日本各地で急速に地域情報化の整備が進められている。すでにバックボーンとしてギガビットネットワークを確立し、市町村レベルまでメガビットクラスの通信回線を張り巡らした自治体もあれば、これからNTTや電力系などの通信ネットワークを調達し構築しようという県もある。和歌山県の場合も後者のパターン。「黒潮ネットワーク」と呼ぶ県の出先機関や学校とのネットワークはあるものの、市町村レベルや民間での活用を目的にしたネットワークの整備はこれから。こうしたインフラ整備とともに市町村とのネットワーク構築など、和歌山県全体でのIT化推進を図っていくことが当面の課題だ。(川井直樹)

過疎地域に高速ネットワークを整備 県、市町村、事業者が1/3ずつ負担
 県のリーダーシップが頼みの綱

■ラスト・ワンマイルに頭痛める

 和歌山県が、県庁と出先機関を結ぶ黒潮ネットワークを構築したのは1990年。ほかの自治体に先駆けていた。その当時からこれまで、「結局、行政の需要だけで、その他の必要性がなかったため、高速のネットワーク整備という点で後発になってしまった」(雑賀忠仁・和歌山県企画部IT推進局情報政策課電子自治体推進班班長)というのが和歌山県の実情だ。

 しかし、e-Japan構想を実現するために、県だけでなく市町村レベルで電子化を進める必要が生まれたことで、最新技術の高速ネットワークの整備が急務になっている。

 和歌山県の選択も、民間事業者のネットワークサービスの活用だった。

 すでに、IT企業の誘致策「IHS(イノベーション・ホット・スプリング)構想」の指定地域である田辺市・白浜町で高速ネットワーク接続の必要性があった。また田辺市に来年春にIT総合センターが完成することもあり、01年度から本格的に高速情報ネットワーク構築の計画をスタートさせている。

 県内の情報スーパーハイウェイは実現のメドをつけた。「残るは…」と頭の痛い問題について語るのは、渡辺久晃・情報政策課長。「新しい情報ネットワークは民間開放を大前提に考えている、しかし、どこの県でも同様の問題を抱えているが、ラスト・ワンマイルをどうするかが難しい」。和歌山県は紀伊半島の南西部を占め、人口の多い市部は太平洋に面した海岸部に点在する。内陸部は山間地が占め、過疎化が進んでいる。

 当然のように、和歌山県第2の都市である田辺市をはじめとして、海岸部ではADSLなど高速アクセス環境を享受できるが、山間部になると世帯数が少ないこともあり通信事業者もそこまではサービスエリアを広げていない。電子自治体構築には住民が等しく情報インフラを活用できることが必要だ。

 そこで和歌山県は03年度事業として、過疎地域にADSLネットワークを構築するための補助事業をスタートさせた。「交換局整備などで1か所3000万円を想定し、県、市町村、事業者が3分の1ずつ負担する」(渡辺課長)というのが骨子。今年度は3局でADSL対応を実現する予定になっており、県の今年度予算で3000万円を計上した。

 このほかにも03年度当初予算では、電子県庁推進に約3億円、IHS構想に基づきリゾートでの無線LAN環境整備などに375万円、IT総合センターの建設に48億円強など、IT関連の予算については「厳しい財政でほかの予算が圧縮されるなかでは、比較的恵まれている」(渡辺課長)とし、県政レベルでのIT化を積極的に推進している。

 昨年夏に地方自治情報センター(LASDEC)が公募した補助金プロジェクトについて、和歌山県では市町村との電子申請の共同化の調査費用を獲得した。

 具体的な共同化事業については、「電子申請については市町村の賛同も得ている」(雑賀班長)としており、今後具体的な施策を検討していく。「どのような形になるかは検討課題。県内にはIDCをもっているソフト企業もあり、NTT局舎など既存の設備やIT総合センターの活用を含めて共同化の方向を探る」(渡辺課長)と、電子申請などフロントオフィスについてはスムーズな導入を図るためにも県主導でという考えをもっている様子だ。

■海南市、住民票などをインターネットで交付予約

 ただ県内の主だった市でも、IT化の必要性は理解していても、実際の推進活動に対する温度差は明確だ。IHS構想で「ITビジネスモデル地区」に指定された田辺市・白浜町の場合、「田辺市ではこれまでもテレトピア事業などを通じて情報化には積極的に取り組んできた」(小松実・田辺市総務部情報政策室長)というが、ITビジネスモデル地区選定という追い風がある半面、今後のIT化には「市町村合併の姿が変わってきており、システム検討も含めて難しくなっている」と語る。

 田辺市と白浜町、およびその周辺市町村の合併構想では、先に観光資源が豊富な白浜町が合併協議会から抜け、さらに2町が白浜町との合併を指向して離脱するなど枠組みが変化し、それが情報化という点にも影響している。「しかし、待ったなしの状況であることに変わりはない。今年度中には新市のシステムを検討しなければならない」(小松室長)と、県のIT施策との絡みもあって焦りは隠せない。

 一方、御坊市の山中久幸・総務部総務課情報化推進室長は、市の財政の問題やIT化計画はあっても合併などで思い通りには進捗しない状況から、「電子申請など新しい情報系システムについては県が音頭をとって進めていく方がいいだろう」という意見。「ただ、どういう形で実現していくかが難しい点。市部と村部では県民のニーズが違う面もあるだろう」というあたり、やはり地域インターネットの普及状況と利用する潜在人口のギャップが大きいと見ているようだ。

 和歌山県内の市で、電子申請についてどれだけのニーズがあるのか。その参考になるのが海南市のケースだ。海南市では地域インターネットの整備とともに、情報系ネットワークのアプリケーションの1つとして、住民票や印鑑証明などの交付予約をインターネットを通じて行えるようにした。

 日曜や窓口が閉まっている時間に、インターネットからアクセスして証明書の交付予約だけを行える仕組み。システム自体は地元ソフト企業のサイバーリンクスが開発したパッケージを用いている。

 もちろん、現段階では公的個人認証を取り入れMPN(マルチペイメントネットワーク)を利用するわけでもない。個人の確認は海南市に居住していることを示す、氏名、住所、電話番号といったデータで済ます。「電話での予約をネットでもできたら、というのが発想の原点。過渡期のシステムだが電子申請ができるようになるとこうなる、という庁内の意識を高める効果はある」(橋本伸木・海南市産業情報部情報システム課専門員)。

 ただ、パソコンの普及率が海南市の場合で20%程度ということもあり、「広報が足りないのかとも思うが、利用率は低い」という状況。高齢化もあって、さらにパソコンの普及率が低い過疎地域の農村部を対象とすると、電子申請の必要性については疑問をもつとしている。

  和歌山県の場合でも市町村合併の影響で、合併の中心となる市のレベルでも、情報系システムの導入に対する関心はそう高くないというのが実情のようだ。その意味でも、各市の担当者も県の動向に期待している、というより県の「情報政策頼み」という面は否定できない。


◆地場システム販社の自治体戦略

NEC

■地元ベンダーとの連係を密に

 全国的に見ても、和歌山県の電子自治体構築は2番手グループに位置している。先進のIT導入という点にポイントに置けば、後発組は、すでに実績のある最先端システムを活用できるメリットがある。

 「NECには、全国における先進事例のノウハウが豊富にある。その実績を活用できるだろう」と語るのは、中浜俊司・NEC和歌山支店長。関西支社傘下では、「和歌山県のITは遅れている方だ」と、ビジネスチャンスはこれからと意気込んでいる。「NECの和歌山県でのシェアは26%。IT化や合併にともなうシステム移行の需要は、この数字を押し上げるチャンスだ」というのがその背景にある。

 関西地区をみても、市町村合併により320自治体が半分以下になる見込み。それだけに、「短期間でのシステム構築が求められ、関西全体でのリソース配分が難しくなるだろう」という懸念材料もある。そのため、地元ベンダーとの連係を深めるとともに、「さらにベンダーの戦力拡充も図っていかなければならない」と、今後はアライアンスを含め地元ベンダーとの連係を重視していく考え。

 もちろん、ベンダーを活用していく根底にあるのが、「地域密着型で、それぞれのベンダーが得意分野をもち業績を伸ばしていくとともに、小回りの効く営業体制にする」ことが重要で、逆に言えばそういう分野がなければ生き残れない。

 そうした体制を作らなければ、地元の有力システムインテグレータに対抗してシェアアップどころか、逆に大幅にシェアを落とすことにもなりかねない。