視点

電子自治体への道

2003/06/23 16:41

週刊BCN 2003年06月23日vol.995掲載

 政府のe-Japan戦略の影響で、最近は電子政府や電子自治体という言葉がマスコミにもよく登場するようになった。この分野は情報系の学界でも注目しており、例えば、米国で最も歴史が古く権威のある学会であるACMの機関誌が、今年の1月号で電子政府を特集として取り上げている。また、日本の情報系で最大の学会である情報処理学会でも、学会誌の今年5月号で電子政府を特集している。

 ACM1月号のある記事では、電子政府には2つの表現があるとしている。情報技術(IT)を単に政府のサービスに応用する場合を「e-ガバメント」といい、政府がITに基づいて基本的な役割を遂行するという、より大きな概念を「デジタルガバメント」と呼んでいる。わが国で行政の分野にコンピュータが導入され始めたのは、1960年代のはじめである。それはいわゆる行政情報化といわれるものであり、業務の能率化やサービスの向上が狙いである。現代の言葉でいうならe-ガバメントということになろう。行政情報化は目的が明確であったので、成果は着実に上がった。

 1980年代に入ると地域情報化のブームが起こった。ITを使って地域振興をやろうというのであるが、当時のITの水準が低かった、地域住民の情報に対する認識が低かった、目的が漠としていた、などの理由により、見るべき成果はほとんど得られなかった。1990年代後半になると電子政府や電子自治体への取り組みが始まったが、最近になってその動きが急に活発になってきた。その目指すところがデジタルガバメントであるなら、これは望ましいことである。しかし、はたしてそうであろうか。

 地域に住む者にとって電子自治体はとくに身近な問題である。その取り組みの様子を見ていると、単にe-ガバメントを指向しているだけのようにも思える。電子自治体とは、情報を高度に活用してさまざまな活動が展開される自立的な地域全体を指す広い概念のものでなければならないであろう。そこには、地域住民を顧客とする顧客志向や顧客満足度、地域経営と政策評価というような新しい発想が必要である。地域はいま、地方分権、市町村合併、電子自治体への移行など未来への模索で揺れている。新たな地域の創出には、デジタルガバメントの理念が必要なことはいうまでもない。
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