視点

付加価値とV字回復

2003/04/07 16:41

週刊BCN 2003年04月07日vol.985掲載

 日本通信(三田聖二社長)は今年度(2004年3月期)、無線データ通信の利用者数を2倍の6万人に増やす。これにより、これまで売上全体の2割程度しかなかった無線データ通信の比率を半分にまで高める。

 米ウォール街のソロモン・スミス・バーニーなどは、世界IT産業は「成長産業」から投資を刺激しない「成熟産業」へ変容したと主張する。その根拠は、企業付加価値である国連貿易開発会議が定義する「企業版GDP」のIT業界全体の減少だ。わが国全上場企業の今3月期経常利益は、前年同期比70%増の16兆円強となり、ミクロ経済はまさにV字回復だ。一方、マクロのわが国景気は、底なしの不況が続く。このミクロとマクロの乖離も、企業版GDPが説明する。

 企業版GDPは、最終利益に税金、金利、販管費、社内発生の製造原価やR&D、設備投資償却などを加えた企業の全付加価値で、売上総利益より大きい。ハイテク大手の巨額赤字が相次いだ02年3月も、わが国全産業経常利益9兆5400億円は、99年より5000億円近くも多かった。しかし、付加価値59兆円は逆に同年より5兆円近く減少した。この間、産業界は人件費を2兆8000億円減らし、支払い金利も削減し経常利益を伸ばしたのだ。今年、企業業績のV字回復も、付加価値大幅減少のなか実現した。人員削減、事業売却などダウンサイジングで、企業は付加価値が減っても利益は一時的には増やせる。それは企業が使う経費を減らすからで、その大部分が常に人件費で、失業増となる。

 03年わが国産業界のV字回復は、一層の付加価値減少のなかでの現象で、ミクロとマクロの乖離はさらに大きくなった。ウォール街はわが国経済の乖離を説明する企業版GDP減少が、世界IT産業全体にも広がり、これが業界プレゼンス弱体化に直結したと説明する。ウォール街はIT業界は付加価値基盤の売上高や総利益が世界で大幅減少していることを指摘する。

 米有力IT企業で00年以降、付加価値をのばすのはマイクロソフトとデルだけだ。巨大企業IBMとヒューレット・パッカードの付加価値減少合計はここ2年で100億ドルを超え、“伸び組”であるマイクロソフトとデルの増加分で補填できるのはせいぜい30%程度だ。その他の世界IT企業のほとんどは、付加価値を大きく減らすので、世界の業界全体は大幅減少だ。現在、先進諸国はどこもマクロ経済に貢献する産業を待ち望む。今年3月、松下電器産業など国内AVベンダーの経常利益はV字回復した。これが付加価値増に裏付けされているならば、AVが世界ハイテク産業の救世主になるといえるのだが。
  • 1