e-Japan最前線

<e-Japan最前線>48.CIO補佐官

2003/06/16 16:18

週刊BCN 2003年06月16日vol.994掲載

 経済産業省が、政府機関の先陣を切って「CIO(情報化統括責任者)補佐官」の設置を決め、このほど外部専門家2人を配置した。7月に正式決定する予定の「電子政府構築計画(仮称)」の目玉となる施策で、他の政府機関でも順次設置していく。CIO補佐官とはどのような役割を担うのか。電子政府構築を支援するキーマンとなるのはもちろん、情報システム調達のエキスパートという新しい職能を確立する可能性もありそうだ。

情報システム調達の適正化目指す

 「CIO補佐官制度の導入に向けて、昨年6月にはITアソシエイト協議会を設置し、“ITアソシエイト”に必要な専門性や業務内容を検討するなど準備を進めてきた」(瓜生和久・商務情報政策局情報政策課課長補佐)。昨年12月に同協議会の中間報告もまとめられ、このITアソシエイトが名称を変え、CIO補佐官となった。CIO補佐官が導入されたのは、社会問題にもなった情報システムの政府調達を巡る安値落札問題が発端だった。経産省では、これを受けて2001年から政府調達プロセスの改善に向けた検討を開始。調達側の立場で、情報システムを評価できる専門的な人材を活用して、「調達管理の適正化」を図る必要性が指摘された。

 建設分野では、明治時代から公共発注者が自ら専門的な技術官僚を抱えて発注業務を行ってきたが、情報システム分野では民間の専門家を活用することにした。また、米国が進めていた情報システムの調達制度改革も影響した。93年に従来の情報システム構築プロジェクトの半数以上が失敗と判明、米政府は96年に「エンタープライズ・アーキテクチャー(EA)」に基づいて情報システムの再構築に着手する方針を打ち出した。日本では94年の行政情報化推進基本計画に基づいて本格的なIT投資が始まったが、複数の府省で重複して類似したシステムを導入したり、業務効率が十分に改善されていなかったりといった問題点が表面化。米国を参考にEAに基づいた情報システムの再構築を検討するなかで、業務改革と情報システムの両方に精通した専門家の支援が必要との認識が生まれた。

 CIO補佐官は、大きく2つの役割を担うことになる。1つは、各府省の業務改革部門と情報システム部門の責任者(課長クラス)に対して業務支援を行うこと。もう1つは、各府省のCIO(経産省の場合は事務次官)に対して報告や助言を行うことで、文字通り補佐官の役割である。経産省では、昨年度に実施したEAパイロットプロジェクトに、将来のCIO補佐官候補を幅広く選抜して参加してもらい、活動を通じて適性や能力などを見てきた。経産省のCIO補佐官に任命されたニューメディア開発協会の野村邦彦主任研究員(元日本IBM)、べリングポイント公共関連サービス事業部の葛西重雄シニアマネージャ両氏のほか、他の府省のCIO補佐官や補佐官をサポートするスタッフも、パイロットプロジェクトに参加した候補者から任命されるケースが多くなるとみられる。

 CIO補佐官制度は、情報システムの調達のあり方にも大きな影響を及ぼしそうだ。情報システム調達の適正化は公共部門だけでなく、民間部門にとっても重要だ。業務改革に精通した調達のエキスパートが育成されれば、民間でも活用の動きが出るだろう。経産省では、情報システムの開発プロジェクトを進ちょく状況に応じて適正に管理するためのEVMS(付加価値管理システム)の開発も検討している。ITベンダーへの丸投げも多かった情報システムの調達のあり方が大きく変わるきっかけとなりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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