中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>32.中国の社会インフラを制すHP

2003/08/25 20:43

週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載

 中国政府が建設予定の上海-北京間の高速鉄道では、日本とドイツ、フランスが激しい受注競争を繰り広げている。国を挙げて「新幹線方式」を推す日本政府は今夏、売り込みに大臣までを派遣した。急ピッチで社会インフラを整備している中国は、あらゆる産業界にとって、最重要マーケットの1つとなっている。もちろん、それはIT産業にも言える。中国の社会インフラ分野で存在感が目立つのが米ヒューレット・パッカード(HP)である。(坂口正憲)

 HPの経営陣は2003年春の株主総会で、営業上の議題としては唯一、「中国ビジネスの方針」を取り上げ、株主に賛否を問うた。それだけHPの経営戦略にとって中国は重要なマーケットだ。例えば、約2億4000万人と世界最大の利用者を誇る中国の携帯電話網。その中で通信キャリア最大手であるチャイナモバイルとHPは、従来から戦略的提携を結んでおり、ハードウェア供給からネットワークの構築・運用、研究開発に関わる。

 2億人を超える利用者がいながら中国の携帯電話普及率は依然20%未満であり、拡大の余地は十分に残されている。HPにとって中国の携帯電話市場は、掛け替えのない魅力を持つ。

 さらに、HPは各方面の社会インフラ分野に食い込んでいる。この8月、米IBMがHPの顧客だったデンマークの玩具メーカー、レゴから「オンデマンド」の受注を決めたと大々的に発表した際、米メディアの取材に応じたHP幹部は、「最近の例では、中国省政府の税務署向けサービスでIBMを打ち負かしている」と、中国ビジネスでの戦果を誇示した。営業戦略上、極めて重要な案件だったことが伺える。HPは、用意周到に中国ビジネスに取り組んでいる。01年10月には、CMM5レベルのソフトウェア・ソリューションセンターを設立。1000人規模のエンジニア雇用をコミットしている。また、中国政府の方針であるLinux推進に対しても、HPはアマゾン・ドットコムなどで大規模開発の実績がある。中国政府がHPを“買う”のも納得ができる。逆に、社会インフラ分野で日本のITベンダーは決定的に出遅れている。「新幹線」のような強力な武器はないのだろうか。
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