OVER VIEW

<OVER VIEW>長引くIT不況の国内ハイテク決算総括 Chapter3

2003/06/16 16:18

週刊BCN 2003年06月16日vol.994掲載

 売上高減少が続くNEC、富士通などITメーカーと異なり、ソニー、松下電器産業などAV機器メーカーは増収増益基調だ。とくに松下の営業損益回復幅は前年比で3255億円とV字回復となった。AVメーカー平均売上高も前年比3%以上増で、デジタル家電時代を迎えるわが国AVはハイテクの牽引力となる期待も大きい。また、わが国が強い複写機などオフィス機器メーカーのキヤノン、リコーは不況知らずの好調決算を維持した。わが国AV、オフィス機器産業ではデジタルカメラが業績回復を引っ張るが、携帯電話は多くの課題を残す。(中野英嗣)

IT、AV機器、オフィス機器メーカー

■ハイテク産業も明暗分ける

 ハイテク産業を(1)東芝、日立製作所の総合電機、(2)NEC、富士通のITメーカー、(3)ソニー、松下電器産業、三洋、シャープのAVメーカー、(4)キヤノン、リコーのオフィス機器メーカーに分けて、それぞれカテゴリー別決算を見ると、堅調続くオフィス機器、V字回復のAV、回復基調の総合電機、苦戦続くITと表現できるだろう。

 ハイテク業界は世界的に最も顕著に価格デフレの影響を受けている。従って、各社決算を分析するうえで最も重要なのは、損益ではなく売上高の増減である。企業のリストラクチャリングによって、利益回復が見られても売上高が落ち込んだままでは、本業の回復とはいえない。

 上記分類で前年比売上高は総合電機2社平均がプラス3.4%、AV4社平均がプラス3.1%、オフィス機2社平均がプラス2.2%である。これに対して、NEC、富士通の平均売上高推移はマイナス7.9%で、ITメーカーの経営環境が厳しいことを物語る。

 AVメーカーは03年3月期決算でもソニーの売上高が松下電器産業を若干上回った。ソニーは1%台の減収であったが、松下は5%、三洋は8%、シャープは11%とそれぞれ売上高を伸ばした。

 営業損益で見ると、ソニー、三洋、シャープは35-48%と大幅な増益となった。松下は前年の営業損失1989億円から利益1265億円と、その回復幅は3255億円ときわめて大きい。従ってAV機器メーカーはリストラクチャリング効果だけでなく、本業でも強い回復基調にあるといえるだろう。

 また、経済分析では精密機器に分類されるキヤノン、リコーのオフィス機器メーカーもきわめて堅調な決算で不況知らずといえる。90年代後半からの世界的ハイテクデフレでも、この2社は増収増益を続けてきた。

 この2社の売上高純利益率は4-7%で、ハイテクメーカーとしては米IBMに匹敵する高さだ。AV機器、オフィス機器はわが国技術が世界を圧倒している。従って技術的リードを保てる産業は強いのである。これに対してITは、米国技術を採用する立場にあり、世界的に市場が縮小するなかで、わが国メーカーは苦戦を強いられるのは止むを得ないのかもしれない。

■コンテンツ指向のソニー、商品指向の松下

 ソニーのセグメント情報によると、エレクトロニクス、ゲームは減収増益、音楽は減収減益、映画、金融は増収増益である。

 エレクトロニクスではパソコン「バイオ」などの売上減によって減収となったが、デジタルカメラ、CCDなどの利益貢献によって、営業損益は前年損失12億円から414億円の利益を計上した。

 ゲームは欧米を中心にハード、ソフトともに販売数量が増加したが、各地域でハードの販売価格を戦略的に引き下げたことで、前年比5%の減収となった。プレステ2の出荷台数は前年の1807万台から2252万台と445万増えた。ゲームは減収であったが、ソフトの販売数量増とハードの継続的コストダウン効果により、297億円の増収となった。

 エレクトロニクスでは、売上減のパソコンと携帯電話が課題だ。デジタルカメラではわが国メーカーが圧倒的に強い。02年世界出荷台数は前年比70%増2455万台、金額は50%増8000億円でわが国のソニー、キヤノン、オリンパス、富士写真フイルムがそれぞれ20%前後の世界シェアをもつ4強だ。

 ソニーの課題となった携帯電話のエリクソンとの合併会社「ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーション」の02年出荷台数は2249万台と、トップ「ノキア」の6分の1程度にとどまり、税引前損失も4億400万ユーロ(525億円)と巨額である。

 松下のセグメントでAVCネットワーク、デバイス、アプライアンス(白物家電など)は増収増益だ。インダストリアル・イクイップメント(FA機器など)は減収であるが、赤字から黒字へと転換した。

 松下の強みはAVとデバイスであり、とくにデバイス売上高は前年比13%増となった。03年以降、国内主要都市では地上波デジタル放送も開始され、インターネット接続機能を備えたデジタルTV需要が増大する。

 デジタルTVでは松下、ソニーが共同開発のLinux OSが世界のデファクト・スタンダードとなる。この普及組織「デジタルLinuxフォーラム」にはほとんどの世界有力AVメーカーとIBMが参加している。同じAVメーカーでもソニーと松下の戦略は大きく異なることが、それぞれのセグメント情報から読み取れる。ソニー戦略はコンテンツ、エンターテインメント指向であるのに対し、松下はあくまでAVなどハード指向である。

■デジカメ伸びるキヤノン、増収増益を続けるリコー

 キヤノンのセグメントでは光学機器が2ケタの減収であるが、売上構成比75%の事務機が若干のプラスであることに加えて、カメラ部門が27%増収で全社増収基調を維持した。

 事務機ではコンピュータ周辺機器、情報通信機器が減収であったが、売上高の大きな複写機が5%増収で売上高を保った。同社はデジタルカメラの出荷台数を公表していないが、業界筋によると、02年キヤノンの出荷台数は富士写真フイルムを抜いてソニーを追う第2位に付けたようだ。

 リコーのセグメントでは、画像ソリューションが8%、ネットワークシステムソリューションが5%の減収だったが、ネットワークI/Oシステムが35%という大幅増収で、全社売上高前年比プラス4%と堅調に推移した。

 リコーは99年3月期から増収増益を続けており、この間の平均売上高伸長は5%、純利益伸長は24%ときわめて高い。キヤノン、リコーを代表とするわが国オフィス機器産業の課題は、世界のエンタープライズでのオフィス機器スタンドアロン利用からネットワーク化への移行にどう対応するかということだ。

 新しいコンテンツシステム「エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント」と呼ばれる統合システム構築に向い、ここでは複写機メーカーだけでなく、HP、IBMなど総合ITメーカーも強力な競合になる。
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