全国規模で市町村合併が進められている。合併特例法の適用期限が残り2年を切り、情報システムの統合には、もはや十分な時間があるとはいえない状況になってきた。青森県の場合、合併対象の市町村の数が多い。すでに、法定協議会になっている八戸市を中心とした8市町村からなる「八戸地域合併協議会」をはじめ5つの法定協議会、弘前市を中心に14市町村で構成する「津軽南地域市町村合併協議会」など5つの任意協議会がある。合併に揺れる市町村の情報化事情を見た。(川井直樹)

合併へ着実に進む八戸地区、青森市IT化は計画に遅れ 財政難とリーダーシップに課題

■新市の拠点結ぶイントラ整備が急務

 大規模合併に向けて着々と検討が進む八戸地域合併協議会。情報システムの統合は、協議会の分科会組織で検討を進めている。すでに、任意協議会の段階から調査を進めてきたこともあり、「システム統合の具体的な方向性ははっきりしている」と、八戸市総務部情報政策課の玉田政光課長は語る。

 八戸地域合併協議会を構成するのは八戸市のほかに、田子町、名川町、南部町、階上町、福地村、南郷村、新郷村の7町村。このうち2町がそれぞれNEC、日立製作所のシステムを利用している以外は、全て富士通製のシステムを導入している。このため「基本的には住民情報や税、年金などは八戸市のシステムに統合することになっている」(玉田課長)という選択が最も妥当なところだろう。

 そのため、IT統合のコンサルティングは富士通総研に発注しており、統合システムについても自ずと担当する企業が決まってくることになるだろう。要は統合のために用意された時間の中で、最も効率的な方法を選択するしかないわけだ。

 その上で、「福祉や教育、図書館などのシステムに関しては、それぞれシステム化の時期が異なることもあり、8市町村で今後調整していく。合併にともなうIT統合の基本的な部分は考え方が一致しているので問題はない」(玉田課長)と見ている。

 早急に進めなければならないのは、既存の各町村の役場が支所になることから新市のイントラネットの拡充、つまりはインフラ整備なのだという。「合併することで新市の面積は八戸市の4倍になる。住民サービスの水準を落とさないためには、通信基盤の整備は重要」(池田和彦・八戸市総務部情報政策課IT推進班主任主査)と語る。

 合併により職員の所在地も分散する。情報システムの統合とともに、同じレベルの住民サービスを新市のどこでも享受できるようなインフラ整備も、合併によるIT統合では重要な項目の1つだと力説する。

 さらに、玉田課長は、「情報システムは自治体の多くの業務の基本部分になっている。各業務を検討している分科会との連係も必要で、早めに手を打たなければ情報システムの統合は間に合わない」と危機感を持って、議会の議決など合併までに必要な幾多の手続きの前に、準備だけは進めていく気構えだ。

 八戸市役所の新館は、1994年に発生した「三陸はるか沖地震」の際にダメージを受けた庁舎に代わって建築された。その中にコンピュータールームがある。過去、地震で被害を受けた経験から、最新の耐震設計の強固な建物の中に長年にわたって構築してきた情報システムが置かれている。

 合併後も、セキュリティが万全なここに基幹システムは収容することになるが、24時間365日稼動のシステムのために、「セキュリティが保証されれば、運用の民間委託についても検討していきたい」(玉田課長)という。重要なのは合併と並行して進む電子自治体構築で、住民サービスのレベルが低下しないこと。そして、より住民に利便性の高いシステムの構築に主眼を置いている。

■各課の業務改善意識に差

 一方、青森市の場合は合併構想があるといっても、隣接する浪岡町を吸収する形。しかも、研究会の域を出ていない。

 合併の影響が直接なくても、電子自治体構築への取り組みは困難がつきまとう。青森市は00年3月にいち早く、「青森市情報化計画-情報ACTIVE都市の実現を目指して」という情報化プランをまとめている。05年までに各種の庁内業務、住民サービス業務の電子化を完了する方針だ。しかし、「財政難で市の予算がカットされていることで、当初の計画に対しての進捗状況は芳しくない」と、他の自治体にも共通する悩みを青森市企画財政部情報政策課の相馬邦彦課長は嘆く。

 もともと青森市の情報システム担当は、システムの運用を主体として総務部の傘下にあり「情報管理課」の名称だった。しかし、電子自治体構築のニーズから企画調整の機能を持たせるために、企画財政部情報政策課に組織改編された経緯がある。

 現在でも同課のシステム運用担当は、コンピュータが置かれている市役所に隣接する別館にあるが、情報政策課の企画部門は市役所から車で約15分の距離にある第3セクター「ソフトアカデミーあおもり」内で活動している。

 企画調整を担当する部隊が本庁舎から離れた場所にあることも、仕事の上で障害になりそうだが、さらに各課における情報化に対する認識の違いも、電子化に影響を及ぼしているという。

 庁内の情報化を進めるため、IT講習を通じ各課に情報エキスパートを置くというのは多くの自治体が実施しており、青森市もその例に漏れない。この情報エキスパートが、各課の中でヘルプデスクの機能を持ったり、業務をIT化するための役割を担ったりする。また、各課のホームページの作成に関わったりという役割も持つ。

 しかし、申請書のダウンロードを実現したり、IT化による業務改善を実行するには、各課それぞれの意志が重視されるとともに、予算の裏づけも必要になるため、進捗状況はどうしてもまちまちになってしまう。

 藤田智・情報政策課主幹は、「青森市全体の情報化のための調整は情報政策課で進めているが、結局はそれぞれのヤル気の問題に負う面が大きい」と、現場の判断次第で情報化の進み方も変わってくることを指摘する。

 「業務に関わる知識や業務効率化のノウハウというのは、それぞれのセクションが持っている。情報化によりどのように業務を改善し、さらにワンストップ化の実現といった住民サービスの向上につなげる工夫は、各課が考えるのが最も説得力があるだろう」

 こう相馬課長が言うように、ある意味で古い習慣とも言うべき業務の流れを、そのノウハウを持ったところが積極的に改善していく必要がある。
 市町村合併にともなう情報システム統合が難しいのは、まさにそこにある。単独の自治体の中でも足並みを揃えるのが難しい作業を、異なる自治体間で検討し、調整してIT統合を実現しなければならない。

 中心となる市が率先してまとめ上げていくのが最も効率的な方法――とは八戸市の玉田情報政策課長も認めていることであり、リーダーシップの有無が重要なカギになるわけだ。


◆地場システム販社の自治体戦略

アイシーエス

■他県の合併案件も受注

 市町村合併による情報システムの統合ニーズは、システムインテグレータやベンダーにとって従来のユーザーを確保するという課題を抱えるとともに、新規のユーザーを獲得できるチャンスでもある。

 岩手県の自治体ビジネスでは80%以上のシェアを持つ第3セクターのアイシーエスも、青森県内の自治体合併を“虎視眈々”と狙っており、すでに五戸町と倉石村の情報システム統合ビジネスを獲得している。

「岩手県内の合併構想は青森県や秋田県に比べ遅れている。岩手県で本格化する前に合併ビジネスでの実績とノウハウを作るためにも、他県の情報システム統合ビジネスに手を挙げていく」

 合併支援プロジェクト統括と電子自治体システム開発プロジェクト統括を兼ねる富永俊夫・公共システム事業本部長は積極的だ。

 アイシーエスは、もともと岩手県内だけではなく宮城県北部や青森、秋田両県でも自治体の顧客を多く持っている。東北での市町村合併に本格的に対応していくために、4月1日付で合併支援プロジェクトを立ち上げ、顧客の確保とともに拡大にも乗り出しているわけだ。

 富永本部長は、「宮城、青森、秋田県内の合併にともなうIT統合ビジネスは、今夏から秋にかけて本格化し、それも集中するだろう」と見ており、「それをどう切り抜けていくかが課題」という。岩手県を中心に自治体ビジネスに圧倒的な強みを発揮しているだけに、大手ベンダーには負けられないという意気込みは強い。