、「島根方式」に自信 ブロードバンド接続カバー率は来年度95%に

■無線方式から転換、1年3か月で全県IP網完成

 島根県庁総務部情報政策課の鴨木朗課長補佐の元には、これからネットワーク整備を行い、地域情報化を一気に進めたいと思う各県の担当者が訪れるという。「どうすれば島根県のようなネットワークが構築できるか詳らかにできるわけではないが、われわれの取り組みを説明すると皆さん納得して帰る」と胸を張る。

 島根県の光ファイバーによる全県IP網の整備状況は、2002年6月の段階で59市町村の全ての接続を完了し、整備率100%は青森県と並んで「全国1位」。大阪府で97%、東京都でも84%であり、中国地方のIT化先進県である岡山県の40%をはるかに上回っている。

 また、今年10月にまとめた、県下の各家庭でのブロードバンド接続を目指した「全県高速インターネット環境」の接続状況は、02年度中までに49市町村で、03年度には残り10町村の接続を完了する予定だ。世帯数でいうと今年度末までには県下約25万8000世帯に対し24万4000世帯でブロードバンド接続が可能になり、カバー率は95%に達する。

 他県に比べ急速な通信インフラ整備が可能になったのは、「回線の借り上げで民間の力を活用したから」(鴨木課長補佐)という。光ファイバー網自体はNTT西日本のネットワークと中国電力系の中国通信ネットワーク(CTNet)のネットワークを使用する。

 島根県が全県ネットワーク整備に着手したのは95年から。最初は補助金事業による自設の無線ネットワークを構築する方針だった。しかし、無線の場合、法規制により防災目的にしか使用できないなどの制約がある。

 そのため、01年6月議会で澄田信義知事はこれまでの方針を180度転換し、民間回線の利用を表明。それからわずか1年3か月で全県IP網が完成した。

 同じ規模のネットワークを仮に島根県が主体になって設置した場合、「光ファイバーの敷設に100億円、工事期間は3-5年。さらに年間の運用経費は5-7億円必要になる」(鴨木課長補佐)が、民間ネットワークの利用で年間経費を2億円に抑えることができる。

 さらに、運用保守のための要員を県職員として確保しなくて済むこと、技術革新への対応の早さやセキュリティ対策など、自治体運営では十分ではない部分の対応がスピーディになるメリットがあるという。

 もっとも、全てを企業まかせというわけではない。県民が利用するブロードバンドネットワークは、既存のCATV網やADSL回線を利用する。アクセスポイント(AP)は県下各地のNTT交換局を活用し、県の助成事業で創業したISP(インターネット接続業者)が存在する。

 AP数は現在60か所。来年度には20か所加わり、計80か所となる。それぞれのISPは、「局舎の利用料金など直接経費を含めても、月4000円の接続料で100ユーザーを確保すれば運営できる」(鴨木課長補佐)という試算だ。

 民間のパワーを活用することで、全県IP網の構築と県民のブロードバンド接続環境は飛躍的に向上した。しかし、カバー率がどんなに向上しても、現在のブロードバンド利用率の実態は5%程度。

 鴨木課長補佐は、「来年には10%。2-3年で20-30%という目標だが…」と、その点ではややトーンダウンしてしまう。これではまるで“高速道路はつくったが、走る車がなかった”という状況に似てくる。また、県内で1町、島根町だけは、町内独自の光ファイバー網構築を角田成功町長が選挙公約に掲げ、県の政策とは一線を引いている。

■アプリケーションとコンテンツの充実に課題

 島根県庁の電子化計画自体は、他県と比較して大きくリードしているというわけではない。県庁では、03年度に総合文書管理システムの仮稼動を計画しているほか、電子入札・調達なども順次導入していく予定だ。

 しかし、県下各市町村のIT化の進捗状況は、「それぞれバラバラ。市町村合併の問題もあり、ほとんど県におまかせの状態」(福原保・総務部情報政策課課長補佐電子県庁担当)。

 結局はインフラ基盤ができても、利用するソフトやコンテンツが不足している、というのが実態だ。

 どこの県でも過疎地域のITネットワーク整備に頭を悩ませている。これは島根県でも同様だ。島根県の場合、そのために自治体が中心となって空白地域へのISP進出を図っている。

 空白を埋めるための「3点セット」としている施策は、(1)IT講習会の拡大実施、(2)アプリケーション開発と導入およびコンテンツの充実、(3)プロバイダの設備投資に対する費用負担。それでも、採算性が薄い地域にISPを誘致できるかどうか。また、各地域の利用者はISPをサービスに応じて選択できないというデメリットも生じる。

 島根県には中国地方で唯一、八束郡鹿島町に中国電力の「島根原子力発電所」がある。中国地方の他県から見れば、「原発があるため中国電力系のネットワークが充実している。離島に高速ネットワークを接続できるのもそのため」という冷めた見方もある。

 電力事業を所管する中国経済産業局でも、「地域ネットワークの充実を後押ししていることは事実」(中国経産局情報政策課)としている。

 自慢のブロードバンド接続環境を無駄にしないためにも、コンテンツの充実は最重要の課題。カバー率だけでなく利用率が向上しなければ、そこに参加している企業は収益率の悪化から撤退することもあり得る。その辺は、自治体の思惑と民間企業の思惑が大きく異なる点だ。


◆地場システム販社の自治体戦略

テクノプロジェクト

■事業活動は全国からグローバルに

 自治体IT化の推進によりビジネスを拡大しようと、大手ベンダーやシステムインテグレータが虎視眈々と狙っている。島根県松江市に本社を置く富士通系ベンダー、テクノプロジェクト(TPJ)の井原紀雄社長は、「競争は激しくなっていく一方だ」と危機感をもっている1人。

 TPJは、介護保険システムで島根県の大部分をカバーするなど、地元の有力システムインテグレータ。これまでにも、島根県や松江市などで自治体システム構築を手がけてきた実績があり、今年7月にはマツケイ(旧松江計算センター)を傘下に収めるなど、地元をガッチリと固めている。

 その一方で、「地元にとどまらず事業活動を拡大しなければならない」と語る。同社が開発した自治体ポータルシステム「i-City」は富士通にOEM(相手先ブランドによる生産)供給しており、富士通からの受託で開発した電子カルテシステムは島根県立中央病院で実用化した後に、聖路加病院、神奈川県立がんセンターなど有力病院で使用されている。

 さらに昨年6月には、中国・蘇州市に合弁会社、国信方舟軟件技術有限公司を設立しi-Cityの中国語版の開発・販売を行うなど、活動はグローバルに広がりつつある。

 もちろん地元自治体のIT化でも、事業チャンスを伺っている。

 「地元の雇用を確保し、地元産業を振興するという面も重要だ」と語るのは、大手に対抗できるノウハウをもつという自信の表れだ。