OVER VIEW

<OVER VIEW>不況からの出口見えなかった02年世界IT市場 Chapter3

2002/12/16 16:18

週刊BCN 2002年12月16日vol.970掲載

成長分野を見極める

 市場縮小下では、当然ベンダー間のカニバリズム(共食い)が激しくなり、各分野のシェア順位も急速に変化する。これはパソコンのデル、データベースのIBMのシェア上昇が証だ。ハードでも新しいブレードサーバー、Linuxサーバーの急伸長が予測される。また相変わらず市場拡大の牽引はITサービスである。ここでは急速に市場が拡大するセキュリティ分野もある。しかし、IBMの提唱した「オンデマンド」サービスが急速に普及すれば、サービスだけでなくITビジネスそのものが抜本的に変革する要因となる。(中野英嗣)

■市場縮小下、“共食い”でシェア激変

 2002年7-9月、世界パソコン出荷台数シェアで、Wintel市場で独走体制を固めたデルが16.0%を獲得し、02年5月にコンパックを買収したHPのシェア15.5%を上回って、瞬時にトップの座についた(Figure13)。

 当期間デルは出荷台数を23.3%増やしたのに対し、逆にHPは出荷台数を4.9%も減らし、たちまち逆転が起きた。市場が縮小下にあると、台数を伸ばす企業と減らす企業の格差がたちまち順位変動となって現れる。デル世界シェアは99年の10.5%から年を追って増え続けているのに対し、HP(コンパック台数を合算)とIBMはそれぞれシェアを大きく落としている。

 市場が順調に拡大している間は起こりにくいこのようなシェア逆転があるのも縮小市場の大きな特長である。わが国でも02年にパソコン出荷は大きく落ち込んでいるが、デルは国内でも大きく伸びているので、わが国パソコン市場の上位シェア争いでもデルの存在が国産勢の大きな脅威になりつつある。 パソコンだけでなく世界のデータベース・ソフトでも、これまで圧倒的にトップであったオラクルにIBMが肉薄している。オラクルは否定するが一部の調査ではIBMのトップも報告されている。このようにデルはパソコン市場のカニバリズム(共食い)で、完全にHP、IBM市場を侵食しているといえるだろう。Wintel市場ではパソコンに続き、インテルサーバーでもデルがトップに躍り出る日は近い。

■伸長期待される新しいサーバー

 IT不況でも今後市場が拡大するシーズは必ずある。現時点での市場規模が小さく目立たなくてもこれから大きな成長が見込まれる商品やサービス分野を見つけることは企業戦略策定上、重要な要件である。今回の世界的なIT不況は単純に需要循環の底にあるとは考えにくく、これは構造的不況と考えなければならない。従来、市場拡大を牽引してきた商品市場が回復し、再度牽引役に復帰するとは期待できないからだ。

 商品やサービス分野で今後伸長が大きいと期待されるものも多い。例えばサーバーではブレードサーバーと、Linuxサーバーだ。

 ブレードサーバーは02年にやっと多くの有力メーカーが投入した新参ハードで、Linuxもこれまでの市場牽引役ではなかった。IDCによると、02年の世界ブレードサーバー市場は1億3000万ドル(156億円)に過ぎないが、05年には02年の28倍、37億ドル(4550億円)まで伸びる(Figure14)。

 この伸長を見込んでIBM、デルもブレードサーバーを発売した。IBMはインテルと「ブレードサーバー世界標準」の策定に向けて共同開発を進める。狭隘なシャーシに高消費電力の高性能プロセッサを搭載できるようにし、当サーバーをローエンドからハイエンド市場へも進出できる基礎技術を開発する。 IBMはブレードサーバー概念はサーバー1台を多数のパーティションに分割するバーチャルと、ブレードサーバーのようなフィジカルがあると説明する。いずれも多数設置済みのサーバー群を1台に統合してTCO(システム導入の維持・管理費)を削減するソリューションとして期待される。

 またサーバーで大きな伸長が期待されるのがIA-32/64ベースのLinuxサーバーで、この世界設置台数は02年の350万台から年平均34.9%伸びて、05年には860万台になる(Figure15)。

 この間の純増510万台は年平均170万台となる。Linuxサーバーもこれまでも伸びてきたが、それはウェブシステムのフロントエッジとしての利用が圧倒的に多かった。しかし02年以降はエンタープライズLinux時代となり、企業のミッションクリティカル分野に進出する。当然、Linuxサーバーの伸長をビジネスに生かすにはLinuxのアプリケーション開発やサポートの体制を整えなくてはならない。

 この体制をもたないSIerは当然この市場へは参入できない。Linuxはウィンドウズ市場を侵食するというよりは、ローエンドUNIXサーバーのオルターナティブとなる公算が高い。このため、今後UNIXは微減が続く。実績の多いウィンドウズ市場を守るため、マイクロソフトも特定顧客へソースコードの1部を公開する「シェアドソース」戦略を進めて、Linuxに対抗する。

■相変わらず市場牽引はITサービス

 不況下、世界IT市場の拡大を牽引するのは03年以降もITサービスだ。03年からITサービスは年率8%前後伸びるとガートナーは予測する(Figure16)。

 ガートナーの発表するITサービス市場はビジネスコンサルティングなども含むため、IDC発表数字より常に大きい。この数字から見ると世界最大のサービス企業、IBMグローバルサービスの売上高350億ドルも、全市場の6%程度で寡占ベンダーはおらず、これから新ベンダーが躍進する余地は大きい。

 とくに、わが国は米国に次ぐITサービス市場をもつため、今後どのような分野でITサービスが伸びるかを見極めるのも重要だ。これからITサービスが大きく伸びる分野としては、ASPサービス、CRM、eラーニング、ビジネスインテリジェンスなどが挙げられる(Figure17)。また、ITセキュリティは規模、成長率ともに高い分野だ(Figure18)。

 小規模ながら、わが国メーカーが得意とする指紋や声紋、瞳虹彩などを認識するバイオメトリックス(生体認証)も注目される。これからのITサービス市場拡大の要因はアウトソーシング、システムの運用管理を受託するホスティングで、この延長線上にIBMが次世代中核ビジネスに位置づけた「オンデマンド」のユーティリティコンピューティングが浮上する。

 オンデマンドとは、顧客の要求に即応して、eビジネスプロセスとこの基盤となるITインフラをネットを介して提供するサービスだ。しかもサービス料金は使用したITインフラの従量制料金サービスで、これは電気など公共サービス(ユーティリティ)になぞらえて、ユーティリティ・コンピューティングとも呼ばれる。

 このオン・デマンドサービスがIBMの予想通り早期に立ち上がれば、顧客のIT活用は、これまでの「所有」からサービス事業者の共有(シェアド)ITの「利用」へと大きく変貌する。
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