視点

自動認識技術と個人情報

2003/09/08 16:41

週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載

 個人情報保護に関する法律が国会を通過し、5月30日に公布・施行されてから3カ月。2001年3月に提案されてから2年以上経過し、廃案等の紆余曲折の末である。しかも、5月30日に施行されたものは基本理念と国・地方の施策に関わる部分のみであって、民間分野の義務に関わる部分はこれから2年以内に施行されるという。我が国では行政機関が保有する個人情報の保護については既に規制が存在する。従って、今回は個人情報のデータベースを使用する民間事業者に対する新しい規制にその重点がある。

 しかしよくよく考えてみると、施行までの2年間に解決しなければならない問題が山積しているように思われる。個人が日常の経済活動をするに際して提供している情報は夥しい。自分が認識して書き込んでいる情報ならまだしも、最近は自動認識技術の発達により、利用者が意識せずに収集されている個人情報の量が飛躍的に増加している。更に、指紋・声紋・虹彩・遺伝子等のバイオメトリックスセンサー類の進歩と無線タグ・ICタグ・二次元バーコードの普及がこれを加速すると思われる。

 ひとたびネットで本を注文すれば、同じジャンルの書籍の紹介が次々と送られてくる時代である。またPOS情報でも個人別の趣向も解析できる。これだけ情報技術が発達すれば、消費者もリスクを認識していると思われるが、一方集積されたデータがどのように利用され、どのように流通するかということは気になる問題である。RFタグについて云えば、今年になって米ウォルマートがジレットとともに計画していた「スマート棚」が急遽中止になった。マイクロチップの刷り込みは個別商品の製造・在庫追跡・販売情報解析・代金請求・廃棄状態把握に至るまでSCM・CRMの有効な手段になる。

 しかしその後、イタリアの衣料品メーカー、ベネトンのシスレイ向けのチップ装着もCASPIAN(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering)というプライバシー保護団体から強い抗議を受けている。こういうことを考えると、自動認識によって生成される莫大なデータベースの量は、現在、金融業界・流通業界・信用情報業界がもっているデータベースの比ではない。個人情報の保護に関する法律が現実に機能する前に、世の中が変化してしまうことを恐れている。
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