中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>19.SARSの脅威に打ち勝つ

2003/05/19 20:43

週刊BCN 2003年05月19日vol.990掲載

 今号は、新型肺炎SARSの問題について触れてみたい。今や中国について語る際、避けては通れない問題である。ある大手システムインテグレータでは、いくつもの大型案件がストップしているという。同社は、中国に進出する日系製造業数社から生産管理関連のシステム開発を受注。昨年開設した現地法人を足掛かりに、今春から開発に着手する計画だった。ところがSARSの影響で、全社的に中国への渡航は禁止。体制が不十分な現地法人だけでは開発が進められない。(坂口正憲)

 急速に進んでいた中国企業への開発委託にも影響が出ている。中国事情に詳しいアルゴソフトの岡崎邦明社長は、「当社が関わる日本企業のアウトソーシング案件でも大きな影響が出ている。一番困るのは人が移動できないこと。日本からの出張だけでなく、中国国内の移動もかなり難しくなっている」と語る。

 開発を全面的に任せられる中国企業があったとしても問題は残る。仮に委託先企業からSARS感染者が出るとオフィスが一時的に閉鎖され、開発作業が停止する。「日本のクライアントは、委託先が突如業務停止になるリスクを考え、発注をためらっている」(中堅ソフト会社幹部)。ただ、むやみに大騒ぎするのは控えたい。以前、この連載で紹介したソフト会社、カナックの佐藤正克会長は、「予想していたほどの損害はない。日本企業が開発資源を海外調達する流れは変わらず、きちんと自社の安全対策を説明すれば、従来通りの取り引きが可能」という。

 カナックは、日本と中国の現地法人にSARS対策本部を設置し、対策を練ってきた。中国人社員に予防を徹底させるとともに、万一にも備える。仮に中国のオフィスが閉鎖された場合、社員が自宅で仕事を続行できるように、開発プログラムをサーバーで管理する。また、日中で技術者が交流できない分、日本でプロジェクトを管理するブリッジSE(システムエンジニア)の責任をより明確にして、通信によるコミュニケーションを深める。そのため、「特に開発作業に支障はない」という。ともあれ、SARSの脅威が早く終息するのを願いたいものだ。
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