視点

産学連携の偉大な成果

2003/03/17 16:41

週刊BCN 2003年03月17日vol.982掲載

 いま何かと話題になっている基本ソフトのリナックス(Linux)は、そのルーツが産学連携の偉大な成果にあることをご存知だろうか。1965年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で、後世に多大な影響を与えた壮大なプロジェクトがスタートした。このプロジェクトに参加したのがベル研究所などの民間企業である。当時はコンピュータがまだ極めて高価で、一般の人には手が届く範囲になかった。そのコンピュータを家庭の電気、ガス、水道のように、誰でもが何時でも何処ででも使えるようにしようというのが、このプロジェクトの狙いであった。その思想は現在のユビキタスコンピューティングの考え方と全く同じである。

 このような目的を実現するために、プロジェクトが開発した基本ソフトがマルティックス(Multics)である。この中には現在でも広く使われている卓越したアイデアが多数盛り込まれていた。私は72年の初頭から1年間このプロジェクトに参加したが、システムはまだ盛んに改良や機能追加が行われていた。その熱気のすごさに圧倒されると同時に、産学連携の威力を実感した。マルティックスは規模が大きく、数年かかってもなかなか稼動しなかったので、業を煮やしたベル研究所の研究者たちは、途中で引き上げてしまった。そして、自分たちで小さいマルティックスをつくり始めた。それが72年に世に出たユニックス(UNIX)である。

 ユニックスはソースコード(設計仕様)が公開されたため、世界中のコンピュータに移植されて成長した。そして、ビジネスの大きな種となった。ソースコードが公開されているのであれば同じものはつくれるというわけで、フィンランドの大学生が91年に本当につくってしまったのがリナックスである。リナックスはパソコンで動作するようさらにコンパクトにつくられており、しかも無料で配布されたので、またたく間に広まった。

 MITの産学連携が生み出した独創的な成果は、親のマルティックスから、子のユニックスへ、そして孫のリナックスへと受け継がれた。親の代からおよそ40年後に、その孫はいまやユビキタス社会の一翼を担うまでに育った。本当の産学連携というのはこのようなものかもしれない。目先の成果も大切だが、わが国においても大きな構想と夢をもった長期的な産学連携に取り組む必要があるように思う。
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