中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>7.「ベストショア」求める世界

2003/02/17 20:43

週刊BCN 2003年02月17日vol.978掲載

 日本と中国のソフト産業の関わりを考える上では、世界、とりわけ米国と中国の関係を押さえておく必要がある。2003年は、世界的なITサービスベンダー2社が中国事業の強化に乗り出す。1社はIBMであり、もう1社はアクセンチュア。2社とも大連に新拠点を設ける。(坂口正憲)

 IBMの場合、深センに続く中国で2番目の開発拠点となる。当初500人の人員を05年には4000人まで増やし、中国最大拠点にする。まず、日本IBMの開発業務を請け負わせながら、本格的な開発拠点へ育てる方針だ。

 アクセンチュアの計画は、さらに壮大である。約24億円をかけてデータセンターを設立。アジア・太平洋地域の顧客に向けたアウトソーシングサービスの拠点にする。同時に研修センターを併設し、4年間で1万人の社員(技術者)を教育するという。全世界のITサービス業界で激しく競い合う大手2社が、奇しくも同じ時期、同じ大連で戦略的な開発拠点を設ける。これは何を意味するのか。それは、米国ベンダーが今後の世界戦略を考えた場合、中国を積極的に活用せざるを得ないからだろう。

 全世界的に、ITサービスに対するユーザー企業の価格要求が強まっている。それに応え、米国ベンダーは「ベストショア」戦略を打ち出している。オンショア(国内)に拘らず、人件費の安いオフショア(海外)を積極的に利用し、低コストな開発体制を整えるという意味である。

 その点では、米国ベンダーは従来からインドを利用してきた。例えば、ヒューレット・パッカード(HP)はインドに数千人の技術者を抱える。ただ、インフォシスなどインドの有力ソフト会社は、欧米のユーザー企業と直接取引し始めた。米国ベンダーが価格競争力を取り戻すには、インド以外の地域でも開発リソースを確保するしかない。中国はその有力な選択肢なのだ。

 米調査会社フォレスターリサーチによれば、05年には米国ITサービス産業の中で、50万人分の仕事がベストショアを求めて海外に移管される見通しだ。その何割かは中国に辿り着く。こうした潮流の中で、果たして日本のソフト産業は、ドメスティックを維持できるだろうか。
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