中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>25.中国ビジネスのリスク (3)人材流出

2003/06/30 20:43

週刊BCN 2003年06月30日vol.996掲載

 ソフト会社の資産といえば、製品と人材である。受託開発型の企業ならば、後者の比重が圧倒的に高い。多くのソフト会社にとって、中国ビジネスでも人材に関わる問題がリスクとなる。例えば、ある中堅ソフト会社A社の幹部はこう嘆く。「中国のエンジニアに対する教育投資3000万円は完全に無駄になった。それどころか、競合のために教育してやったようなもの」。(坂口正憲)

 A社は中国・上海に現地法人を設立した際、現地で20人のエンジニアを雇用した。日本語の研修を受けさせ、日本に招いてビジネス研修も実施した。ところが1年が経ち、そのエンジニアたちが日本語検定の1、2級を取得すると、バタバタと離職し始めた。その多くが日本語能力を売りに、別の日系企業に転職していたのだ。1人当たり150万円の投資が無駄になった。日本のソフト会社が中国に人材を求める場合、多くは人材に関わるリスクを軽減するためだ。人材に関わるコストを抑え、収益を拡大する狙いがある。

 人件費が高く、それに比例して募集・教育コストが割高な日本で人材を確保しても、その人材が利益に貢献するとは限らない。早々に離職して、投資が無駄になるケースも多い。特に中小ソフト会社では切実な問題だ。その点、中国でならば人材に関わるリスクは低い。人材が多少流動化しても、絶対コストは日本のそれと比べると小さい。ただ、そうは言っても現地社員の定着率が低く、人が常に入れ替わっているようでは、収益の拡大は見込めない。A社のように集団離職があれば、その投資ロスは決して小さくない。

 現地で人材を育てるには、国内から管理職を長期間派遣しなければならず、その管理職の人件費も加算される。また、ビジネスでは、実際に支出をともなう収益ロスとともに、機会ロスがある。本来なら人材が育ち、投資を回収するはずが、人材を失うとまた振り出しに戻ってしまう。中国ビジネスで人材流出のリスクを防ぎ、「優秀な人材を低コストで確保できる」(中国系ソフト会社幹部)という妙味を味わうためには、どのような体制が必要なのか。次号で先進企業の取り組みを紹介してみたい。
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